自殺探偵 刹那

玻璃斗

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投身自殺

第3章 自殺未遂 3

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「実月」

その声に実月は振り返った。

そこには前髪を赤のピン留めでとめたショートヘアの少女が立っていた。

少女がつけているヘアピンは彼女の誕生日に私があげたものだ。
本人はこんな派手な色似合わないと言っていたが、私は普段はおっとりしているのにどこか強い意志を持っているそんな彼女の雰囲気とあってとても似合っていると思っていた。

「どうしたの? 千晶」

実月が返事を返すと彼女はいつも以上に真剣な表情をし、口を開いた。

「ねぇ、実月はーーーーーー」








ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー

「ーーーーい」
「……ん」
「おい、実月!」

「……刹那?」
「そうだ。貴様、この俺を無視するとはいい度胸だな」

顔を上げた実月の目の前には不機嫌そうに眉をひくつかせた刹那が仁王立ちしていた。

完全に開ききっていない目で辺りを見回すと実月は木の下に設置されたベンチに座っており、青々と生えた木々たちが生えた植え込みと太陽の光が反射し水面がきらめいた池が視界に入ってきた。

この風景には見覚えがある、悠仁高校の中庭だ。

実月は意識がはっきりしない中、記憶を探るように眉を寄せた。

……確か自殺騒ぎが終わった後、小西先生たちに呼び出され職員室で「どうして星白皇高校の生徒がいるのか」など色々事情を聞かれた。

その時、先生たちに連れていかれた椿が「刹那様! 待っていてくださいね! 刹那様がいるところたとえ火の中水の中、絶対会いに行きますから!」と危ない発言をしていた気がするが……これは聞かなかったことにしよう。

そして自分より刹那の方が事情を聞かれるのに時間がかかったため、木陰にあったベンチで座って待っていようとしたら時々吹く心地いい風が眠気を誘い、ついうとうとして居眠りをしてしまったようだ。

「あー、ごめん。最近あんまり寝てなくって……」

実月は目をこすりながら申し訳なさそうに頭を下げると刹那は口を尖らせた。

「貴様の親友の自殺理由を調べるためここに来たんだ。貴様が一通りそのことについて話をしなければ事情が分からないだろ」
刹那は深くため息をついた。
その姿を見て実月は視線を下げた。

千晶の自殺の理由。
そうだ。刹那はそのために来たんだ。

今までと言っても昨日からの付き合いだが、刹那と一緒にいて、彼に話をすればその謎解いてくれるそう感じた。

だから刹那になら話してもいいと思った。

でも……

怖い。

もし彼女が自殺した理由が私が知っていたことなのに気づくことが出来なかったことだとしたら、
もしそれが残酷なものだとしたら、

もし原因が私にあったとしたら。

しかしそれ以上に知りたかった。

何故千晶が自殺したのか。
一体何に悩んでいたのか。

刹那は人間は大きかろうと小さかろうと欲望を満たすために生きていると言っていた。

ならきっとこれも知りたいと言う欲望なのだろう。

「……わかった。話すわ」
意を決した実月はそう言うと刹那の目を見つめた。


ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー

水岡 千晶とは中学からの同級生で、お互い小学校の時から水泳をしていたこともあり同じクラスになってすぐに仲良くなった。他にも趣味や好きなものなども気が合い、中学時代はほとんどと言ってもいいほど一緒にいた。進学先が同じ悠仁高校だと知った時も馬鹿みたいに喜んだものだ。

そして無事に悠仁高校に入学した二人はもちろん水泳部に入部した。
悠仁高校の水泳部は雰囲気も良く、憧れの水泳選手である速水先生が顧問ということもあり入部して本当に良かったと思う。

