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第1章

8.やっぱりダンジョン2階層はちょっと様子が違うようです

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「これはまた……」
 アレンダンの口から言葉が出た。手元のマップと見比べる。確かにマップの通りではあるが、2階層はとても……
「絶景だ」
 本来ならあり得ないのだろうが、ボルカノ火山の岩壁に大きな穴が空いている。そこから見えるのは美しい南国の海と空、そしてボルカノの街を一望できる。
(ダンジョンだからこその光景だろうな……)
 外では無いのに外が見えたり、場所的にはあり得ないのに水場などがあるのがダンジョンであり、『あり得ない』度合いが大きければ大きいほど、広く、不思議な力を秘めたダンジョンであるのが分かっている。
(だからこそ、わからん……)

 なぜ、ボルカノダンジョンの調査はこんなに進まないのだろう。

 なぜ、何十人もの『ボルカノダンジョンに潜ったはずの冒険者』たちが失踪したり、口を閉ざしたりしたのだろう。

 失踪だけなら、たまたまそういう状況になっただけ、という冒険者の方が多かった。
 逃げるようにボルカノを離れただけ。
 そして次に冒険者証を出したのが遠く離れた町や村だっただけ、という者たちが大半だった。それだけなら、それも冒険者の自由なのだからしょうがない。

 でも。

「この2階を超えた奴らのうち、そんで3階より先に行ったヤツは、確実に何かあったんだろうけど……」

 地元の者たちは、2階より下にはあまり行かないと聞いている。
 やや強い魔物が出るとか、空気が悪くなるとも聞いている。食べられる魔物が出ないと言うことが大きな原因なのだろうけれど。

「まず、2階をざっと見るか」

 2階より3階に思考が飛びそうになって、慌てて気を引き締めた。マップやさっきのファナ達の話では、こちらでもコウモリの魔物が出るらしい。

(入り口には、まずはあの泥パックになるって言う岩…いやあれは泥の塊っていうか……でもああ言うの、特産品としてうまいことやれば流行りそうだけどな)
 泥を使って汚れを落とす効果と、泥に含まれるらしい成分が肌に良いのだと力説されたのを思い出す。
 ダンジョンから算出するものをうまく利用して特産品に加工して稼ぐと言うのは、大抵のダンジョンで試みられているし、成功例も多い。5年も経ち、地元ではある程度定着しているのにそう言う流れにならないのには、理由があるのだろうが……
(鉱石はやっぱり多めだな)
 マップに地形や何か採れそうなポイントを書きつつ、思考はやや並行気味に幾つかグルグルまわる。アレンダンの癖のひとつ……こちらは割と使える癖だ。
 視線をくまなく、広く遠く飛ばしながら情報をいくつも同時に処理していく。集中しなくてはいけないし、あまり長い時間は使えない。もともと集中力と目は悪く無いし、なんとなく感覚的なものを索敵スキル持ちに教えてもらって、何度も何年も使う内にできるようになった、『索敵もどき』だ。
(スライム……コウモリもそんなにこっちを気にして無いな)
 ボルカノ特有の、灰やら岩石やらを内包したスライムたちは、のんびり岩陰でフルフル震えながら日光浴でもしているようだし、コウモリ達は明るいせいもあるのか、暗くなるポイントに固まっている。
(昼と夜とで違う……だろうな)
 ボルカノの住民達は、夜は入ることはないと言っていた。
 やはり、ある程度マップを作ったら、時間を変えて潜らなければならないだろう。
 30分ほどで、『ある程度出来ている』はずのギルド所有のマップは書き込みだらけになった。
(2階は、そんなに広く無い……いや、もしかしたら変化したかもしれん)
 マップに書き込まれていた広さよりは、少し狭く感じた。
 300メートル四方くらいと書いてあるのだが、それよりやや手狭に感じる。

 2階層の奥は、火山の中だと言うのに、10メートル四方ほど、何やら生い茂って草原の様になっている箇所がある。

 そして、その場所を探索している時に、それは出た。

「マンドラゴラとデコンが出る? デコンてなんだ?」
 前任者の走り書きを見て、聞きなれない単語に疑問符を並べていた時だった。

 ぼこん!

 目の前の土が盛り上がる。続けて、ぼこんぼこんともう2つ、30センチほどの何かが下から盛り上がってきた。

(3つは面倒だ……て言うか、気配が真面目になかったぞ⁉︎)

 アレンダンは慌てて構えた。
それは下からニョキニョキと葉をだして揺れ始める。

(ひとつはマンドラゴラに似てるが……でかいな。あと2つは……知らない形だ。あれがデコンか?)

 油断なく観察しつつ、作戦を考えた。もうちょっと詳しく書けよと前任者に文句を言うのも忘れない。

(マンドラゴラからやるか……?)
 マンドラゴラと思われる物の方は、なんと花まで咲き出した。
(抜くと煩いからなぁ……)
 耳栓は念のために胸のポケットに入れている。手早く耳に突っ込んだ。手で抜いてもいいが、数メートル離れているとはいえ側に正体不明の2株がいるので、それはちょっと現実的では無い。

(魔法で掘り出すか……)
 ゴニョゴニョと口の中で呪文を唱えた。
「土壁!」
 角度と大きさを考え、ジャストな位置とサイズの土壁が、マンドラゴラの真下から現れる。
「ギィヤァアああああああ……!」
 いつもの、なんとも言えない悲鳴が響き渡った。
(うえぇ……!)
 慌てて手元の剣を一本投げる。土の壁に半ば埋まったマンドラゴラの根に向かってそれは吸い込まれる様に飛んでいき、悲鳴は止んだ。

「うぇ⁉︎」

 思わず変な声が出たのは、側の2株がまるで『マンドラゴラの声がうるさい』とでも言うように、葉が下に潜り込んだからだった。

「へ……?」

 悲鳴が止んでしばらくすると、また葉が伸びてきてゆらゆらと揺れ出した。
 ソロソロと近づくと、下から白い根の部分らしいものがもりもりと這い出して来た。

「カブ……? の割にデカすぎるけど」

 カブの様なものには、マンドラゴラの様な手と足に見える突起が突き出ているが、どう見ても短い。そして、どう見ても黒いクリクリした目が、アレンダンを見つめた。

「デコンって、これ?」

 それは、テケテケと移動すると、アレンダンから2メートルほど離れて、また土に埋まった。固そうな土なので、おそらく土魔法の様なものが使えるのだろう。
 そして、また目と手を出してアレンダンを見つめて頭の葉っぱをゆらゆらさせた。

「……えええ」

 もうひと株の方も、さっきから同じようにゆらゆらして、アレンダンをのんびり見つめていた。
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