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投身自殺
第3章 自殺未遂 5
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「はぁ」
職員室を出た実月は水泳部の鍵を見つめながら大きくため息をついた。
部室の鍵の管理は生活指導主事の小西先生がしているのだがはっきり言ってあの人のことが苦手だ。
小言は多いし、昔はよかった今はこんな世の中で嘆かわしい的な愚痴も多いのだ。
しかも結構過去のことにこだわる。
さっきも鍵を取りに来ただけなのに「勝手に他校の異性を連れ込むとはどういうつもりだ」と三十分以上説教を受ける羽目になってしまった。
途中で電話がかかって来なければまだ続いていただろう。
「おい、実月」
背後からかけられた声に実月は肩を震わせ振り返った。
「せ、刹那。いつの間に……」
そこには腕を組んで壁に寄りかかっていた刹那とその横で姿勢正しく立っている探がいた。
「話をひと通り聞き終えたので待っていたんだ」
刹那はそう言いながら待ちわびたと言わんばかりに大きな欠伸をした。
「そ、そう……」
待っててくれるのはありがたいけど背後から声をかけるのは心臓に悪いから正直やめてほしい。
実月は小さく息を吐くと水泳部の部室の鍵を刹那に見せた。
「私はなんとか鍵は貸してもらえたけど、そっちはどうだったの?」
「別にどうもこうも探が話していた内容と殆ど一緒だった。盗撮カメラの隠し場所はダンボールを底上げして隠してあったり、ベンチの裏に仕組んであったりなど隠し場所にかなり手の込んでいた。時間のかかる作業を誰にも見られずにいる所からこの学校に詳しい人物が犯人であることは間違いないだろう」
その刹那の報告に実月は眉をひそめた。
部室に侵入してカメラを設置して盗撮。しかも犯人は内部犯の可能性が高い。
改めて聞くととても気分が悪かった。
「それに部員は『必ず施錠していたから侵入されるなんて信じられない』と言っていたが部室についていた鍵はディスクシリンダーだった。あんなもの、鍵に関して知恵のある奴が弄れば簡単に開けられる。防犯を強化したいのなら警備員を雇うより鍵を総取り替えしたほうがいいぞ」
刹那は実月の持っていた鍵を指差しながら呆れた顔で鼻を鳴らした。
ディスクシリンダー?
実月は視線を下げ手に持っていた鍵を見る。
鍵の先はすり減りところどころ変色している所からかなりの年期が入っているのがわかる。もう何年も取り替えていないのだろう。
刹那の言う通り防犯面には不安がある鍵だ。
「……あの実月さん」
「ん? なに?」
顔を上げた実月は刹那から少し離れた距離にいた探に手招かれた。
実月がそばに寄って行くと探は小腰を屈め耳元で囁いた。
「……実は刹那さん各部にまわった時凄くモテたんです。この三十分で二人の女子生徒から告白されたんですよ」
「へぇー」
三十分に二人もなんてマンモス校とはいえ物好きもいたものだ。
まあ、刹那はアイドル張りにイケメンだから顔がいいのが好きな子には白馬の王子様にでも見えたのだろう。
でもあのナルシストで傲慢な性格はちょっと……
「あの……反応薄くありません?」
実月の態度に探は眉を寄せ首を傾げた。
「え? だって刹那性格はあれだけどイケメンだし初対面ならモテるでしょ」
「でも、彼女としては心配じゃありませんか?」
探は気まずいそうに実月を上目遣いで見つめた。
……彼女?
……私が刹那の?
「………………」
しばらく沈黙したのち実月は我に帰ると全力で首を横に振った。
「ち、違うわよ! 刹那は私の彼氏とかじゃないから!」
本気で否定する実月を見て探は慌てて頭を下げた。
「え? そうなんですか? す、すみません。勘違いしてしまって……でも恋人関係でなければどういう関係なんですか?」
「どういう関係って……」
実月は言葉に詰まった。
刹那と私はどういう関係なのだろう。
自殺志願者と目撃者。
それが一番適確な表現だけど、それを言うのもな……
「友人みたいなものかな?」
「友人ですか……?」
探は少し納得のいかなさそうに首を捻ったがそれ以上深く追求してくることはなかった。
「しかし実月。三十分ほどで解放されるとは運がいいな」
刹那は壁にかかった時計を見上げながら言った。
「ああ、それは途中で小西先生に電話がかかってきたのよ。かなりの焦っていたから重要な電話だったみたいだけどおかげですぐに話を切り上げてくれて助かった……」
ん?
