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第一章 幼少〜少年編

4話 俺が二人

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「とりあえず、出来るようになったっていう魔法を見せてごらん」

 そう言う半信半疑のゼブに一通りできるようになった魔法をすべて見せた。
 出し惜しむ必要もない為、指で描くのでなく[ライトペイント]を空中で操作し、即時で発動させる形で見せた。

 ゼブはそれを見て、ぽかんとしていた。

「あれ、出来てなかったかな……?」

 俺がそう質問すると、

「いやそうじゃない! なんだい今の描き方!? 初めて見るぞ……!」

 ティタと同じようにゼブは目を輝かせ質問してきた。
 その質問にはネビアが丁寧に実演しながら答えていた。
 
・・・

「……無理だね。光の玉を作り出すのも一苦労だ」

 ゼブはそう言いながら、掌に一つの光の玉を辛うじて出現させていた。

「しかし……[ライトペイント]自体をそこまで研究し応用を利かせるなんて……凄すぎるよ」
「これ、そんなに凄いんですか……?」

 平然と光の玉を7つ、自在に浮遊させながらネビアは言った。

「すごいよ! まるで瞬撃の魔術師みたいだ」
「瞬撃の魔術師?」
「ああ。この人は伝説の魔法使いと言われていてね……」

 ゼブは少しだけその話をしてくれた。

 大昔に、瞬撃の魔術師と呼ばれた伝説の大魔法士が、浮遊する光の玉を自在に操り、魔法を一瞬で発動させていたそうだ。
 君達の[ライトペイント]はそれに似ている気がする。全く別物の可能性もあるけど! と説明してくれた。

「とにかく神話みたいなレベルの魔法だから魔術の学校では[ライトペイント]が使える様になった瞬間、四大属性魔法の授業に移る。[ライトペイント]自体を極める事なんてないんだ……」

 [ライトペイント]はペンみたいなものだ。持ち方を覚えたらすぐに文字の練習をするのと同じで、持ち方を覚えて更にペンを改造しようと考える人はいない。
 ある意味何も知らなかったから出来た練習だな。

 ゼブはこれは教え甲斐があるぞと、喜びを見せながら何から教えようかと頭を悩ましていた。

 その様子を見ていたティタもとても嬉しそうにしている。
 それにつられて、俺も何だが嬉しい気持ちになっていた。

・・・
・・


 その日から、勉強、魔法練習、剣術、休日(二人で修行)の流れで両親はずっと付き合ってくれるようになった。
 ゼブとティタは仕事を交互に行くようになり、それぞれから学ぶ形だ。
 4歳児には結構なハードスケジュールだと思うのだが、ネビアも喜んで一緒に付き合ってくれた。

 休日、森に出る許可も既に出してもらっていたが、
 絶対に森の奥にある、光の線から出てはいけないと釘を刺された。

 理由は、光の線を越えると魔物やシャドウが出るからだそうだ。
 シャドウという単語を聞いた時、シャドウナイトに一歩近づいたような気がして嬉しかった。
 本当はそれを両親に聞きたかったが、興味を持ったと思われ森に行く許可も取り消されたら困るので、
 今は詳細は触れないでいつか聞く事にした。

 そうやって修行を続けるうちに、俺とネビアで徐々に才能の差が出てきた。

 ネビアの魔法はもう俺のかなり先を行っており、もはや嫉妬などを忘れてしまう程だ。
 だが一方で剣術に関しては俺の方が遥かに上達していた。

 剣術ではネビアが先に疲れてぐったりしてしまうが、俺は一切疲れなかった。
 しかし、魔法の練習では逆で俺が先に疲れた後も、ネビアは一切疲れを見せない……。

 ゼブはそれを見て、

「フィアンは闘気、ネビアは魔力が多いみたいだね」

 と言っていた。
 魔法に使用する「魔力」と、剣術や己の肉体に使う力を「闘気」と呼ぶそうで、俺達は綺麗に得意が分かれているようだった。

・・・

「二人とも、剣をうまく振れるようになってきたから、型について教えるわ」

 いつしかそう言って、剣術の型について教えてくれた。それまでは素振りや体力づくりの訓練ばかりだったから嬉しかった。
 型は3つに分かれており、

・守型:守りに徹する型。大きめのシールドと中型の武器を使用する際に適している。
・攻型:攻撃力に特化した型。大剣等の大型武器を使用する際に適している。
・柔型:攻防バランスの取れた型。小型の盾と中型の武器を使用する際に適している。

