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第三章 旅立ち編

35話 岩石山

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「見えてきた。岩石山への道じゃ」

 アルネが指した場所には小さな岩の砦があり、兵士が一人立っている場所だった。

「止まれ。ここから先はシャドウゴーレムが出現する危険な地域だ」

 兵士はそう言って俺達を止めた。
 だが、アルネが依頼書を見せ説明した結果、すぐに通してもらえる事になった。

「時間は昼頃じゃが……今日はここに留まるぞ。少し進行方法を共有するぞい」

 アルネはそう言って馬を止めた。
 俺達はそれについて行く形で馬を止め、近くの開けた場所へと移動した。

「アルネさん、ここがシャドウゴーレムの場所?」
「いや、正確にはこの先の道をずっと進み、岩石山の麓あたりからよく見るようになる」

 俺はてっきり、昼頃にはシャドウゴーレムが出る場所につくのかと思っていたのだが、大きな勘違いだった。
 ここはあくまでもスタート地点であり、岩石山の麓まで1週間程かけて行かなければならない様だ。

「この関所から先は治安が悪くなる。野宿では特に注意が必要じゃ」
「兵士が居るのに何で悪いんですか?」
「関所の付近であるここにしか兵は居ないんじゃ。色々な所から岩石山へ侵入は出来る」

 たしかにこの場所には砦があるだけで石壁が続いている訳でもない。
 極端な話、兵士の隙を見て奥へ行くことだって可能だ。

「そもそもこの兵士は、降りてくる不審者を撃退するために居る。先へ行く者は止められん」
「え、でも……」
「止められたのはゆっくりと顔を見て覚えておく為じゃ。念の為にな……」

 俺達が危険人物かどうかを確認する為だろうか。
 とにかく、ここから治安が悪いのであれば、より気を引き締めなければならないな。

・・・
・・


――翌朝 

 俺達は砦の休憩所を借り、一夜を過ごした。
 そして出発の準備を終え、馬を歩かせている所だ。

「本当に緑の無い場所だよな」
「そうじゃな。食料は他国で仕入れるのがメインじゃ。代わりに良質な鉱石がたくさん採掘できるから、ドワーフたちが武器や調理器具などを製作し、輸出しておるの」

 ここ、トゥーカ領地は良質な鉱石が豊富に取れる代わりに緑が少なく食料になる物が殆ど採れない。
 種族はドワーフ族が一番居て、次に獣人族が多いそうだ。

 ドワーフはがっしりとした体形で身長が低い事が特徴であるが、獣人の姿はさまざまである。
 狼男の様な見た目も居ればヒト族に猫耳をつけただけの様な見た目の者も居るらしい。

 猫耳美少女など見れるかも知れない!
 そう思うと少し期待が膨らんだ。

「メインの道を進めば、色々な獣人族にすれ違ったかもしれんが……ここは既に道が外れておる。トゥーカ城にも寄れんな」

 そのアルネの言葉で獣人の姿を見る事は諦めたのであった。

・・・

 出発してから5日が経った。
 俺達は既に岩石山に入山しているが、幸いな事にまだ山賊の奇襲などには会っていない。
 シャドウゴーレムにも会えていないが……。
 岩石山を登るにつれ気温下がっているのを肌で感じる。更に常に強風が吹いている事もあり少し寒い。

「今日はここで野宿するぞ」

 アルネが指した場所は大きく突起した岩石の麓だった。
 奥まで入ると風が岩で遮断され来なくなっているが、
 一歩外へ出ると、風が常に通り抜けるように吹いており、匂いも特定しずらいだろう。
 また岩陰にも上手く隠れており、野宿には本当に良さそうな場所だ。

 だが、そこにはすでに焚火を焼いたような跡が少しだけ残っていた。

「ここは私がたまに使っている場所じゃ。私の秘密の場所じゃな!」

 どうやら焚火の後は、アルネのものだったようだ。
 
「とは言え、いつまでもここが安全とは限らぬ……油断はしてはいかんぞ」

 アルネの言葉に俺達は頷き、夕食の準備を行った。

「今日はシャドウラビットに肉にこれをまぶして食うぞ」

 そういってアルネが取り出したのは、肌色の鉱石の様な物だった。

「アルネさんこれは……!」
「これはトゥーカの名物、しょっぱい岩じゃ!」
「おおー!」

 これは多分岩塩みたいな物だろう。この世界でそういった調味料を見るのは初めてな気がする!
 今まで優しい味が続いていた。
 リッチバターウッドは濃い味だがクリーミーな味。
 ティタやアルネさんが出してくれたコンソメスープは素材の味を活かした優しい味……。
 正直塩味が足りていなかった。
 
「フィアン、塩……あったんですね」
「ああ……今日ほど感動したことはない」

 俺達は涙を浮かべながら喜んだ。

「おおげさじゃのう! しょっぱいのが好きなのか? 私はたまにしか食べたくならんが……」
「僕たちは毎日でも食べたいです! 何処で手に入れたんですか!」

 ネビアは身を乗り出し質問していた。

「トゥーカの市場にも売っとるし、この岩石山から入れる洞窟でも採取できるぞ」

 俺達は顔を見合わせ喜んだ。
 しかし、それを見たアルネは、洞窟に寄る時間はないからな? と俺達に釘を刺した。
 残念だが、とりあえずは市場で手に入れるしかないな……。

