【R18】筐庭の夏

臂りき

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第8話 夜の森の怪物

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 夜。

 黄昏時を裕に越えた、まごう事なき闇のとばり

 殊に森深い廃屋に届く光はなく、月明かりを欲し舞い飛ぶ虫たちの羽音すらここにはない。

 ――深淵へようこそ。

 不確かなあかりを求めて留まる愚かな虫が、扉を越えてやってきた。

 辺りを彷徨った電灯がついに一点を照らし、そこに小さな膨らみがあるのを認めた。

「加奈美ちゃん?」

 纏った物が邪魔と見え、全てを脱ぎ捨てた男は、ゆっくりとベッドの上に乗り込んだ。

「こんばんは、カズヤさん」

 乱暴に捲られたシーツの下に横たわる少女は、男同様の姿のまま股を開いて挑発した。

「加奈美ちゃん!」

 興奮し頭に血が上った男は少女の身体にのしかかり、無我夢中で全身をねぶり始めた。

「ああ、加奈美ちゃん……可愛いよ、かわいいよ……」

 だらしなく臀部から垣間見えた一物が見る見るうちにそそり立ち、貪る少女の身体に触れる。
 それと見た少女は、やっとの思いで男の体を両手で押し除け、その頬に言いわけのキスをした。

「わたし初めてなの。だから優しくして?」
 上目を遣い殊勝にねだる少女の姿に、男の喉が鳴る。

 若干の平静さを取り戻した男は少女に嫌われるのを恐れ、そのか細い腕に倒されるまま横になった。

「じっとしててね」

 少女は男が持ち合わせた懐中電灯を壁に向けて照らし、すかさず男の腹部に乗る。

「おっ」

 魅惑の詰まった小さな身体は男に向き、後ろ手が男の物を満遍なく撫で回す。
 屹立する物に、片手は雁首を、もう片方は根元を押さえて上下にしごき上げる。

 先端が更にふくれたのを股の間に確認し、今度は竿と同時に片手で睾丸を揉み始めた。

「加奈美ちゃんっ、すごくいいよ」

 しかし快楽に慣れ切った睾丸は一物の張りとは裏腹に、だらしなく陰嚢いんのうに垂れ下がっている。

「もういいよ」
 加奈美ちゃんはそれらを根元から引き上げ、僕に合図を送る。

「じゃあ、そろそろ入れよっか」
「うーん。それはないかな」

 『茎や葉を持ち上げ、できた隙間にすかさず刃を入れて引く』

 幾星霜。もうずっとこなしてきた動作をここで披露する。

「――ぅがぁああああ!!」

 男の断末魔が部屋中に響き渡る。

 手応えはあった。
 しかしそれは最初と中間くらいで終わり、最後は雑草ほどの粘り強さもなかった。

 刹那の間に噴き出た物が辺りに飛び散り、シーツに壁、少女の身体を汚した。
 それからは止めど無くだらだらと流れ出た。

「くそがぁあああ!! ぶっ殺してやる!!」

「ばーか」

 痛みに歪んだ男の顔が影になって激しく揺れる。
 片手で股間を押さえながら、見えない何者かに向かって闇雲に拳を振るった。

 込み上げる笑いを押し殺し、鎌と刈り取った汚物を袋に詰め、ベッドに置かれた懐中電灯に手を掛ける。

 その時、僕の視界が衝撃に大きく歪んだ。

 ――失敗した。

 がむしゃらに振るわれた男の拳が偶然にも僕の右目辺りを打ったのだ。
 情けなくあえぐ滑稽な男の姿に油断が過ぎたのかもしれない。

「くそやろぉ! ああっ……ぶっ殺して……ああっ」

 手に取った懐中電灯を小屋から外に放り捨て、靴を履いた裸の少女の手を取り、それとは逆の方へと走り出す。

 気づかれぬようそっと、緩やかに。

 廃屋から少し離れた木の陰から様子を窺う。

「いでぇ……ちくしょお……ちくしょおぅ……」

 暗闇の中、微かな光を求めて夜の虫が森に這い出た。

 股間を押さえながら、もう一方で闇を手探る男。
 上体をへの字に、腰をかがめて内股に歩く姿はまるで化け物だった。

 押さえる手から絶え間なく汚物を撒き散らす、夜の森の怪物けもの

 へっぴり腰が砕け、その場に転がるのを見届けた僕らは、村までの帰路を颯爽と駆け抜けた。

「あははははは!」

 誰もいないはずの森に、ただ僕らだけの盛大な笑い声がこだまする。

 道中、僕は手に提げた袋を崖の下へと投げ捨てた。

 今度は音すら返ってこない地獄の淵には、相変わらず樹々のざわめきが聴こえる。

        *

「ごめんね、翔太郎くん」
 お湯に濡れた加奈美ちゃんの手が優しく僕の右頬に触れる。

「大丈夫だよ。ありがとう」

 怪我をしたのは想定外だったが、それは全て僕の油断が招いたもの。
 だから加奈美ちゃんには感謝こそすれ、恨むことなど一つもない。
 むしろ加奈美ちゃんの協力なくしては為し得なかった。

 僕は健気な少女がたまらなく愛おしくなって、思わずその小さな頭を撫でる。

「えへへ。よかった」
 加奈美ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せ頬を紅潮させて笑った。

「あら、二人で楽しそうね」

 浴室の外から美咲さんが声を掛けてくる。
 どう答えたものかと手を取り合い、二人して目を合わせる。

 刹那の沈黙。

 密着した僕らの間を、シャワーの流れる音だけが満たした。

「後で私も入ろうかしら。早く上がって寝なさいね」

「はーい」

 何も答えることのない僕らをいぶかしむこともなく、美咲さんは着替えた衣服を洗濯機に集め、スイッチを入れてリビングに戻って行った。

 見合ったままの僕らはこの夜の、一連の出来事に胸を撫で下ろし、自然と唇を合わせた。

「翔太郎くん……お部屋に戻ろう?」

 しかし、この期に及んで尚も行為を求める少女のしたたかさと愛らしい仕草に、僕はたまらず貪るようにその唇を奪った。

 これが僕と加奈美ちゃんが初めて交わすキスだった。

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