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第一章 青き誓い

5、従騎士、ふたり(9)

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 本来は主君であるグレイズを舎弟のように連れて歩くのは、なんだか複雑な気分がする。
 遠慮はしないと言ったものの、まだ気も使う。
 だが、王子本人はリラックスしてピュハルタを見物し、セルゲイに懐いている。そのためか、修行と付き添いの一年で知り得なかったことを、今日一日だけでたくさん見聞きできた。
 安心して観光ができるのは、俺がいるから、かな。
 そう思うことにすると、不思議な誇らしさがあった。

「セルゲイ、そろそろ、ベルイエンへ行かないか。……君の邪魔をしすぎたようだ」

 カフェのテラスでレモネードのグラスを乾かしたグレイズがおずおずと申し出た。
 それをセルゲイは、前者にイエスを、後者にノーを返して、言われた通りにグレイズをベルイエン離宮へ連れて行った。
 紅白の薔薇が並ぶ王家の紋章、通称〈ヴァニアスの薔薇(ダブル・ローズ)〉が縫い取られたシュタヒェル騎士団のマントさえあれば、離宮のすぐ隣に併設されている神聖騎士団の城までは自由に入ることができたし、離宮の城門まで行けばグレイズの王子としての顔が利いた。

「ファロイスの土産だ。当番の皆で分けたまえ」

 と、グレイズの代わりに言ったセルゲイが飴の入った瓶を門番に渡す。
 彼らは突然現れた王子に驚き、丸めた目と口を、そのまま笑顔にした。
 それを見たグレイズの口元が小さくほころんだのを、セルゲイは見逃さなかった。

「じゃ、俺はここで」

「一緒ではないのか」

 きびすを返した従騎士の軽く挙げた手にかじりつかん勢いで、グレイズが追いかけて来た。

「叔母上に呼ばれたのは君だ。私はただ、それにかこつけてついてきただけで――」

「寄るところがあるんだ」

「ならば私もともに」

 フードを肩口に落としながら言うグレイズの額で、金細工のティアラが煌めいた。
 セルゲイは肩をすくめてみせた。

「お前の知らない奴に会うんだぜ。大丈夫。時間までには戻る」

「……わかった」

 忠犬のように生真面目に頷くグレイズに、セルゲイは一つニヤリとしてみせた。

「ケーキ、マルティータ様と一緒に食べながら待っててくれよな」

 その瞬間、グレイズの顔が一瞬で上気した。
 やっぱりそういうことか。セルゲイはにんまりした。
 寡黙で遠慮がちな王子が、なぜか急に問答無用でセルゲイを呼びつけてピュハルタへお忍びで連れて行けと命令したのには、やはり特別な理由があったのだ。

「いや、君を待つよ、セルゲイ」

 セルゲイは首を傾げた。その拍子にぽきりと筋が音を立てる。

「お姫様も待たせちまうけど?」

「それは我慢してもらうよ。彼女もきっと、君に会いたいだろうから」

 明るく微笑んだグレイズがチェッカーボードケーキの一つを両手に抱えて離宮に入っていくのを見送ると、セルゲイは再び歩き出した。
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