「さぁ、さっさと食べて寝るぞ!」

 そうして俺達は塩味のきいた肉を堪能し、そのまま眠りについた。

・・・
・・


「……」

 辺りは暗い、夜中の様だが目が覚めてしまった。
 そして、何となく嫌な気配を感じる。

「フィアン、アルネさんが居ないです……! それになんか嫌な感じです」

 ネビアも異変には気がついているようだ。

「複数の気配を感じる……あっちの方だな。行ってみよう」

 そう言って剣を持ち早速向かおうとすると、

「フィアン、シャドウウォークで僕を背負ってください。感知に長けた奴がいるかもしれないです」
「確かにな……よし、乗るんだネビア」

 そう言ってネビアを背負い、シャドウウォークで気配のする方へと向かった。

・・・

 岩陰からこっそりと気配のする方を見た。
 そこは平坦な砂地が広がっており、周囲が非常に見渡しやすい場所になっている。

 隠れられるような大きな岩が落ちているのはここまで……これ以上近づくとバレてしまう危険性がある。

 そして、その砂地の中心には計7人……1人は拘束されているように見える。
 それがアルネさんと言う事はすぐに視認出来た。

「くそ……! アルネさんが」

 俺はすぐに飛び出しそうになったが、ネビアが俺を掴み抑止した。

「待って下さい。相手は6人、ましては対人……闇雲に出て行ってもどうなるか分かりません。フィアンがそんな突然飛びだそうとするとは思いませんでしたよ。僕にはその選択肢は微塵もなかったですから……!」
「ネビア、すまん……」


 たしかに、今までの俺なら闇雲に突っ込んだりは絶対しなかったと思う。少し直情的になって閉まっているのかもしれないな。
 まぁ、今こうやって思考できているうちはとりあえず大丈夫だろう、落ち着こう。

「フィアン、少し離れた崖の上に一人気配がします……まずはそいつですね」
「それには気がつけなかったな……魔力で感知か闘気で感知してるかの違いだろうか」
「今はその疑問は置いときましょう」
「そうだな……ついにやるんだな。俺達は」

 俺もネビアも神妙な表情になっていた。
 アルネが捕まってしまっている以上、相手を殺して奪い返すしかない。

 そう決意をしようとするが、手の震えが止まらない。
 それはネビアも同じだった。

「ネビア、お前はここで待機、シャドウウォークで気配を抑えるんだ。そいつは俺が忍び寄ってやってくる。デバシーの無線はつないでおこう。動きがあったらすぐに知らせてくれ」
「分かりました。フィアン、どうか気を付けて……」

 そうして俺はネビアが指さした崖の上を大きく回り込んで目指す事にした。
 静かに殺す……短剣とかで首を斬る? いや、俺にそんな芸当が出来るとは思えない。そもそも短剣がすんなり通ってくれるかも分からない。魔装魂があるからな……。

 [魔装・一閃]で一撃を狙うしかないか……。
 そんな事を考えながらネビアの指した岩山の付近まで移動してきた。

「……」

 より深く[シャドウウォーク]を行った。
 深呼吸をしたいところだがその音も出したくない。
 気付かれてしまっては全てが終わりだ。そう思いながら、ゆっくりと崖の裏手からを登り始めた。

 ……見つけた。
 10m先、そいつは一人で影の上の先端で杖を掲げ立っている。
 ローブを頭から羽織っており、持っている杖は微かに先端が光っているが、何をしているかは正直分からない。

 相手はこちらに気づく気配は全く無い。俺は静かに剣を取り出し息をひたすらに殺した。震えが止まらない。実際目の当たりにするまでは余裕で殺せるだろうと思っていた。銃みたいなものだったらもっと楽だったろうに……。
 剣は人の肉を断つ感触に触れなければならない。考えるだけで気持ちが悪い……。
 その思考が止まらず、3分はその場に立っていた。早くしないと……アルネさんが危険なんだ……! 

「フィアン、大丈夫ですか?」

 その声ではっとした。俺は何をしているのか……! 勿論やり終わってないので、返答が出来ない。このまま静寂を貫くと心配してネビアがこちらにやってきてしまうかもしれない。そう考えた俺は腹を括り、剣を構えた。

(フィアン)――魔装・一閃! 

 俺はしっかりと首を狙った。その結果、首を綺麗に両断する事が出来た。相手は声すら出さずに絶命、魂片に還った。

「ネビア、やったぞ……!」

 その場で死体が転がらないのが唯一の救いか。何とか仕事はやり遂げる事ができた。

「フィアン! 何故だか分かりませんがすぐさま異常に察知したようです。そちらへ二人向かっています」
「まじかよ……いやでもこれはチャンスだ。二人とも闇に乗じてやってやる……!」

 通信を繋いでいて本当に良かった。馬鹿な俺はその場で緊張の糸を切り一息ついてしまうところだっただろう。
 頭でまだあると分かっていても、一仕事終わったら一旦、緊張の糸を切ろうとしてしまう。この悪癖は直さないとな。
 自分を叱責し再度集中、岩山の上から俺が来た道を見た。ネビアの言った通り、二人がこちらへ向かって来ている。辺りが真っ暗なお陰か、シャドウウォークをしていれば本当に気付かれる気配が無い。二人か……並んでこちらへ来ているから、一人をやろうとしたら即座にばれるな……。
 てこずっている内に仲間を呼ばれでもしたら厄介だ。どうしたものか。
 思考を巡らしていると、さっき殺した奴が杖とローブを落としたのを思い出した。これなら油断するかもしれない……。
 俺は杖を地面に突き刺し、そのローブを掛けた。さらにそれに[サンドボール]を生成し、杖の周りを埋め、少し間が膨らむように調整した。俺が羽織って待ち構えると言う選択肢もあったが、身体のサイズが違いすぎる……。
 杖に掛けると大人が座っている程度のサイズにはなる。明るかったら一瞬で気付かれるだろうがこの暗さならきっと大丈夫だ……! 剣をローブの後ろから構え二人を待った。
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