芥川龍之介論 「『猿』か、『猿じゃない』か」

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芥川龍之介論 「『猿』か、『猿じゃない』か」

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<※芥川作品への言及(ネタバレ)があります。まだ芥川作品(『猿』以外も)を読んでない人は読まないように。>





『猿』(1916年/大正五年)(※文字数=5,530文字)



 私は学のない人間なので、専門的な分析は、よそで探してください。たくさんある……でしょう、多分……。

私の個人的な感想です。今回は、特に、『猿』の。


最初に『猿』を読んだ時に、「これは芥川としては、失敗作だねぇ~、駄作だな…」と思って、それで終わってました。

『羅生門』の兄弟作なので、悪くはないのですよ。
主人公は、『羅生門』とは逆で、◯◯になるのですから。個人的には、こっちの方が好みなエンディングです。


……しかしね、少なくとも、タイトルは……


『猿』じゃなくて、『猿じゃない』にしてよ……と思いましたよ…(笑)。


そうじゃないと、私のような脳のない人間には、認識しづらいんですよ、この作品。



読んでいる最中にも、「これはどうも面倒くさい作品だなぁ~」とは思ってました。

地の文が主人公の一人称なのですが、なぜだか時折、読者に話し掛けてるかのような物言いで…。主人公、作家ですか?と(笑)。
また芥川が何か仕掛けてるのかと…。わかんないけど…と。

そしたら、後でわかったことですが…、初出時の副題は「或海軍士官の話」となってたそうで(笑)。書籍化する時に、それが削られてる…。

おいおい、嘘でしょ? なんで?……それは置いとけよ……と言いたくなります(笑)。

芥川は後でいじるのが好きなんでしょうが、タイトル変更しといて、中を変えないとか……雑すぎる……。
ここから、失敗してると思いますけどね…。
そのせいで、後半、余計に、「はぁ~???」となります(笑)。


ただ、読んでる間に、何の仕掛けかわからないなりに読んでても、勿体ない作品だねぇ~ということはわかります。

だから、一般にたいした評価がないのですよ、この作品は。
芥川作品のオススメランキングをネットで検索しても、この作品は、一切名前が出てきません。

“猿”で検索してしまうと、“猿蟹合戦”ばかり出てきます(笑)。
正直、あっちは、私としては……「そっちはいいんだよ」としかいいようがない。検索結果に要らねえんだよ…と。
……さすがに、あれは、小説じゃないからさ(笑)。
色々、説明されても……「いや、聞きたくないから、それ」と。




要するに、この『猿』に言いたいのは……


1.タイトルが逆
2.策を弄しすぎ
3.だったら、長編にしてくれ



……ってとこでしょうか……。

この当時に、芥川に今作のタイトルを、『猿じゃない!』にする素直さがあったら……と思います……。

私のような能のない人間には、そうじゃないと、頭に残らないタイトルなのよ、これ。
作中、「猿」は悪い意味で使ってるわけですから…。


最後、主人公はどうしました?


同期の親友につっけんどんな態度で、「猿じゃない!」と言って見せたわけですから。
この瞬間から、彼は、善人に生まれ変わったのです。

「あいつは猿じゃない! それどころか、俺たちが猿なんじゃ! ウゴウガー!」……ってなもんですよ……内心……。

「羅生門」で言えば、「羅生門…じゃない!」……ってなもんですよ(笑)。


さらに、芥川は、中で語る話しとして、猿に時計を盗ませます……。
……ハイハイ、そこまでやるなよ……と言いたくなります(笑)。
時計だからさ…。もう、明白ですよね…。