実月はある違和感を覚えた。
刹那は私に鍵を取りに行かせ、自身は探君を連れ各部に聞き込みをしに行った。
だが普通なら鍵を取りに行くのにはそこまで時間がかからない。数分で済むだろう。なら待っているはずだ。
しかし刹那はそれをしなかった。
つまり彼は最初から私が説教を長時間受けるとわかっていたのだ。
「ねぇ、刹那。もしかして私が小西先生に捕まるの見越して鍵取りに行くように言ったの?」
「ああ、その方が合理的だろ? まあ、説教も早く終わったんだしよかったではないか。とっとと次行くぞ」
刹那の素知らぬ素振りに実月は右手に持っていた鍵を強く握り締めた。
職員室を出た実月は水泳部の鍵を見つめながら大きくため息をついた。
部室の鍵の管理は生活指導主事の小西先生がしているのだがはっきり言ってあの人のことが苦手だ。
小言は多いし、昔はよかった今はこんな世の中で嘆かわしい的な愚痴も多いのだ。
しかも結構過去のことにこだわる。
さっきも鍵を取りに来ただけなのに「勝手に他校の異性を連れ込むとはどういうつもりだ」と三十分以上説教を受ける羽目になってしまった。
途中で電話がかかって来なければまだ続いていただろう。
「おい、実月」
背後からかけられた声に実月は肩を震わせ振り返った。
「せ、刹那。いつの間に……」
そこには腕を組んで壁に寄りかかっていた刹那とその横で姿勢正しく立っている探がいた。
「話をひと通り聞き終えたので待っていたんだ」
刹那はそう言いながら待ちわびたと言わんばかりに大きな欠伸をした。
「そ、そう……」
待っててくれるのはありがたいけど背後から声をかけるのは心臓に悪いから正直やめてほしい。
実月は小さく息を吐くと水泳部の部室の鍵を刹那に見せた。
「私はなんとか鍵は貸してもらえたけど、そっちはどうだったの?」
「別にどうもこうも探が話していた内容と殆ど一緒だった。盗撮カメラの隠し場所はダンボールを底上げして隠してあったり、ベンチの裏に仕組んであったりなど隠し場所にかなり手の込んでいた。時間のかかる作業を誰にも見られずにいる所からこの学校に詳しい人物が犯人であることは間違いないだろう」
その刹那の報告に実月は眉をひそめた。
部室に侵入してカメラを設置して盗撮。しかも犯人は内部犯の可能性が高い。
改めて聞くととても気分が悪かった。
「それに部員は『必ず施錠していたから侵入されるなんて信じられない』と言っていたが部室についていた鍵はディスクシリンダーだった。あんなもの、鍵に関して知恵のある奴が弄れば簡単に開けられる。防犯を強化したいのなら警備員を雇うより鍵を総取り替えしたほうがいいぞ」
刹那は実月の持っていた鍵を指差しながら呆れた顔で鼻を鳴らした。
ディスクシリンダー?
実月は視線を下げ手に持っていた鍵を見る。
鍵の先はすり減りところどころ変色している所からかなりの年期が入っているのがわかる。もう何年も取り替えていないのだろう。
刹那の言う通り防犯面には不安がある鍵だ。
「……あの実月さん」
「ん? なに?」
顔を上げた実月は刹那から少し離れた距離にいた探に手招かれた。
実月がそばに寄って行くと探は小腰を屈め耳元で囁いた。
「……実は刹那さん各部にまわった時凄くモテたんです。この三十分で二人の女子生徒から告白されたんですよ」
「へぇー」
三十分に二人もなんてマンモス校とはいえ物好きもいたものだ。
まあ、刹那はアイドル張りにイケメンだから顔がいいのが好きな子には白馬の王子様にでも見えたのだろう。
でもあのナルシストで傲慢な性格はちょっと……
「あの……反応薄くありません?」
実月の態度に探は眉を寄せ首を傾げた。
「え? だって刹那性格はあれだけどイケメンだし初対面ならモテるでしょ」
「でも、彼女としては心配じゃありませんか?」
探は気まずいそうに実月を上目遣いで見つめた。
……彼女?
……私が刹那の?
「………………」
しばらく沈黙したのち実月は我に帰ると全力で首を横に振った。
「ち、違うわよ! 刹那は私の彼氏とかじゃないから!」
本気で否定する実月を見て探は慌てて頭を下げた。
「え? そうなんですか? す、すみません。勘違いしてしまって……でも恋人関係でなければどういう関係なんですか?」
「どういう関係って……」
実月は言葉に詰まった。
刹那と私はどういう関係なのだろう。
自殺志願者と目撃者。
それが一番適確な表現だけど、それを言うのもな……
「友人みたいなものかな?」
「友人ですか……?」
探は少し納得のいかなさそうに首を捻ったがそれ以上深く追求してくることはなかった。
「しかし実月。三十分ほどで解放されるとは運がいいな」
刹那は壁にかかった時計を見上げながら言った。
「ああ、それは途中で小西先生に電話がかかってきたのよ。かなりの焦っていたから重要な電話だったみたいだけどおかげですぐに話を切り上げてくれて助かった……」
ん?
実月はある違和感を覚えた。
刹那は私に鍵を取りに行かせ、自身は探君を連れ各部に聞き込みをしに行った。
だが普通なら鍵を取りに行くのにはそこまで時間がかからない。数分で済むだろう。なら待っているはずだ。
しかし刹那はそれをしなかった。
つまり彼は最初から私が説教を長時間受けるとわかっていたのだ。
「ねぇ、刹那。もしかして私が小西先生に捕まるの見越して鍵取りに行くように言ったの?」
「ああ、その方が合理的だろ? まあ、説教も早く終わったんだしよかったではないか。とっとと次行くぞ」
刹那の素知らぬ素振りに実月は右手に持っていた鍵を強く握り締めた。
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