4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA

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第一章 妹弟救出

17話 難易度上昇

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―― 1年後 洗礼の試練開始1時間前  ロフル13歳(転送されてから3年が経過)

 いつも通りの心地よい風、温度……湿気……
 木のてっぺんで感じる景色と空気はいつもと変わらない。
 これから地獄の試練が始まるとは思えない静寂だ。

「いよいよだね……お兄ちゃん」

 いつもと違うと言えば、普段一人で立つ木の上にもう一人、ハナがいる事だろう。
 ハナはあれから四輪になっており、バインドを習得済みだ。
 ユニークリングではない為、特性の開放は発生しなかった。

「ハナ。分かっていると思うがエンハンスは絶対に解除するなよ」
「大丈夫。わかってるよ」

 ハナは少し緊張した様子だ。
 俺はハナの背中をポンと叩き、少しでも気を落ち着かせようとした。

 俺達は今、二人でハナが転送されてきた場所付近にいる。

 作戦という程ではないが、俺が基本的に救出し、ハナがその子を保護しそのままこの場所で守る。
 拠点にいちいち戻るよりも効率よく救出できると言う算段だ。
 とは言え、まず第一に弟のサンク……これは変わらない。

 ハナもデッドマンティスなら余裕で倒せるようになっており、硬い方も破壊できる程に成長している。
 
 また、ハナは俺より気配察知が鋭い。
 サーチが無くとも魔物の気配を素早く捉える。
 
 これもハナの才能……赤い蒸気が関係しているのだろうか……。

――ゴォーン……ゴォーン……

 いつもの様に無機質な鐘の音が鳴り響いた。
 ハナはその音に少しびっくりしていた。

――Activate system to sort
――difficulty level increases.

「ん……?」

 その違和感にはすぐに気がついた。
 聞こえてきた英文が増えている。

 "難易度が上昇"……?

「お兄ちゃんどうしたの?」

 ハナのその問いに、

「いや、何でもない。気を引き締めて行くぞ」

 と言い、木から飛び降りた。
 それを見てハナも続けて飛び降りた。

「一輪、サーチ」

 鐘が鳴りやんだと同時にサーチを行った。
 デッドマンティスの数が前回より少し多い……だがその程度。何とかなるはずだ。
 そう思いながら、すぐに一番近くに出た点に向かって移動した。

「サンク!」

 最初に向かった点には最優先の目標だった弟、サンクの姿があった。

「え、ロフル兄ちゃん……?!」

 サンクの姿は妹の時より成長の幅が大きかった。
 当たり前ではあるが……。

 しかし、見た瞬間サンクだとすぐに分かった。
 そして向こうも兄だとすぐに気が付いてくれた。

「よかった! ハナもいるぞ。一緒に来てくれ」
「わ、わかった!」

 サンクは大きな荷物を持っていた為、それを俺が持ちハナの元へと移動を始めた。

 そして、デッドマンティスマシンを蹴りで処理しつつ、通り道に居た二人の子供達を救出し、ハナの元へと到着した。

「おねえちゃぁぁぁん!!」
「サンク! よかった……また会えたね」

 サンクはハナに飛びついた。
 それを去年のハナの姿に重ねて見ていた。

「よし、じゃぁハナ、任せたぞ!」

 そう言ってその場を去ろうとした瞬間……。
 ハナの前に一体の魔物が前触れも無く出現した。

 今までの形状と全く違う……!
 その魔物は二足歩行でカマキリの頭部、腕は鋭い鎌状になっている。
 身長は2m程でいつものカマキリよりは小柄である。
 背中の羽はブーンと不快で大きな音を出しながら高速で羽ばたいている。

 その形状を見て、理解するまでにわずか1秒にも満たない時間だった。
 そして、瞬間的にこいつはヤバイと感じていた。

 鎌を振り上げた瞬間、俺は一瞬でハナを庇う様に前に立った。
 そして、その鎌は俺めがけて振り下ろされた。

――ブシァッ…・・!

「な……!」
「お兄ちゃん!!」

 その鎌は、エンハンスを軽々と突き抜け、俺の腹部を斬りつけた。

「ハナ! 祭壇へ逃げろ! 早く!!」

 俺の必死の言葉に、ハナは頷き、サンク達を連れて全力で祭壇の方角へと走った。

「ハァ……ハァ、何だお前……初めて見るな」

――チチチ

 俺のその問いにこのカマキリは答えない。
 二足歩行とは言え、他のデッドマンティスと同じく言葉は話さない様だ。

 こいつも試練の時に現れる硬いカマキリと同じ質感……。
 難易度が上がったせいでこいつが現れたのだろうか。

 とにかく思考している場合では無い。
 こいつを倒さないと……。

「久しぶりの強敵だな……」

 俺は左腕の出力のみ2に上昇させた。

 そして、振り下ろしてきた鎌をその腕で受けた。

「2ならギリギリ通さない様だな……!」

 出力2のエンハンスの場合、ぎりぎり攻撃が突き抜けない。
 そのまま右腕を素早く動かし、魔法輪を起動した。

「六輪、バースト」

――ドンッ!!

「な……ッ!」

 直撃したと思われたそのバーストは、射出される瞬間に後方に移動したカマキリには直撃していなかった。
 だが、それでも左腕の鎌は吹き飛んでいる状況だった。

「直撃すればダメージはある……しかしあれを避けるとは……!」

 そして、このタイミングである現象に気がついた。
 赤くなった左目の視界が真っ赤に染まり始め、霞んできていたのだ。

 その瞬間、フーチェの魔力の消費についての言葉を思い出していた。

「これが魔力が減少しているサインか……まじで全然見えなくなるな……」

 こうなってきた以上、時間も掛けられないし、バーストを撃ったらどうなるか予想もつかない。
 魔力の消費を抑える為、左腕の出力を1に戻し、離れた場所にいるカマキリを見ながら思考した。

 相手もどうやらバーストを警戒しているようだ。
 むやみに突っ込んで来ようとしない。

「四輪、バインド」

 俺はバーストのインターバルが終わった瞬間、
 正面のカマキリでは無く右側にバインドを放った。
 カマキリは一瞬をそれに気を取られたが、

「五輪、ブラスト!」

 エンハンスを解除し、正面に向かって放ったブラストを察知しすぐに回避行動を行った。

 そして、エンハンスを解いて弱体化している俺に気がついているようだった。

 それによる勝利の確信……油断だろうか。
 カマキリは後方から回り込んできたバインドに一切気がついていなかった。

――バキッ!!

 俺の放ったバインドは命中し、カマキリの動きを封じる事に成功した。
 そして、間髪入れずに近距離まで近づき、

「六輪、バースト」

 と唱え放った。

――バンッ!!

 大きな爆発音とともに、カマキリはバラバラに破壊された。
 その周囲の地面はクレーターの様に穴が開いていた。

「倒した……とにかく一度戻らないと……」

 左目が完全に視界が真っ赤になっており、全く見えない状態になってしまっている。
 だが、幸いにも右目は普通に見える。両方とも赤い目にならなくて本当に良かったと思いながら帰路についた。

・・・

「お兄ちゃん!!」
「ハナ……サンク……良かった無事で……!」

 俺はハナとサンクの無事な姿を見て、そのまま気を失い倒れてしまった、

・・・
・・

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