上 下
10 / 12
第1章

幕間〜ミクシと髪と櫛と猫

しおりを挟む
お久しぶりです。
投稿が途絶えている間も、お気に入り登録や誤字報告ありがとうございます。
少しずつ復活していくつもりです。
どうぞよろしくお願いします。
———————————————

 ボルカノ火山の降灰があると、髪の毛は潤いを失ってキシキシと絡む。
 髪を丁寧に洗ったのち、宿の従業員専用の風呂(これも温泉であるが)に浸かり、ミクシは溜息をついた。
「まあいいよね、あとで手入れすればいいんだから」
 適量の椿油と、それに漬け込んで手入れをしたツゲの櫛で丁寧に梳くことで、ミクシが密かに自慢にしている、コシの強い豊かな髪はツヤツヤになるのだ。
 ついでに顔や手、肘や膝も手に残った椿油で包み込むように保湿することで、降灰のダメージもケアできる。
(うーん……お兄さんにも椿油とか馬油とか、お勧めするべきかな)
 お兄さん=ギルドの立て直しに来たアレンダン。最近目に見えて日焼けして来た青年のことを思い出した。
(お肌のお手入れ品くらい持ってるとは思うけどさ。都会と同じものはボルカノだと高いんだよね)
 自分の宿で扱っているスキンケア用品の中には、王都や近隣の都市から取り寄せたものも一応ある事はあるのだが、輸送費やらのコストが高すぎて定価の2倍近い値段にしないと利益が全く出ない。
 そして、もうひとつ。王都ではどうやら数年前から肌を白くする効果がある、とたくさんの人に使われているらしい化粧品や化粧水の中には、ボルカノの温泉と相性の悪いものがある。
 ボルカノの温泉成分が肌に残ったままそれを使うと、効果が出過ぎて肌がピリピリと赤くなるのだ。
(まあ、ターンオーバー?とかの効果があるとか無いとかだけど、そのまま日焼けすると跡が出て来るらしい……だったよね)
 母が病死してから、そのあたりの商品管理までやるようになってからもう3年ほど。だいたい情報も頭の中に入って来た。ちなみにミクシは肌が強いのか、温泉入浴後にその化粧品を使っても、全く問題は出なかった。
「色白にもならなかったけどねえ……」
 ぽつりと呟くと、磨りガラス張りの扉の向こうに、茶色の塊の姿が伸び上がり、カリカリと硝子を引っ掻く音がする。
「イコモチどうかしたの~?」
「うなーぉ」
 返事をした猫のために、ザバリと浴槽から出た。髪の水気を軽く振り払い、裸身に大版のタオルを巻き付ける。
 扉を開けてやると、もふもふ茶トラの猫は風呂場の中をうろうろと歩き回り、洗い場の鏡に伝う結露を舐めていた。これはこの猫の謎のクセのひとつ。足の裏が濡れるのは嫌らしいが、どうも結露が気になるようだ。

 ラクシの目に、鏡に映る自身が見えた。やや小柄ではあるが、それなりに女性らしく出るところは出ているし、ツヤツヤと張りのある小麦色の肌は嫌いではない。
 にぱ!といつもの癖で笑顔を作り、棚の中の化粧水で肌を整える。

(そうそう、明日のお昼のメニュー、変更だったな)
 アレンダンがもらった食材を差し入れてくれたので、ちょっと豪華になる予定なのだ。
「ねえ、イコモチ。お兄さんは良い人だよねぇ」
「なーおぅ」
 少し濡らしてしまったらしい尻尾をぶんぶん振り回していた猫は、その尻尾をピンとのばした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...