 と存在する。

 ティタは柔型剣士だそうで、習うのは柔型の剣術となった。
 剣術というが、どちらかと言うと自身の身体を闘気で強化し、爆発的な速さでの移動や攻撃を行うのがメインらしい。

 俺がネビアを背負ってかなりの速さで移動出来たのは、柔型初級剣術[閃光脚]というのを無意識に使用してたからだそうだ。
 
・・・
・・


 修行を開始してから早1年……俺とネビアは5歳になっていた。
 身長は120cm近くまで伸び、剣も魔法もかなり上達して、自身の成長に喜びを感じると同時に焦りが出ていた。

 6歳までにシャドウナイトを倒す……。
 つまり5歳の内に倒さなければならない。
 残された時間は1年を切っている。

 俺はそう焦りながら、俺とネビアで作った、覚えた魔法と剣術表を眺めていた。

--

フィアン
魔法
火:中級 水:中級 風:初級 土:初級
剣術
柔型:中級 攻型:初級 守型:見習い級

--

ネビア
魔法
火:中級 水:上級 風:中級 土:初級
剣術
柔型:初級 守型:見習い級
--

 こうやって改めて見ると、魔法と剣術で差がかなりあると分かる。

 とは言え両親は……

「天才って言葉じゃ足りないよ。魔法は初級全部できたら立派な一人前と言われる。なのに、その歳で中級を複数、更には上級魔法がができるなんて……!」
「剣術も中級レベルなら騎士なんて一瞬でなれるわ! 二人とも本当に凄いわよ!」

 と大喜びをしている。

「そんなに褒められると照れるよ。じゃぁ森に行ってくるね!」

 今日は休日に設定された日の為、俺とネビアは森へと向かった。

 しばらく二人で魔法と剣術の練習をしていると……

「しまった。昼ご飯を忘れた。取りに戻るよ」

 とネビアを置いて閃光脚で急いで家に戻った。
 すると……

 両親の部屋からぎしぎしと音が聞こえてきた。
 しかも不用意に部屋の扉が半開きだ。
 興味本位で部屋を少し覗いてみたのだが……

「ゼブ……ッ! ダメよ! もう足が言うことを聞かないわ……」
「まだまだこれからだよ。[ヒーリングライト]」
「ゼブ! お願い私にもヒールかけてよぅ……一人だけずるいわ……」
「君にかけちゃうと折角ここまでよくなったのも治っちゃうからね……駄目だよ? じゃぁ続きを始めよっか」

