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おまけ話色々
ハッピーホワイトデー
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カイルの胸に背中を預け、のんびりとしていると、バレンタインデーのチョコレートのお返しだというキャンディーをもらった。
そこは全然問題ない。
光沢のある白い包み紙を開けば、首に青いリボンを巻かれた四角いビンが現れ、中にはまるでピンクパールみたいな色形をしたキャンディーがたくさん入っていた。
そこも特に問題はない。
早速キャンディーを一粒口に入れると、甘い苺ミルクの味が口の中いっぱいに広がった。
そこまでもおかしなところは特にない。
(あれ……?)
アリシアは目をゆっくりと瞬かせた。
どうやらキャンディーにはほんの少しだけリキュールが入っているようだ。そこで初めて、どこか変だと思った。そして気がついた時には悪戯が成功した子供のように笑うカイルの顔がすぐ目と鼻の先にあって、当たり前のように唇が重なる。
つい反射的に目を閉じて口づけに応えたもののアリシアは内心、首を傾げた。
一ヵ月くらい前、というかバレンタインデーにも同じようなことがあった覚えがある。
あの時はどうなっていたっけ。思い出して、口づけをやめてもらおうとカイルの腕を力なく叩いた。
「待っ……ま、って」
ようやくわずかに口づけを逃れたアリシアは静止を求める。
でも分かっているはずなのに、カイルはアリシアの頬を包み込むと逃げないように支えた。まだそれなりの大きさを保っているキャンディーを、アリシアがうっかり飲み込んでしまわないよう巧みに気を配っているのも分かる。
待ってと言ったつもりが聞こえなかったのか、口づけはますます深まっていくばかりだった。
「ふ……ぅ」
すでにリキュールのアルコール分が回りはじめたのか、頭がぽうっとして来る。
このままではバレンタインデーの時と同じように、あっという間に酔ってしまう気がした。
それは避けたい。だから今すぐ口づけをやめて欲しいのに、カイルは言うことを聞いてくれそうになかった。
「だ、だめ……っ」
ふるふると首を振れば潤んだ涙がこぼれてカイルの指先を濡らす。
それでようやくカイルはアリシアが本当に嫌がっていることに気がついてくれたらしい。罰の悪そうな顔で唇を離し、涙を拭ってくれる。
「……ごめん、そんなにキスをするのが嫌だとは思ってなかった」
「ちが、違くて、そうじゃなくて」
呼吸を整えながらアリシアは俯いた。
まだキャンディーは口の中に残っている。それでも情熱的な口づけの間に、ずいぶんと小さくなっていた。
大人な甘さがする小さな塊を最後にゆっくりと噛み砕いて言葉を紡ぐ。
「私、前もだけど……酔っちゃう、から、それで」
耳まで真っ赤になった。
口づけをすること自体は嫌じゃないと白状させられているようなものだ。カイルもその意図に気がついたようで、先程より表情が明るくなっている。
しかもアリシアは、これからそれと同じくらい恥ずかしいことを面と向かって言わないといけないのだ。自分ばっかり、何だか不公平な気がする。
けれど、とりあえず今は気持ちを伝えないといけないことに変わりはない。アリシアは俯いたまま、恥ずかしさを少しでも誤魔化すように早口で言った。
「せっかく一緒にいるのに、酔って記憶なくなっちゃうのやだ。だから、お酒の入ってるものを口にしながら、キスは、したくないの……っ」
最後の方は堪え切れなくて消え入りがちになる。
頬が熱いのはリキュールのせいだ。息が、熱いのだって。
「酔って俺に甘えて来るアリシアも可愛いから見たいのに」
カイルもバレンタインデーの時の流れを覚えていて、わざと酔わせようとしているのはアリシアも薄々察してはいた。どうして酔わせようとしているのかだって、カイルの性格を考えると思い当たることはある。アリシアの反応を好ましく思ってくれているからだ。
まさかそんな、酔うと甘えまくっているとは思いもしなかったけれど。
「で、でもだめなのっ!」
「それじゃあ」
カイルは何かを思いついたようだった。
アリシアの唇を指先でなぞりながら微笑む。
「夜、ベッドに入る前ならいい?」
どきりとした。
身体も、熱を帯びている。
奥深い場所に灯った炎を見透かされたようで、アリシアはカイルを睨みつけた。でも全然効果などなくて、カイルはよりいっそうと愛しげに笑みを深めるだけだ。
「――カイルの、ばか」
「それがアリシアの答え?」
後ろから強く抱きすくめ、首筋をそっと啄む。
「ばか、ばか。まだお昼だから、だめ。夜になってから」
「うん。夜まではキスだけで我慢するよ」
「も……ばか」
悔しくてアリシアは自らカイルの唇を塞いだ。
でも少しだけ大人の味のする口づけは、嫌いじゃなかった。
もう四月に入っていて季節外れも良いところな話ですみません。
そこは全然問題ない。
光沢のある白い包み紙を開けば、首に青いリボンを巻かれた四角いビンが現れ、中にはまるでピンクパールみたいな色形をしたキャンディーがたくさん入っていた。
そこも特に問題はない。
早速キャンディーを一粒口に入れると、甘い苺ミルクの味が口の中いっぱいに広がった。
そこまでもおかしなところは特にない。
(あれ……?)
アリシアは目をゆっくりと瞬かせた。
どうやらキャンディーにはほんの少しだけリキュールが入っているようだ。そこで初めて、どこか変だと思った。そして気がついた時には悪戯が成功した子供のように笑うカイルの顔がすぐ目と鼻の先にあって、当たり前のように唇が重なる。
つい反射的に目を閉じて口づけに応えたもののアリシアは内心、首を傾げた。
一ヵ月くらい前、というかバレンタインデーにも同じようなことがあった覚えがある。
あの時はどうなっていたっけ。思い出して、口づけをやめてもらおうとカイルの腕を力なく叩いた。
「待っ……ま、って」
ようやくわずかに口づけを逃れたアリシアは静止を求める。
でも分かっているはずなのに、カイルはアリシアの頬を包み込むと逃げないように支えた。まだそれなりの大きさを保っているキャンディーを、アリシアがうっかり飲み込んでしまわないよう巧みに気を配っているのも分かる。
待ってと言ったつもりが聞こえなかったのか、口づけはますます深まっていくばかりだった。
「ふ……ぅ」
すでにリキュールのアルコール分が回りはじめたのか、頭がぽうっとして来る。
このままではバレンタインデーの時と同じように、あっという間に酔ってしまう気がした。
それは避けたい。だから今すぐ口づけをやめて欲しいのに、カイルは言うことを聞いてくれそうになかった。
「だ、だめ……っ」
ふるふると首を振れば潤んだ涙がこぼれてカイルの指先を濡らす。
それでようやくカイルはアリシアが本当に嫌がっていることに気がついてくれたらしい。罰の悪そうな顔で唇を離し、涙を拭ってくれる。
「……ごめん、そんなにキスをするのが嫌だとは思ってなかった」
「ちが、違くて、そうじゃなくて」
呼吸を整えながらアリシアは俯いた。
まだキャンディーは口の中に残っている。それでも情熱的な口づけの間に、ずいぶんと小さくなっていた。
大人な甘さがする小さな塊を最後にゆっくりと噛み砕いて言葉を紡ぐ。
「私、前もだけど……酔っちゃう、から、それで」
耳まで真っ赤になった。
口づけをすること自体は嫌じゃないと白状させられているようなものだ。カイルもその意図に気がついたようで、先程より表情が明るくなっている。
しかもアリシアは、これからそれと同じくらい恥ずかしいことを面と向かって言わないといけないのだ。自分ばっかり、何だか不公平な気がする。
けれど、とりあえず今は気持ちを伝えないといけないことに変わりはない。アリシアは俯いたまま、恥ずかしさを少しでも誤魔化すように早口で言った。
「せっかく一緒にいるのに、酔って記憶なくなっちゃうのやだ。だから、お酒の入ってるものを口にしながら、キスは、したくないの……っ」
最後の方は堪え切れなくて消え入りがちになる。
頬が熱いのはリキュールのせいだ。息が、熱いのだって。
「酔って俺に甘えて来るアリシアも可愛いから見たいのに」
カイルもバレンタインデーの時の流れを覚えていて、わざと酔わせようとしているのはアリシアも薄々察してはいた。どうして酔わせようとしているのかだって、カイルの性格を考えると思い当たることはある。アリシアの反応を好ましく思ってくれているからだ。
まさかそんな、酔うと甘えまくっているとは思いもしなかったけれど。
「で、でもだめなのっ!」
「それじゃあ」
カイルは何かを思いついたようだった。
アリシアの唇を指先でなぞりながら微笑む。
「夜、ベッドに入る前ならいい?」
どきりとした。
身体も、熱を帯びている。
奥深い場所に灯った炎を見透かされたようで、アリシアはカイルを睨みつけた。でも全然効果などなくて、カイルはよりいっそうと愛しげに笑みを深めるだけだ。
「――カイルの、ばか」
「それがアリシアの答え?」
後ろから強く抱きすくめ、首筋をそっと啄む。
「ばか、ばか。まだお昼だから、だめ。夜になってから」
「うん。夜まではキスだけで我慢するよ」
「も……ばか」
悔しくてアリシアは自らカイルの唇を塞いだ。
でも少しだけ大人の味のする口づけは、嫌いじゃなかった。
もう四月に入っていて季節外れも良いところな話ですみません。
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