54 / 60
第三章 上層へ
52話 新人戦
しおりを挟む
夕食後の自由時間に、俺はゼフィラと出会った洞窟へと向かった。
そこには思っていた通りゼフィラが居た。
「ゼフィラ?」
そう呼びかけると、ゼフィラは勇者様!
と言って抱きついてきた。
「昨日は本当にありがとうございました」
そういうゼフィラを優しく引きはがし、
「こら、いちいち抱きつかない。勘違いする奴が現れるぞ」
と注意した。
するとゼフィラは
「こんな事、勇者様にしかしないですわ!」
と少し怒っていた。
そのゼフィラの頭を撫で、なだめつつ
「俺はロフルって言うんだ。勇者かどうかは分からないが……君がここを出たいと望むなら俺が必ず出してやるからな」
と言っておいた。
どちらにしても俺は出なきゃならないし、その時にゼフィラを一緒に脱出させることはできるだろう。
ワイドエリアリターンの腕輪を借りさえすればすぐだ。
どちらにしても、ここから出る為にはセレナスの助けが必要だ。
なんとかしてここにいる事を伝えなければ……。
「でもどうやって脱出するんですの?」
「そうだな……なんとか外部に居る仲間に俺がここに居る事を知らせる事が出来れば……」
少し考えたが、一つ方法を思いついた。
「そうだ。俺が1位になれば話題になって外に俺の情報が行くかもしれない」
「それはそうでしょうけど! 1位のガバジはとても強いですわ!」
「大丈夫。俺も結構強いからさ」
不安そうな表情のゼフィラに俺は笑顔で答えた。
・・・
・・
・
――翌日
いよいよ今日、闘技場での新人戦が行われる。
新人側は俺含めて5人のチーム。
そして、相手はランキング上位者の3人だそうだ。
てっきり新人同士で戦うと思っていたが……。
新人戦は禊みたいなもんだと言っていたイガレットの言葉の意味が、ここで理解できた気がする。
本来なら訓練すらまだろくに出来ていない新人側が、勝利を収める事は無いに等しいだろう。
ステージの端にある武器棚には木でつくられた剣や槍、盾などが置かれている。
俺はそこから上を見上げ観客席を確認した。
そこには赤い髪の観客が席にまばらに座っている。
全員が何かしらの覆面をしており、誰だかわからない様にしているようだ。
ある意味セレナスが忍び込みやすいな……などと考えていた。
他の新人は怯えながら木の剣などを手に取った。
俺も闘気装のまま拳で叩くと相手を殺してしまう可能性があると考え、木の剣を二本手に取った。
そして両者中央へ! という声の通りに俺達は中央へと集まった。
遅れて相手3人も、武器を手に持ち中央へとやってきた。
その3人の中に俺はガバジが居ると思っていたが、
全員知らない顔だった。
そいつらは俺の顔をじろじろと見ながら、
「お前がロフルだな?」
と言った。
「そうだ」
俺がそう答えると、
3人は笑い始め、
「ガバジさんにお前を徹底的に痛めつけろと言われている。精々死なない様に頑張りな」
と言った。
そのやり取りを見ていた俺側の新人達は完全に恐怖で委縮していた。
「なぁ、お前達。狙いは俺の様だからまずは俺が一人で出るよ」
俺は怯えている新人達に提案した。
「一人で勝てるわけがない! ぼ、僕も一緒に!」
一人は勇気を出してそう言ってくれたが、
「大丈夫。安心してな」
と肩をポンと叩き、俺だけ一歩前に出た。
「一人で戦うつもりかぁ?」
「狙いは俺だろ? この方がそっちもやりやすいと思ってな」
そう言いながら俺は木の剣を構えた。
それをみて上位者3人は嘲笑いながら
「あっはっは! いいね。お望み通り再起不能にしてやる!」
と言った。
こいつらには本当に申し訳ないが、俺はこの試合は茶番としか思えなかった。
俺以外はエンハンスどころか魔法一つも覚えていない。
更に闘気も一切感じず、筋トレの効果で少し筋肉がついているだけ。
ハッキリ言って指一本で倒せそうだが、
観客へのパフォーマンスを忘れてはいけない。
全員に見える程度の速度で剣を振り、圧勝する。
そしてすげえ新人が来たと思わせるんだ。
セレナスに俺の情報が届くように!
俺はここにいる! セレナス気づけ! 助けてくれ! と!
