38 / 44
35話 愉快な仲間たち
しおりを挟む「くそぉっ! 忌々しい劣等種共がぁ!」
遥か上空、鳥人にぶら下がった男が下界に向けて吐き捨てた。
二の腕を千切られ動かすことのできない二本を宙に揺らし、両肩を爪で掴まれ運ばれる姿はまるで捕食前の非力な獲物の姿に似ている。
「おいクソ鳥、もっと丁重に飛べないのか!? 餌を恵んでやってるのは誰だ!」
小心者の鳥人は男の罵声に小さな体をビクつかせる。
ただし、今や確固たる後ろ盾のある彼女にとって、かつて我が身を苛め抜いてきた男を必要以上に恐れることはなく、むしろ憐れみを抱くべき対象でしかなかった。
彼女はすでに優しさを兼ね備えた真の強者を知っている。
『――いやぁ、ご機嫌だねぇ』
「なっ、誰だ貴様は!?」
雲間に星々が瞬く夜空に己以外いないと高を括っていた男は、唐突に頭上から発せられた声に対し過敏に反応してしまう。
鳥人ハルが手に持つインカムは嬉々とした調子で続ける。
『君のことは前々から目に余ると思っていたんだがね。頼もしい助手を得たこともあって、ようやく着手することに決めたんだ』
「穏健派の者か!? やつらを差し向けたのも貴様の仕業か!」
『ふふ。今からどうしてやろうかと疼きが止まらないんだ。どうしてくれるんだい?』
声の主はノイズ交じりに溢れる変声を大音量で垂れ流した。
「貴様がネクロというのならば、私に手を上げることがどういうことか、分かっているんだろうな!?」
『――っはははははははは! 望むところじゃないか。いくらでも掛かってくるといい。むしろ探す手間が省けて有り難いくらいさ』
「バカな……多くのネクロを敵に回すんだぞ!?」
『……ふぅ。ハルくん、例の物を』
主の指示を受け、ハルは懐に入れた袋から一つの布を取り出す。それを徐にぶら下げた男の口にねじ込み、満足気に額の汗を拭った。
「――!? ふがふがふがぁああ!」
『はいはい嬉しくて声も出ないねぇ。どうだい、丸三日間履き続け私の股座で醸造させたパンツの味は? 実に芳しいものだろう――? ……この変態野郎が!!』
「!?」
男は主の理不尽な物言いに驚愕する。更に最悪なことに、この狂人にはどんな話も通用しないことが判明してしまった。
逃れようもない状況に置かれたことを悟った男は眩暈を覚えながらも、今後の立ち回りについて試案を始める。
『言っておくけど、君はもう私の玩具になることが決定している。おめでとう!』
「ふがっ!?」
拍手喝采。マイク越しに溢れんばかりの拍手と唸り声にも似たどよめきが起こる。
『聞こえるかい! 彼らは君の主人、いや、隣人となる者たちだ。うむ、いずれにせよ君の体は彼らの腹に納まるはずだから、その方がしっくりくる。じっくりと各部を味わってもらうといい――心配せずとも回復手段は複数用意されている。存分に楽しんでくれたまえよ!』
「ふ、ふがぁあああ!」
『うんうん、喜んでる喜んでる……はぁ。もし仮に君がこの状況を「楽しめない」と言うのなら、早急に考えを改めた方がいい。君はやり過ぎた。私の可愛い仲間たちを好き勝手に虐めてくれた分、たっぷりとお礼をしたいと思っている』
「ふっ、ふっ、ふがっ!」
もはや己の行く末が生き地獄のみにあることを確信した男は、形振り構わず全身を激しく揺すり、藻掻き倒し、無駄な抵抗を続行した。
『ありがとうっ! その身を培ってくれた万物、神々の御心に感謝! そして歓迎しよう! 決して終わることのない日々を、我々と享受しようじゃァないかっ!!』
『ぁぅあああああああああああああああああああ!!』
「ふがぁあああああああああああ――……!」
魔の城が闇夜に浮かぶ。
ゆったりと旋回する動きに合わせて、ぽっかりとその口が露わとなる。
『ははははははははははは――!!』
夜空に響く絶叫と狂気に満ちた歓声が思いの外美しい不協和音を奏でる。
これから男が目にする新たな世界は、果たして地獄となるか楽園となるか。
――神々を除いて、それは当事者のみが知るだろう。
10
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
アルカナセイド【ARCANUM;SEDO】
臂りき
ファンタジー
現代日本から転生した人々の手により捻じ曲げられた異世界『アルカナ』。
転生者たちはアルカナの世界にて前世での鬱憤を晴らすかのように他種族の排除、支配を繰り返し続けた。
果ては世界そのものを意のままにするため、彼らは浮遊島を生み出し大地はおろか空の安寧をも脅かした。
幾千年もの後、前世で不遇の死を遂げた若者たちの中から強大な力を持つ者<権能者>が現れ始めた。
権能者たちは各々に前世での時代背景は違えど、人が人を支配する世界の在り方に強い不安や怒りを抱いていた。
やがて権能者の内の一人、後に「大賢者」と呼ばれることとなる少女と仲間たちの手によって浮遊島は崩落した。
大賢者は再び世界に悲しみが訪れぬよう崩落の難を免れた地上の人々に教えを説いた。
彼女の教えは数百年もの時を重ね『魔術信奉書』として編纂されるに至った。
しかし人と人との争いが尽きることはなかった。
故に権能者たちは、かつて世界に存在しなかった<魔物>を生み出し、人々の統制を図った。
大賢者と最も親交の深かった権能者の少女は自らを<魔王>と名乗り、魔の軍勢を率いて人々に対抗した。
権能者やその意志を継ぐ者たちはアルカナの世界に留まらず、やがて異世界にまで影響を与える存在<ネクロシグネチャー>として世界の安寧を求め続けた。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる