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謝肉祭の夜 2

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「恥ずかし……から、見ないで、下さ……」

 散々自分から積極的に求めて来たくせに、少女は恥ずかしそうに身を縮めて首を振った。
 けれど細い二の腕で柔らかな二つのふくらみを両側から押し出すのは、わざと誘っているのではないなら何だと言うのか。深く繋がった部分も切なげにうごめき、クルヴィスを強く締めつけて来る。

 ずっと主導権を握られたままだったが、華奢な身体にたわわに実るふくらみへと手を伸ばす。
 わずかに汗ばんだ肌は絹のようにすべらかだった。触れられるとは思っていなかったのか少女は息を飲み、すぐに甘い吐息をついた。クルヴィスの指がぎこちなく素肌をなぞり、頂上に息づく小さな尖りをつまんだからだ。

「あ……。それ、あの……っ」
「ここ、気持ちいい?」

 異性を悦ばせる術など知りもしないのに無意識に尋ねる。泣きそうな顔で何度も頷く少女が、とても可愛く見えた。

「ん、気持ち、いい……です」
「素直な良い子には、お菓子をあげよう」
「いじわ、あっ、あ……っ!」

 先程の少女の言葉を意趣返しして、ふくらみを両手で包み込む。
 柔らかくて、温かい。
 左胸の奥から激しくリズムを刻む心臓の鼓動が伝わって来る。指先で頂上を飾る可愛らしい突起を軽く引っかくと、身体を震わせてますます鼓動が早まった。

「っふ、あ、んんっ……」

 愛撫なんてしたことがない。
 だから触れたいように触れるだけだ。
 それでもクルヴィスをきつく締めつける彼女が蕩けそうな表情を浮かべているのを見ていると、抱いたことのない想いが胸を満たして行く。それは肉体の快楽とはまるで違う、甘い、甘いものだ。

「クルヴィス様は、気持ちいい、ですか……?」

 意地悪をすればカウンターを喰らう。
 答えたら負けな気がした。だが答えないのはもっと、彼女がもたらすものに負けた証拠だ。

「――ああ」
「あ……、ん、それ、なら……っ、良かっ、良かった、です」

 いちばん半端な形で答えても少女は顔を綻ばせる。

(くそ……すごく、可愛いな)

 素顔は全て見えずとも可愛くてたまらなかった。
 そんな彼女が初めてを捧げてくれたことに、誰に対してでもなく優越感を抱いた。下からふくらみを揉みしだき、揺らす。小さいながらも固く尖って自己主張する乳首を指でつまんだり転がして愛でた。

 クルヴィスの愛撫も決して上手いものではなかったが、少女は切なげな啼き声をあげ、新たな蜜を滴らせる。蕩けきった蜜壺はきつく締めつけるだけでなく絶妙な動きでうねり、中に欲しいとねだりはじめた。

「ひあっ、クルヴィ、様……。私、も……だめ、もう、いっちゃ……!」
「俺も――、っく」
「中に、下さ……っ! クルヴィス様の、全部……全部、下さい……っ」

 そんなふうにせがまれて、誰が拒絶できるだろうか。
 クルヴィスは華奢な腰を掴み、自らの腰に押しつけるようにして少女のいちばん深い場所を抉った。上になっているのは彼女の方でも、その身体を征服したくてひたすらに奥を突いた。

「あ、あ――っ! ……き、……です。クルヴィス様、す……、もっと、もっとして」

 きっと彼女は好きだと伝えてくれている。その一方で、伝えてはいけないとその言葉を必死に飲み込んでいた。それでも溢れてしまう想いに、クルヴィスはどう応えるべきか分からなかった。
 自分も好きだと言えばいい?
 好意なら抱いている。だが、顔も名前も、知らない少女だ。そんな彼女にクルヴィスが好きだと言うのは、逆に彼女を侮辱するような薄っぺらい感情に見えた。

 好ましい。
 嫌いじゃない。

 どの言葉も間違いではないが、どの言葉も求められてはいなかった。

「いっちゃ、あっ、ひ、ああぁ――!」

 今のクルヴィスにできる最善のことは彼女の求めるまま、求める以上に快楽を与えてあげることだ。

 絶頂を迎えて激しく蠕動ぜんどうする胎内に精を吐き出す。全部欲しいと彼女は言った。だが、全部持って行かれてしまいそうだとクルヴィスは思う。

「いっぱい……。あ……、はぁっ……」

 繋がったまま、少女が力を失ってクルヴィスの胸に倒れ込んだ。服を脱いでいるのは彼女だけで、素肌が触れ合うことはない。それが少し、残念だった。
 それでも触れて大丈夫だろうかと、そっと背を撫でる。少女は一瞬身を強張らせ、だがすぐに力を抜いた。おそるおそるといった様子でクルヴィスの胸に左手を乗せる。

(気持ち良すぎて……彼女の中で萎える気配がないのはいいんだろうか)

 クルヴィスは静かに視線を下げた。

 吐精したのに屹立したままでいることに気がついていないはずがない。だが彼女の中も未だうねり続けていて、萎えて離れてはだめだといわれているような気になる。
 ゆっくりと息を吐き、背中を撫でたまま声をかけた。

「仮面は外さないんだ?」
「外したら……魔法が解けて、しまいますから」
「君の名前は?」
「それも……ごめんなさい」

 顔も名も明かさず、あくまでも一夜きりの後腐れのない繋がりだけを求めているらしい。
 その相手に何故クルヴィスを選んだのか。分からないし聞きたくもあったが、その答えもやはり、言えば「魔法が解けてしまうからごめんなさい」ということなのだろう。

 何らかの器具や魔力で身体の自由を奪われているわけではない。
 クルヴィスの意志で動き、彼女の仮面を剥ぐことなど、やろうと思えばやれる。
 だが、そうする気にはなれなかった。

 そうしたら――その瞬間に魔法が解けて、彼女が消えてしまう気がして。

「クルヴィス様……まだ、欲しいです」

 少女がゆるゆると身を起こして腰の動きを再開させれば、クルヴィスはそれからさらに二度も彼女の中に白濁を注いだ。





 目が覚めるとベッドの上にいるのはクルヴィス一人だった。
 夢中になって何度も情を交わした少女の姿はなく、本当に夢だったのではないかと思う。

 だがクルヴィスの身体は温かな肌の感触を確かに覚えている。ほんの少し意識すれば甘い匂いも思い出せるほど、少女の名残りは消えてはいなかった。魔術師団での任務とはまた違う疲労感も全身に広がっている。

 額に右手を押し当て、深く息を吐いた。
 そういえば、と思い出す。

 泥酔した夜に玩具代わりに使ったランタン。あれはどうしただろうか。
 カボチャ自体に防腐魔法はかかっているだろうが、内側に思いっきり吐精しているのだ。何日も放ったらかしにはしておけない。

 あれから片付けた記憶は全くない以上、残念なことに家の中にそのまま転がっているはずだ。
 いくら泥酔していたとは言え、何をやっていたのか。今さらながら自己嫌悪に陥りつつ、記憶を頼りにランタンを置いた部屋へと向かった。

 捨てた覚えもない。
 だがランタンはなくなっていた。

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