4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA

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第三章 上層へ

57話 決着

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――ソヴリンスター大聖堂 最深部

 セレナスはエルミラから極力距離を取りつつ、水蛇の槍を構えていた。

「いつまで守りに徹しているつもりですか? それでは私を倒す事は出来ませんよ」

 エルミラは冷静にそう言っているつもりだが、少しイラついているのが見て取れた。

「何と言われようと、僕はこのままロフルが戻るのを待つさ」

 セレナスは一人になった以降、自身の周囲の雪に集中していた。

 エルミラの攻撃は、必ず剣先から射出される為、飛んでくる位置の予測はある程度出来た。
 その攻撃は見えない上に瞬間的に着弾するが、ぎりぎり纏っている雪で感知し、回避する事が出来ていた。

「まったく……仕方が無いですね」

 そう言ってエルミラは右腕を上げた。
 そして、魔法輪を起動する。
 セレナスはそれをみて、すぐにある事に気がついていた。

「エルミラ……! ユニークリングじゃないか!」
「ええそうですね」

 エルミラのその問いに、セレナスは怒りをあらわにした。

「ユニークリングはお前らSの者によって排除されていた……その張本人がユニークリングとは笑わせてくれるな!」

 エルミラはその質問に淡々と

「ユニークリングによる特性は未知の力……我々には管理できません。なので排除する仕組みを作っただけです」

 と言った。

「そんな馬鹿な理由でユニークリングは悪と教えて来たのか……!? その考えを生み出したお前が一番の悪じゃないか!!」

 セレナスがそう言った瞬間……

――ザンッ!

 という音と共に、セレナスは背中から剣で一突きにされていた。

「がはっ……!」

「遅くなり申し訳ございません!! エルミラ様」
「やっと来ましたかレオネル」

 セレナスを刺したのは、レオネルだった。

「レオネル……ッ!」

 セレナスはその場で倒れ込んだ。

「セレナス、お前には失望したぞ」
「僕は……お前ら腐ったSランクに失望したよ……」
「ふん、戯言を……エルミラ様、こいつを如何いたしましょうか」

 セレナスに刺した剣を引き抜きながらレオネルは言った。
 そして、エルミラはセレナスを蔑むような目で見ながら、

「直ちに首を刎ねよ」

 と言った。
 レオネルは、承知しましたと頷き、そのままセレナスの首元で剣を振り上げた。

「ロフル……! 後は頼んだぞ……!」

 セレナスが諦めそうになったその時だった。

――バンッ!!

「ごふ……ッ!」

 レオネルは頭部を蹴られ、思いっきり吹き飛んだ。
 そして、そのまま気を失ってしまった。

「ロフル……来ましたか」

 ロフルは空中に浮かんでいた。
 周囲には二つの魔法陣が浮遊している。
 これは七輪エアリジェクションの効果で、空中を自在に動ける状態となっていた為だった。

「セレナス……! すまない遅くなって……! すぐ終わらせてお前を連れ帰るからな」
「ああ、頼んだぞ……」

 その瞬間、エルミラは剣先をこちらに向け、攻撃を放っていた。
 しかし、ロフルには攻撃は通らず、代わりに周囲に飛んでいた魔法陣がガラスの様に砕け散った。

 ロフルのそのまま何事も無かったかのように、セレナスの止血だけは済ませた。

「攻撃が通らない……?」

 エルミラはその状況を見て、少し困惑している。

「おいおい、こういう時は黙ってみてるもんだろうが」

 ロフルはそのまま魔装具を構えた。

「魔装具……? 紫髪ごときが持っていい代物ではありませんよ……!」
「紫髪とか関係ない。これは俺にしか使えない魔装具だ……天装剣・打毀(てんそうけん・うちこわし)!」

 魔装具はすぐに形状を変えた。
 グラディウスの様に幅広の剣だが、その剣身には無数のひびが入っておりバラバラになっている。
 しかし、切れ目の隙間と剣全体を白い光で包まれており、形状を保っている。

 ロフルの周囲にはセレナスのような雪やエルミラの白羽ではなく、
 三方手裏剣のような形の刃が無数に舞っていた。

「たしかにこれは危ないな」

 その瞬間、エルミラは再度剣先を向け、攻撃を試みた。
 しかし、ロフルはそれを浮遊する刃でガードし無効化した。

「く……!」

 エルミラからは少し焦りの表情が見え始めた。

「この無数の刃……俺の制御で操作できそうだ」

 ロフルはそう呟き、全ての刃を剣先へと集中させ、エルミラへと射出した。

――ガガガガッ!

 無数の刃はエルミラの致命傷を避け、服や腕に突き刺さった。
 そして、そのまま壁に貼り付け状態となり身動きが取れなくなった。

 そのままエルミラの魔装具を奪い取り、剣先を首につきつけた。

 その時点でエルミラは全てを諦めた表情となり、ゆっくりと目を閉じた。
 だが、ロフルはそのまま剣を収め、貼り付け状態になったエルミラをゆっくりと地上へ降ろした。

「何をしているのですか」

 エルミラがそう質問すると、ロフルは

「エルミラ、切り離しを考え直してくれ」

 と言った。
 だが、エルミラは表情を変えず、

「それは出来ません」

 と一言だけ言った。
 だがロフルはそのまま話を続けた。

「世界の崩壊は俺が止める。方法があるんだ」

 その言葉にエルミラは一瞬驚きの表情を見せた後、すぐに無表情へと戻った。

「紫髪が何故その事をしっている……」
「今はそんな事はどうでもいい。とにかく、原因は人口増加……ならば他の場所に移住して貰ったらいい」
「どの場所に行っても同じです。この4層世界は全てで一つなのですから……」
「確証はまだないが、この世界以外に行く事が出来るかもしれない」

 ロフルはそう続け、

「全部調べる! 1年だけ待ってくれ。必ず崩壊を止めてやる」

 とエルミラの目を見て伝えた。
 言葉の通り、実際にはまだそれが可能か確証を得ていないロフルだが、
 その自信と覚悟の表情をみたエルミラは諦めた表情で

「分かりました。切り離しは待ちましょう……」

 と言った。

「ありがとう。必ず崩壊はさせない。待っていてくれ」

 そう言って気を失ったセレナスをすぐに抱えて帰還した。

・・・
・・
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