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第三章 上層へ

43話 再戦

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 セレナスは一人、森を歩いていた。

「僕は……弱かったのか」

 そう呟くセレナスの拳には力が入っていた。

 学園の授業である、魔装魂での戦いでは他の生徒を圧倒し、無敗だった。
 今後も一度も負けない為に、努力も惜しまなかったつもりだった。

 だが、ロフルに出会い、自分は井の中の蛙だった事を一瞬で思い知らされた。

 セレナスは強者を従え、エルミラを共に討つ事を考えていた。
 もちろんその中では自身が一番強い。
 そのはずだった。

「明日、もう一度戦おう。全力で」

 セレナスは少し笑みを浮かべていた。
 無敗だったが故に、彼も本気で戦った事が無かった。

 本気の自分がどれだけ通用するか……。

 そして、同時にエルミラを倒せる可能性が高くなったことも実感していた。
 ロフルなら倒せるかもしれない……。

「僕もおかしくなったか……下位の者にそんな大役を託す事を考えるとは……!」

 だが、神徒としてのプライドがその考えを拒む。

 セレナスは一人で葛藤していた。

・・・
・・


――翌日

「ロフル! もう一度僕と戦え」

 時間は昼頃、道場の広間でグリムホーフを焼いている時にセレナスは現れた。
 貴様呼ばわりから名前呼びに変わった。
 何か心境が変わったのだろうか。

「お、セレナス……わかった! けど、先にこれを食ってけよ」

 そういって俺はセレナスにグリムホーフの塩を振った骨付き焼肉を手渡そうとした。

「な、何だこれは? 僕はいらない。早く決闘するぞ!」

 セレナスは肉を受け取らず、そのまま俺を昨日戦った場所へ連れて行こうとした。

「おい、待てって! 俺腹減ってるからさ……まじで、一回食ってみろって!」

 俺のその言葉に、セレナスはしぶしぶ了承し肉を受け取った。

「……食べる前にこれが何か教えろ。訳の分からない物を口に入れる程、馬鹿では無い」
「グリムホーフって言う魔物の肉だ! 美味いぞ?」

 俺が笑顔でそう答えると、セレナスは蔑むような表情で、

「は? 魔物の……肉!? 何て野蛮な奴らだ……食えるわけがない!」

 と肉を置いてしまった。

「えー……美味いのに勿体ない」

 そのやり取りを見ていたリリアナが、

「セレナス! 一口でいいから食べなさい」

 と命令口調で言った。
 セレナスはその発言に驚きつつ、
 小声で、

「リリアナ……下層では種族とか関係ないと言っていなかったか……?」

 と言いつつも一口かぶりついた。
 やはり階級が上の者に命令されると断れない性質らしい。

「う……何だこれは! 初めての味、食感だ……!」

 セレナスの目は輝き始めた。

「美味しいでしょ?」

 リリアナは自慢げに言った。
 セレナスはその問いに、少し恥ずかしそうに頷いていた。

「セレナス、いっぱいあるから好きなだけ食べろよ!」

 そうしてお昼の肉パーティー後、少しの食休みを挟み、
 昨日と同じ場所で再度セレナスと戦う事になった。

「ロフル、言い訳になるが昨日は油断した。今度は全力で行く」

 セレナスはそう言って、長さ15cm、直径4cm程の筒状の何かを取り出した。
 それにはびっしりと魔法輪のような模様が刻まれている。

「三輪、エンハンス」

 その筒を右手で持ち、エンハンスが起動している左手甲の魔法陣に触れさせた。

「おお? 光始めた……!」

 そのまま筒は光始め、青い三叉槍へと形状を変化させた。

「これはフロストハート家の家宝、[魔装具・水蛇の槍(すいじゃのやり)]だ」

  青く氷のように輝くその槍は、今までの武器では感じた事が無い威圧感があった。
 セレナスはその装備を魔装魂の方で持った。

 槍を構えると同時に、セレナスの周囲を覆うように雪が舞い始めた。

「これを実戦で使うのは初めてだ。今まで使うまでも無かったからね」
「俺が初めての相手か。光栄だな」

 そういって俺も気を引き締めた。
 昨日のセレナスとは雰囲気が大きく異なる。

 今日は先制攻撃をしてみよう。

 俺は瞬間的にセレナスの後方へ移動し、真っ直ぐに頭部へ拳を撃ち込んだ。
 しかし、セレナスはその拳に反応し最小限の動きで回避した。

 そして、こちらを見る事も無く、的確に槍を俺の腹部へ真っ直ぐに突いてきた。

「あぶねッ!!」

 咄嗟に足に力を込め後ろへ後退した。
 なんとか槍先は俺を貫く事が無かったが、そのまま槍の先端から青いブラストの様な魔法が射出された。

「――避けられないッ!」

――ドシャァン!!

 青いブラストは俺に着弾した瞬間晴れるし、周囲を巻き込みながら大きな氷山を作り出した。
 俺はその氷山に閉じ込められてしまった。

「昨日の借りは返したぞロフル!」

 セレナスは勝利を確信していたが……。

――バリンッ!

 俺は瞬間的にバインドを唱え、自身の周囲に張り巡らせていた。
 そのおかげで隙間が出来ており、闘爆衝を放ち氷を砕いた。

「氷を砕いただと……!」

「危なかったよセレナス! 俺の全力も見せよう」

 そう言って右腕に再び闘気を集中させながら魔法輪に触れた。

「六輪、バーストチェイン!!」
「――ッ!!」

 セレナスの魔装魂はそのまま俺の魔法の光に消えていった。

「あ! まずい、あの槍も消滅するんじゃ――ッ!!」

――キンッ

 だがその心配は必要なかったようだ。筒の形状に戻った魔装具が地面に落ちた。
 見た目はまったく無傷の状態だ。
 とてつもなく丈夫な筒だな……。

「僕の負けだ」

 肉体を置いていた場所からセレナスが歩いて戻ってきた。
 俺も魔装魂を解除し元に戻った。

「いい勝負だったよ。かなり意表をつかれた」
「慰めの言葉はやめろ。とにかく僕は決心できた。さっきの槍……魔装具など共有すべき情報が色々ある」
「慰めてるつもりじゃなかったんだけどな……なら茶室を借りて話をしよう。俺も伝えたいことがあるしな」

 そういって俺とセレナスは茶室へと移動した。
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