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第一章 幼少〜少年編

11話 敗北

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 俺達はまた小さな穴を通り、分岐する道へと戻ってきた。

「もう一つの道は何処まで続いているでしょうか」
「分からないな……急いだ方がいいかもしれない」

 そんな会話をしながら足早に足を進めた。

「この果実、すごく美味しいよな。リンゴのようなシャキっとした食感だけど、味は濃厚な桃の様だ」
「フィアン、2個までにしてくださいね。この先どれだけ続いているのか分かりませんし」
「分かってるよ!」

 ルーネ達から貰った果実はかなり美味しかった。
 名前とかもついていない様だから、あの場所でしか取れないレアな果実なのかもしれないな。

 そんな事を考えていると、不自然な長方形の入り口が見えてきた。

「案外近かったな……」
「この前閉じ込められた入り口に似ています。また同じ目に合うでしょう……」

 前回とは比べ物にならない程の悪寒がする。
 この先にシャドウナイトが居る……そう確信できるほどだった。

「ふぅ……」

 俺達は深く深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「シャドウナイト……絶対に倒すぞ」
「もちろんです!」

 そう気合を入れて中へと入った。

「一気に気温が下がった感じがするな……」

 中へと入った瞬間、冷たい空気が流れている感じがした。
 後ろを見るとやはり退路を断つように瘴気が回り込んでおり逃げ場はなかった。
 また、壁と天井部には黒い瘴気を纏っており、

 そして、この部屋の奥を見ると、漆黒色の玉座があり、その脇には更に深く黒い……漆黒の剣が突き刺さっていた。

「剣が刺さっている……!」

 そう呟いた瞬間、その剣に向かって渦巻くように黒い瘴気が集まり始めた。

「ネビア! 構えろ……何か来るぞ……!」

 集まった黒い瘴気は集束し、そのまま爆発するようにフロア全体に四散した。
 四散した瘴気で一瞬目をつぶってしまったが、すぐに手で払い除け玉座を見た。
 
――ガシャン

 今までのシャドウでは聞いたことが無い、重厚な金属音がそいつから聞こえた。
 サイズと姿はシャドウウォーカーに近いが、漆黒色の鎧を全身に着込んでいる。

 何よりも目を一切離せない……凄まじい存在感を放っていた。

「フィアン、シャドウナイトです……底が見えないです……!」

 ネビアの声は恐怖で震えていた。

「大丈夫だ。いつも通り……先手必勝だ」

 ネビアの背中をぽんと叩いた俺の手も、震えていた。

「そうですね!」

 ネビアはそう言って光の玉を操作、[ウインドスピア]を4本作り出し、シャドウナイトへ放った。

 それを視認したシャドウナイトは、すぐに突き刺さっていた剣を引き抜き水平に一振りした。

「ぐ……!」

 その一振りで強い風が発生し、ウインドスピアは全てかき消されてしまった。

「そんな……!」

 ネビアは少しうろたえたが、

「ネビア全力で行くぞ!」

 という俺の声に応え、[アイススパイク]を瞬時に2つ作り出した。
 だが、ネビアが現在使用できる最高威力の魔法[アイススパイク]は……
 一つは回避され、もう一つは魔法陣をに剣を突き立てられ、発動と同時に破壊された。

 そしてそれと同時に漆黒色の半月上の剣気を3本放ってきた。

「ネビア!!」

 咄嗟にネビアの前に立ち、魔装魂に闘気を限界まで込めた。

――ドンドンドンッ!

「ぐ……!」

 何とか受け切ったが、その衝撃は今までに感じた事が無い程のものだった。
 本来鋭利なこの攻撃は魔装魂を極限に高めてなければ、胴体真っ二つになっていたと確信させた。

「フィアン!!」
「ネビア! 攻撃を緩めるな!」

 ネビアはその後も変則的に[アイススパイク]と[ウインドスピア]を放った。
 しかし、その魔法はシャドウナイトへは届いていない……。
 俺も渾身の[ブレードブラスト]を放ちたいが、そのタイミングで魔装魂が緩まってしまう。
 俺はかろうじて回避できるが、ネビアが回避しきれず被弾してしまう可能性が高い。
 ネビアに飛んできた攻撃は俺が盾にならなければいけない。

 すると、シャドウナイトは突然ピタリと静止し、剣を頭上に掲げた。
 その瞬間、剣先周囲からどす黒い瘴気が渦巻きはじめ、シャドウナイト周辺を埋め尽くした。

「まじかよ……!」

 それは絶望的な光景だった。
 瘴気の中から静かに赤色のウォーカーが大量に出現した。

 防御の事を気にしている場合ではない……。

 俺は渾身の力で[ブレードブラスト]を放った。
 ネビアも同様[アイススパイク]を全力で放っている。

 幸いな事に、このウォーカー達は俺達の全力攻撃でほぼ一撃で屠る事が出来た。

「とにかく、ウォーカーを全員倒すぞ!」
「そうですね!」

 その間も[ブレードブラスト]を放ったが、
 木の剣は3度の[ブレードブラスト]に耐えきれず消し炭と化した。

「くっ!」

 俺は咄嗟にナイフを取り出そうとしたその時……
 傍観していただけのシャドウナイトが突如漆黒色の剣気を放ち始めた。

 それは俺でなくネビアの方へと向かう。

「まずい……ッ!」

 咄嗟にネビアの方へ[閃光脚]で移動し、ネビアを庇った。

「ぐ……! さっきより重い……!」

 そう感じた瞬間、ネビア俺の後ろで声にならない悲鳴を上げた。
 咄嗟に振り向きネビアを見ると、右の太腿から下が吹き飛んでおり、そのまま倒れ込んでしまった。

「ネビア!!」

 後ろに振り向く行為……それはシャドウナイトに十分な隙を与えてしまっていた。

「――ッ!」

 ぞっとした気配を感じた時にはもう遅かった。

――ザンッ!!

 瞬時に眼前まで移動していたシャドウナイトは、漆黒の剣を間髪入れずに真っ直ぐに突き抜いた。

「が-―ッ!」

 咄嗟に身体を捻り心臓一突きは免れたが、ほぼ致命傷だった。
 そして俺も足に力が入らなくなり、その場で膝をついた。

 シャドウナイトはそれを見て後退し、剣を掲げ始めた。
 どうやらトドメの一撃を放とうとしているようだ。

 今までに感じた事の無いリアルな死の感覚……。

 俺の頭には走馬灯のような光景が広がっていた。

 ネビアと訓練した日々、お互いが自分だったと分かった時に笑った事、両親と仲良く暮らした日々を……。
 その時、俺はふっと笑いながら思った。

 走馬灯で見る景色は、前世では無くネビアとの思い出ばかりだな……と。

「フィアン……手を握ってください」

 擦れるような声でネビアは言った。
 時間にしてほんの数秒だった走馬灯を見ていた俺は、その声ではっと意識が戻った。

「もちろんだ……!」

 俺は失血で震える自分の手でネビアの手を強く握りしめた。
 ネビアは息が荒く、目の焦点が既に合っていない。
 そんな状態で振り絞った声は

「フィアン、今までありがとう……」

 だった。
 俺はそれを聞いて涙があふれた。

「俺もだ。ネビア、ありがとう……短いけど今までで一番楽しいひと時だった……」

 それを聞いたネビアは少し笑い、そのまま動かなくなった。

「ネビア……! 大丈夫。一人にしない。俺もすぐに逝くから……」

 消えそうになる意識を何とか保ち、ネビアを力いっぱい抱きしめた。

 そして、俺も後を追うように意識が消えた……。
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