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一、黒髪のグレイ

3、革命の乙女(6)

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 今度はグレイが固まる番だった。
 たまご型の輪郭に、くっきりとした異国風の目鼻立ち。
 厚みがありながらも形の良い唇。
 それだけではない。
 蝋燭の炎がくっきりと映り込んだ輝くアーモンド型の瞳に、グレイの視線が吸い込まれてしまう。
 その周りを、松葉のようにピンと主張する長い睫毛が縁取っている。全てのパーツが作り物のように整っていた。
 赤い蝋燭に照らし出された、銅像のように美しい娘の、みずみずしい唇が開いた。

「そっか、暗くてわかんなかった」

 彼女は、確かめるような手つきでグレイの顔や髪に触れた。

「青い瞳、黒い髪……」

 少年の心臓が跳ね上がる。
 ドキドキと熱く、激しく脈打つ。
 口を開けてしまえば、本当に喉から飛び出してしまいそう。
 こんな気持ちは初めてだった。

「……ひとりぼっちの王子様」

 伏し目がちな娘がつぶやいた静かな吐息と、艶めいた唇がなまめかしくて、グレイはぞくぞくした。
 グレイは手袋の下にある、彼女の繊細な指先まで想像してしまった。
 熱くなった頬に、気づかれてはいないだろうか。
 そう思えば思うほど、気恥ずかしさが高まる。

「うん、オッケー」

 少女は急にからかうような明るい声を出すと、グレイを突き放し背を向けた。
 品定めをされた挙句、雑な扱いを受け、少年は少し傷ついた。
 誤魔化すように、自分で頬を撫でる。
 まだ、熱っぽい。
 それに、心臓がうるさい。
 なめし皮のビスチェに包まれた体――発育がよく少女らしい柔らかな曲線を持つそれが動くたびに、髪が銀色に輝いた。

「他に証明できるもの、ある? 知ってることでもいいわよ」

 少女は肩越しに問うてきた。
 先ほどまでの快活さが嘘のように静かだった。

「ううん、先に言ってあげよっか。例えば、〈リッコ事件〉の真犯人――女王様たちを殺したのはエフゲニー・リンデンだ、とか」

「どうしてそれを!」

 グレイは思わず叫び、立ち上がった。

「それは俺と、セルゲイたち三人しか知らないのに!」

「そう。知ってたんだ」

 少女の声は冷めている。

「でもあんただけが、『なぜか無傷で生き残った』。そうでしょ?」

 新たな興奮が少年の胸に一瞬で燃え上がった。
 彼は少女に詰め寄り、強引に振り向かせた。
 思わず、掴んだ両肩を揺さぶっていた。

「そうよね。あれは『事故なんかじゃない』」

 キッと睨みつけてくる瞳に、嘘の色は見えなかった。
 グレイは自分からのぞき込んで初めて、少女の瞳が美しいアメジストの輝きをしていることに気づいた。
 それが意志の光で輝いていることも。

「……お前、一体何者なんだ……?」

 グレイの声が震えた。

「あたしはテュミル。トレジャーハンターよ」

 少女の瞳が、まっすぐに少年を貫いた。

「あんたを迎えにきたわ、陛下。黒獅子団の指揮者として!」
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