時間に縛られて、身分に縛られて、……俺たちが、猿なんだ!……と、おっしゃる。

「俺たちは天使だ!」…じゃなくて、「俺たちが猿だ!」ですよ…。

いいんだけど、どうしても、「猿」だと、単語として平凡すぎるわけで…。インパクトなし……だからね。主人公が受けた衝撃を表現できてないのですよ…。

その点、「羅生門」は、それがどんなものか知らなくても、明らかに、「凄そう」な単語なわけで…、完璧に成功してるわけですよ…。作品そのものを表現する題名として。

「猿」じゃなくて、「猿じゃない!」が嫌だったら、いっそ、「猿の惑星!」……にでもしますかね……。

………………。




最後に、犯人が盗んだのは、「やはり女からだ」という文言があります。

……は?……てなもんですよ。

「やはり」とあったら、その前にも、女性が被害にあった例を書いてるのでしょうか?……書いてません……。

策を弄しすぎなんですよ…。匂わせかよ?

策士、策に溺れて、ブ~クブク……




さらに、「私は、小説をお書きになるあなたの前でも…」とか言い出す部分があります…。ここですよ!…(笑)。


おい!……もう、いい!って言ったろ!www


……あ、聞こえてねぇのか……。おかしいな……。時空を超えて、俺の声が作者に届いてるはずだが……。

どうも、最初のころから、地の文の、一人称表現があちこち妙だ……と思ったら……。

もう一回、言っときましょう……


策士、策に溺れて、ブ~クブク……


ああ、そうだ、……歌っとこうかな……


「策士~♪ 策に溺れてぇ~♪ ブ~クブクぅ~♪……」


地の文の人称おかしいだろ、これ……と思ってたら、この主人公、芥川らしき小説家を前に、自分の体験談を話して聞かせている……という設定だったらしいwww

それを、今作を最初に発表した時は、副題に「或海軍士官の話」と書いて、読者にわかりやすくしてたのに……短編集として書籍に載せる時に、削除したらしい…。おいおい…。


「策士~♪ 策に溺れてぇ~♪ ブ~クブクぅ~♪……ちゅんちゅん♪」


芥川だから、読者に不親切にした方が、本人は面白く感じたのでしょうが、そんなもん、全体に手直ししない限り、違和感しかないよ(笑)。

主人公の表現に、一々、妙なワンクッション入るところがあって、そのせいで、大事な部分がストレートに伝わってこなくなってしまってるわけですよ。

明らかに、失敗作なんだけど、……そうだな、駄作ではない。
少なくとも、俺にとっては…www

これはこれで悪くない。

平安時代とは違って、当時(大正時代)の現代人が、“善の心”に目覚める瞬間!……なわけだから。

もっとストレートに、そこを輝かせて欲しかった。


そのためには……当然、……長編にするしかない題材だったと思う。


五千五百文字程度で、上手く書ける文量ではないのだ。

主人公のことはもちろん、この舞台なのだから、書けることはいくらでもあったはずだし、……猿同様の荒っぽい水兵たちのエピソード。人情派の副長のことも。さらに、何かを盗まれたらしい女性と、犯人に何かあったのか。犯人が出来心だけで盗んだのか、それとも実家に何か特別な事情でもあったのか…。

前半の六百人からの水兵を裸か裸同然にして、盗人探しをする件をダラダラと描写して、眠くなりますが……その前に、この数人の主要登場人物の人となりと、関係性を書いておけば、もっと緊迫したシーンになったと思いますがね…。

主人公が、自分の内なる善の心に気づくきっかけは……犯人を捕まえる場面だけではなかったはずで…、そこに説得力を持たせたければ、もっと書き込むしかなかったと思います…。



……しかしながら、当時の芥川には、そんな気が微塵もなかったのは当方も既に理解している。


大正五年は、芥川がデビューしてまだ三年目で、夏目漱石先生がご存命であった最後の年である。

短編作家として、夏目先生に称賛されて、文壇にその位置を得た芥川にとって、自分の作品を、長編にするか否か…などという選択肢は、頭の片隅にも浮かばなかったはずである。




最後の最後に、「猿は懲罰をゆるされても、人間はゆるされませんから。」とあります。

これは当然、……師匠が夏目先生なわけですから、当時の人間(社会)を批判しているのでしょう。アホな猿として生きていれば(地位によっては)許されることであっても、まともな心のある普通の人間として生きている場合は許されないことであった…と。まともな人間の方が許されない、懲罰を受けることがある…と、おっしゃりたいわけで……。

もちろん、現在も、何ら変わりはありません。





最初に、「半玉」という単語を持ってきてます。

まぁ、もちろん、これも、狙いなわけで…。主人公がまだこの時点では、人間にはなってないのです。兵士として半人前とかいうことじゃなく、人間じゃなくて、まだ猿なのだ……と。

そして、すぐに、軍艦の上で、水兵の中にいるであろう泥棒を捕まえるために、身体検査が始まる…。

この出だしの流れも、ちょっといきなりすぎるんですよね…。

「羅生門」と比べても、あっちは登場人物、最初は一人ですから。飢饉の時代に屋敷を放り出されて、さてどうしたものかと羅生門で雨宿り……少なくとも、物語の始まりは、静かに始まります。
こっちは、いきなり、軍艦の上に600人ですよ!w そこですぐ、身体検査のラッパが鳴って、年の若い野郎どもが半裸・全裸になる……なんとけたたましい始まりでしょうか……。

そして、そのままの勢いで、エンディングまで……な感触です……。

さすがにそれでは……と著者も思ったのか、主人公が、善の心に目覚める場面を説明するのに、少々、文字数を使って、……くどいです(笑)。
まぁ、これも、今作が上手く行かなかった証明でしょうか。

アンタがこんな所で、文字数使ってどうすんのよ? スパッと表現しなきゃ、スパッと!……と言いたくなりますが……それは、百年も後の世界を無駄に生きてる阿呆な人間でも、未来から見れば、芥川がどういう作家かわかってるから言ってるだけで…(笑)。

当時はまだ、芥川が芥川に成り切っていなかった時期なわけですから…。
この時点までで、傑作と言えるのは、「羅生門」と「鼻」だけですから…。もしかしたら、本人もまだ試行錯誤な感覚だったのかもしれません。

ええ、今後、まだまだ……恐ろしいことになりますから(笑)。


はぁ~、しかし、思えば思うほど、今作は、長編にして欲しかった…と恨み節…。
夏目先生が亡くなった後、数年後にでも、焼き直しで、長編にしよう……とか思わなかったのだろうか……。
舞台と登場人物達を考えれば、良い青春小説にもなったろうし…。

主人公は啓示を受けて、生まれ変わったわけですから、犯人がどこかの刑務所のようなところに数ヶ月入れられたとしても、……その後は知りません……ではおかしいわけですよ…。
この件は、主人公にしても、人生の転機ですから、この後、犯人に面会に行ってやったり、盗みの理由も聞いて、何か手を貸せないかと考えるのが……善なる道であって……。
ここで終わってしまうのは、芥川の若気の至り…、猿も木から落ちる…………だが………………ん?………………


……あれ、もしかして……


……確かに、……まぁ、軍艦は、軍艦だから……(笑)。

そうか、そっちがあったね…。
そっちに肩入れしてしまっては、“戦争賛美”に繋がってもいけないし…か。
平和主義者の夏目先生の弟子としては、“軍艦もの”で、傑作を作ってもいけないし…とか。当然だね。

そういう意味では、今作を、失敗作にしたのは……わざとかもしれないな…。

恐ろしい話しだが……芥川だから、本気でそういうこともあるかもしれない(笑)。
だからこそ、長編にしとけば、これをきっかけに、主人公は軍人やめて、普通の仕事に就くとか、まじめな展開にもできたのに…。

だいたい、奈良島って何なんだよ、奈良島って(笑)。
この名前自体、匂わせ臭くて嫌なんだよ(笑)。



結果……何点にしとこうかな……。


……よくわかんねぇけど……



…………5点…………かな。100点満点で……。



あくまで、直感だけど(笑)。







<※今回のBGM:Shock The Monkey/ピーター・ガブリエル(ゲイブリエル)>



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