こうして私達の高校生活は始まった。

しかし七月に入ってから急に千晶の様子がおかしくなった。

あからさまなものではなかったが千晶は何かを隠している様子で、何度そのことについて訊ねても「ただ調子が良くないだけだから」とはぐらかされてしまった。

そして夏休みの直前……

「自殺したのか」
「ええ」
隣に座る刹那を見て実月は唇を噛み締めながら頷いた。

「自殺したのはいつだ?」
「……先月の一二日」

忘れもしないあの日。

自宅に一本の電話がかかってきた。
何気なくとったその電話は思いもよらない内容だった。



『千晶が自殺した』



初めは悪い冗談だと思った。

昨日まで隣で学校生活を送っていた千晶が、昨日まで普通に話していた千晶が、
昨日まで一緒にいた千晶がもういないなんて。

信じられなかった。

その後滑り落ちた受話器を持ち直し色々な人に電話をかけた。

嘘だと思ったから、現実だと思いたくなかったから。
何度も何度も電話を鳴らした。

しかし現実はすぐに突きつけられた。

小雨の降る中行われた千晶の葬式。
焼香の匂いが満ちた部屋で喪服に身を包んだ千晶のお母さんもクラスの女子も部活のみんなも泣いていた。

なのに不思議と私は涙が出なかった。

最後の花を手向ける時「見ない方がいい」と速水先生に言われた。

でも千晶にお別れを言わなきゃいけないから、顔をもう見ることはできないから、そう思い何度も何度も棺桶の窓に手をかけ、顔を見ようとした。



だけど私には、そんな勇気なかった。





「ということは実月が先程警備員を雇ったがあまり意味がなかったと言っていたのはその自殺を止められなかったからか?」
刹那の言葉に実月は首を横に振った。

「ううん。千晶げ自殺したのは刹那と会ったあのビル」
「つまり千晶は学校ではなくあのビルから投身自殺をしたということか。あのビルは千晶と何か関係があったのか? 通学路の途中にあったとか」
「関係? なかったと思うけど。千晶の家の反対側だったし」
実月は中学の時に行った千晶の家を思い返すように眉をひそめながら答えた。
刹那は右目を瞬かせると考えるように手を口元にやった。

「なら先程警備員を雇ったがあまり意味がなかったと言っていたのはどういう意味だ?」
「あー、それは……」
実月は気まずそうに髪を弄った。

「実は盗撮騒ぎがあったのよ」

「盗撮騒ぎ?」
刹那は首を傾げた。

「うん、色々な部活の更衣室からカメラが見つかったんだけどそこにはその……着替えの所とか撮ってあって大騒ぎになったの。千晶の自殺のすぐ後だったし先生たちも対応が大変だったらしいよ」
「すぐ後とはいつぐらいだ?」
「……確か三日後ぐらいかな」
その時学校内ではかなり騒ぎになったようだが千晶のことで頭が一杯だった私には詳しいことまで記憶に残っていなかった。

「盗撮騒ぎか……で、犯人は見つかったのか?」
「まだ見つかってない。一応警察に被害届けを出したらしいけど」
「どこが盗撮されたか詳しく知っているか?」
「いや部活の更衣室ってぐらいしか……」
「じゃあ、今すぐ教師どもに聞いてこい」
刹那はベンチに腰かけたまま職員室を指差した。

「あのね。ただの生徒にそう簡単に教えてくれるわけ無いじゃ無い」
「……使えないな」
実月が呆れた声で答えると刹那は舌打ちをしそっぽを向いた。


「あのね。ただの生徒にそう簡単に教えてくれるわけ無いじゃ無い」
「……使えないな」
実月が呆れた声で答えると刹那は舌打ちをしそっぽを向いた。

実月はその態度にため息をつくとふと昨日の事件現場にいた彼のことを思い出した。

確か彼は悠仁高校の新聞部に所属していて、持っていた原稿の内容は『学校の警備の甘さ』。

きっとこの事を記事にしているのだろう。
なら……

「詳しく知ってるかも」

そう考えた実月はグラウンドの端に立てられた文化部の部室棟に視線をやった。
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