 美男美女のプロレスは絵になるな……。
 ゼブはこの時は攻めになるのか。

 とか思ってしまったが、じっくりと見ていいものではない。
 こっそりと食事を拝借し、森に戻るとしよう……。

・・・

 本当なら魔法と剣、両方とも極めたい。
 しかし、自分でもわかるほどに剣の方が上達している。
 ネビアと比べると一目瞭然だ。

 あまり時間が残されていない中、長所を伸ばす方が得策だと考えてからは俺は剣術、ネビアは魔法をメインに特訓している。

「そろそろお昼ですね。食事休憩しましょう」

 ネビアがそう言ったので、俺は頷き、カバンからパンと干し肉を取り出した。

「干し肉は沢山食べないとな! 貴重なタンパク質だ」

 俺はそう言って、パンと干し肉を頬張った。
 その時、ネビアは俺をじっと見て何かを考えている様子だ。

「どうしたネビア……?」

 ネビアは少し言うか迷っている様子だったが、
 改めてこちらを見て質問してきた。

「フィアン、貴方ももしかして……転生者ですか?」

 その質問を聞いた後、あまりにも唐突な質問で、口に含んだものが出そうになった。
 ネビアはそんな俺に大丈夫ですか? と水を差しだした。

「ありがとう。ネビア……てか唐突になんでそんな質問を……?」
「タンパク質……この世界では知る術は無いですよね? 今まで見た本にも一切乗ってなかったです」
 
 俺はどう答えるか非常に迷ったが、この時点でネビアも転生者確定なので、特に隠す必要もないと判断した。

「ああ、転生者だ。貴方も……という事はネビアもだよな?」

 そう質問すると、ネビアはゆっくりと頷いた。
 お互い真剣な表情で顔を見つめ合ったが……。

 その後二人でふっと吹き出し、笑いがこみあげていた。

「ただの5歳児じゃないって思ってたけど、俺と同じ転生者だったなんてな!」
「フィアン、僕も同じ気持ちですよ!」

 そうなれば、気になってしまうのは転生前の話だ。
 お互いが日本人で、同い年。住んでる場所も同じような所だった。

「もしかしたら生前、近所だし知り合いだったかもしれないですね」
「ほんとそうだよな! こんな偶然ってあるもんなんだな」

 食事を殆ど平らげ、そろそろ片づけをしようかと言う所で、ネビアが

「フィアンは最後、何故こちらに来ることになったのですか? もちろん、言いづらいことだったら、言わなくてもいいですよ」

 と聞いてきた。

 思い出すと憂鬱な気分にもなったが、
 誰かに言いたい気持ちの方が勝っていた。

 俺はとんでもない会社に居た事から、最後は玄関で意識を失ってしまったことまでを赤裸々にネビアに話す事にした。

「そんな偶然って……」

 ネビアは全てを聞いた後、困惑した表情でそう呟いた。

「ネビア? そんな珍しい話でも無かっただろ?」
「フィアン、ちょっと信じられないと言うか……転生前の名前、―――ではありませんか?」

 俺は完璧に正解された為、驚きを隠せなかった。
 もしかして社内の誰かなのか?
 万が一ネビアが元社長だったりしたら俺は……!

「ネビアは、会社の誰かなのか……?」

 恐る恐るそう聞くと、ネビアから出たのは、

「いや、僕も―――なんですよ」

 という想像をはるかに超えた回答だった。

「ん……?」

 あまりにも突拍子が無かった為、聞き間違いかと思った。

「いやですから、僕も! 転生前はフィアンと同じなんです!」
「ええ……にわかに信じられないと言うか、意味が分からない……!」

 あたふたする俺に対して、ネビアは

「フィアン! 覚えてますか? 小学5年生の時、一人でこっそり――」

 ネビアはそう話始め、俺しか絶対に知らないような情報や出来事をぺらぺらと話始めた。
 聞いている内に二人で恥ずかしくなったり懐かしくなったりしていた。

 そして、一通りネビアの話を聞いた後、それは徐々に確信へと変わっていた。

「つまり、俺達は元は一人の人間だったけど、二人に分かれて転生したって事か……!」
「間違いないですね……」
「全然実感がわかないな……同じ人間だったとはいえ、こうして別人として目の前にいる訳だしな」

 なんとも不思議な感覚だが、元が同じ俺なら、ある意味安心だな。

「やたらに意見が合ったり好みが一緒だったのは、双子だからということ以上に、同じ人間だったからって事かよ!」
「あはは。そういう事ですね」

 そうやって二人で笑い合った。

「フィアン、僕もう気を使うの止めます!」
「そうだな! 自分に気を使ってるようなもんだしな!」

 そうして、改めて握手を交わし、自分のしたい事を伝える事にした。

「ネビア、俺は6歳になるまでにシャドウナイトを倒したい! 手伝ってくれないか?」

 それを聞いたネビアは、はっとした表情で、

「それ、試練ですか? 僕もそれしなきゃならないんです!」
「試練も一緒かよ!!」

「なら話が早い! まったく、もっと早くに転生しましたって言ってみりゃよかったよ」
「そうですね! 間に合う段階で聞く事が出来て良かったです」

「てか、俺だと分かったせいで、その話し方にすげえ違和感を感じるよ」

 俺は微笑みながらネビアに言った。
 すると、ネビアは少し照れた表情になり

「魔法が結構できたので知的な感じで行こうと思ったんですよ! 良く出来てるでしょう?」

 少し照れた表情で言った。

「ああ、完璧だな! 俺も剣が出来るからちょっと元気な感じで話してるしな……」

 今思えば、転生前の凄く忙しかった時、自分が二人居ればって思ってたな。
 それが今叶ったのだろうか。

 それをネビアに伝えると、そうかもしれませんね! とまた二人で笑っていた。

 俺達は双子だけど、両方とも俺なんだ。
 転生したら俺が二人になってたって事か。
 
 不思議な事もあるもんだな……。
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