「では始めるぞ!」
審判の役割である看守がそう言ったので相手も武器を構えた。
そこには思っていた通りゼフィラが居た。
「ゼフィラ?」
そう呼びかけると、ゼフィラは勇者様!
と言って抱きついてきた。
「昨日は本当にありがとうございました」
そういうゼフィラを優しく引きはがし、
「こら、いちいち抱きつかない。勘違いする奴が現れるぞ」
と注意した。
するとゼフィラは
「こんな事、勇者様にしかしないですわ!」
と少し怒っていた。
そのゼフィラの頭を撫で、なだめつつ
「俺はロフルって言うんだ。勇者かどうかは分からないが……君がここを出たいと望むなら俺が必ず出してやるからな」
と言っておいた。
どちらにしても俺は出なきゃならないし、その時にゼフィラを一緒に脱出させることはできるだろう。
ワイドエリアリターンの腕輪を借りさえすればすぐだ。
どちらにしても、ここから出る為にはセレナスの助けが必要だ。
なんとかしてここにいる事を伝えなければ……。
「でもどうやって脱出するんですの?」
「そうだな……なんとか外部に居る仲間に俺がここに居る事を知らせる事が出来れば……」
少し考えたが、一つ方法を思いついた。
「そうだ。俺が1位になれば話題になって外に俺の情報が行くかもしれない」
「それはそうでしょうけど! 1位のガバジはとても強いですわ!」
「大丈夫。俺も結構強いからさ」
不安そうな表情のゼフィラに俺は笑顔で答えた。
・・・
・・
・
――翌日
いよいよ今日、闘技場での新人戦が行われる。
新人側は俺含めて5人のチーム。
そして、相手はランキング上位者の3人だそうだ。
てっきり新人同士で戦うと思っていたが……。
新人戦は禊みたいなもんだと言っていたイガレットの言葉の意味が、ここで理解できた気がする。
本来なら訓練すらまだろくに出来ていない新人側が、勝利を収める事は無いに等しいだろう。
ステージの端にある武器棚には木でつくられた剣や槍、盾などが置かれている。
俺はそこから上を見上げ観客席を確認した。
そこには赤い髪の観客が席にまばらに座っている。
全員が何かしらの覆面をしており、誰だかわからない様にしているようだ。
ある意味セレナスが忍び込みやすいな……などと考えていた。
他の新人は怯えながら木の剣などを手に取った。
俺も闘気装のまま拳で叩くと相手を殺してしまう可能性があると考え、木の剣を二本手に取った。
そして両者中央へ! という声の通りに俺達は中央へと集まった。
遅れて相手3人も、武器を手に持ち中央へとやってきた。
その3人の中に俺はガバジが居ると思っていたが、
全員知らない顔だった。
そいつらは俺の顔をじろじろと見ながら、
「お前がロフルだな?」
と言った。
「そうだ」
俺がそう答えると、
3人は笑い始め、
「ガバジさんにお前を徹底的に痛めつけろと言われている。精々死なない様に頑張りな」
と言った。
そのやり取りを見ていた俺側の新人達は完全に恐怖で委縮していた。
「なぁ、お前達。狙いは俺の様だからまずは俺が一人で出るよ」
俺は怯えている新人達に提案した。
「一人で勝てるわけがない! ぼ、僕も一緒に!」
一人は勇気を出してそう言ってくれたが、
「大丈夫。安心してな」
と肩をポンと叩き、俺だけ一歩前に出た。
「一人で戦うつもりかぁ?」
「狙いは俺だろ? この方がそっちもやりやすいと思ってな」
そう言いながら俺は木の剣を構えた。
それをみて上位者3人は嘲笑いながら
「あっはっは! いいね。お望み通り再起不能にしてやる!」
と言った。
こいつらには本当に申し訳ないが、俺はこの試合は茶番としか思えなかった。
俺以外はエンハンスどころか魔法一つも覚えていない。
更に闘気も一切感じず、筋トレの効果で少し筋肉がついているだけ。
ハッキリ言って指一本で倒せそうだが、
観客へのパフォーマンスを忘れてはいけない。
全員に見える程度の速度で剣を振り、圧勝する。
そしてすげえ新人が来たと思わせるんだ。
セレナスに俺の情報が届くように!
俺はここにいる! セレナス気づけ! 助けてくれ! と!
「では始めるぞ!」
審判の役割である看守がそう言ったので相手も武器を構えた。
0
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる