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投身自殺
第2章 服毒自殺 10
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椎名 薫は刹那が推理した通り里村 清美の関係者であった。
椎名と里村は高校時代の部活の後輩と先輩で里村が高校を卒業したあとも二人の間には交流があり、姉妹のように仲がよかったという。
しかし一年前里村が森久保 真琴との痴情の縺れが原因で自殺した。
「信じれませんでした。数週間前まで彼氏と一緒に写っている写真をみせて嬉しそうにしていた清美先輩が自殺するなんて……」
その後椎名は里村の部屋を片付けているとき押し入れの奥に閉まってあった薬瓶と手紙を見つけたという。
すぐに薬瓶の中身が里村が飲んだ毒物だと分かったが森久保や小町に対する恨みつらみが書かれた手紙を読んだ椎名は警察に届けず家に持って帰った。
運命のいたずらか、その次の日自殺の原因である写真に写っていた男、森久保の浮気現場をこの喫茶店で目撃した。
「あんなことがあったのに平然とまた浮気してるのが許せなくて……清美先輩と同じ苦しみを味わせようと思いました」
毎週火曜日この店で浮気相手と会っていると知った椎名は復讐をするためこの店の店員として雇われ機会を窺っていた。
そして決行の日が今日であった。
ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー
「ねえ、刹那はいつからあの店員さんが犯人だって思ったの?」
事情聴取も終わり辺りが薄暗くなった大通りで、警察から解放された実月は自分の前を歩く刹那に問いかけた。すると刹那は得意げに髪をかき上げた。
「そりゃあ最初からだ。俺の聡明な頭脳であればあれぐらい一瞬で……」
「真面目に答えて」
実月に睨まれた刹那はかき上げた髪を整え不承不承ながら答えた。
「別に俺はあいつが犯人だと思ったのではなくあいつ以外犯行が出来ないから怪しいと思っただけだ」
「どういうこと?」
「ただの消去法だ。全員の証言を元に、俺らや三人の大学生、あの眼鏡もカップに触れることはできない。つまり犯行は不可能。残ったのは小町、宮古、辻野、椎名の四人。小町や宮古がカップに毒物を入れるなら争っているどさくさに紛れて入れるのが一番だがさっき言った通りスマホの動画からカップには触れていないことがわかる。店長が犯人だと考えると自分が真っ先に疑われるのがわかりきっているのにわざわざ二杯目に毒物を仕込むとは考えにくい。三人組と辻野が共犯だという考えもあったが、なら三人は赤の他人の振りをしてここに来るはずだしな」
刹那は伸ばした十本の指を順に折っていき、残りの一本を実月に突き出した。
「だから残った店員さんが犯人だと?」
「ああ、それに被害者が倒れた後テーブルの近くにいたしな。砂糖の小瓶を他の席と変えるチャンスはあった」
刹那は鼻を鳴らしながら頷いた。
確かに言われてみれば被害者が倒れた時、彼女は他の人と距離を取りテーブルの近くに立っていた気がする。
しかしそうなると疑問に残ることがある。
「ねえ、二杯目のエスプレッソが入れられる前に砂糖に毒物を入れたんでしょ? なら彼女が小瓶に触れているのを被害者は見ているはずよね。いくら店員だって言っても用もないのに勝手に小瓶を触ったりしたら不審がるんじゃない?」
砂糖の小瓶は店員が持ってくるものではなくもともとテーブルに備え付けてあった。犯人がテーブルに近づけたとしても毒物を入れるタイミングはあったように思えない。
「何言っているんだ。スプーンを持って行った言っているのは椎名だけだ。他のやつは直接その事を聞いていないだろ。つまりいくらでも森久保が言ったことを改竄できるんだ。椎名は被害者からスプーン以外に頼まれごとされてたんだ」
「他の頼まれごと?」
「『砂糖がなくなりそうなので継ぎ足してください』とかな」
あ、そっか。
「そう頼まれれば砂糖の小瓶を触ったり取り替えたりしても不自然じゃない。でもそれってタイミング良すぎない? 丁度その時に砂糖がなくなるなんて……」
「よく考えてみろ、客を席に案内するのは店員の椎名だろ。森久保を案内する席の小瓶の中を前もって少量の砂糖しか入れておかなければ、いつもお代わりを頼んでいる森久保から継ぎ足してほしいと言われるのは予想がつく。もし言われなければこちらから言えばいいだろ」
「なるほどね」
被害者を席に案内したのは彼女だった。ならいくらでも自分の好きな席に誘導できる。
「これで気が済んだだろ。それより実月、携帯を見せろ」
そう言うと刹那は実月の目の前に手を出した。
「携帯?いいけどなんでまた……」
実月がカバンの中から携帯を取り出すと刹那は素早く実月の手から掠め取り、数秒間弄ると投げ返した。
実月は慌てて宙を舞った携帯を掴む。
「ちょ、危ないじゃない! てか何したのよ!」
「俺の連絡先を登録した」
「刹那の?」
実月が携帯の画面を開くと電話帳の一番上に『愛河刹那』と表示されていた。
「今日はもう遅いからな。また後日話を聞かせろ」
「話って……」
「本来の目的を忘れたのか?」
「貴様の親友の自殺の謎を解いてやるって言っただろ」
椎名と里村は高校時代の部活の後輩と先輩で里村が高校を卒業したあとも二人の間には交流があり、姉妹のように仲がよかったという。
しかし一年前里村が森久保 真琴との痴情の縺れが原因で自殺した。
「信じれませんでした。数週間前まで彼氏と一緒に写っている写真をみせて嬉しそうにしていた清美先輩が自殺するなんて……」
その後椎名は里村の部屋を片付けているとき押し入れの奥に閉まってあった薬瓶と手紙を見つけたという。
すぐに薬瓶の中身が里村が飲んだ毒物だと分かったが森久保や小町に対する恨みつらみが書かれた手紙を読んだ椎名は警察に届けず家に持って帰った。
運命のいたずらか、その次の日自殺の原因である写真に写っていた男、森久保の浮気現場をこの喫茶店で目撃した。
「あんなことがあったのに平然とまた浮気してるのが許せなくて……清美先輩と同じ苦しみを味わせようと思いました」
毎週火曜日この店で浮気相手と会っていると知った椎名は復讐をするためこの店の店員として雇われ機会を窺っていた。
そして決行の日が今日であった。
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「ねえ、刹那はいつからあの店員さんが犯人だって思ったの?」
事情聴取も終わり辺りが薄暗くなった大通りで、警察から解放された実月は自分の前を歩く刹那に問いかけた。すると刹那は得意げに髪をかき上げた。
「そりゃあ最初からだ。俺の聡明な頭脳であればあれぐらい一瞬で……」
「真面目に答えて」
実月に睨まれた刹那はかき上げた髪を整え不承不承ながら答えた。
「別に俺はあいつが犯人だと思ったのではなくあいつ以外犯行が出来ないから怪しいと思っただけだ」
「どういうこと?」
「ただの消去法だ。全員の証言を元に、俺らや三人の大学生、あの眼鏡もカップに触れることはできない。つまり犯行は不可能。残ったのは小町、宮古、辻野、椎名の四人。小町や宮古がカップに毒物を入れるなら争っているどさくさに紛れて入れるのが一番だがさっき言った通りスマホの動画からカップには触れていないことがわかる。店長が犯人だと考えると自分が真っ先に疑われるのがわかりきっているのにわざわざ二杯目に毒物を仕込むとは考えにくい。三人組と辻野が共犯だという考えもあったが、なら三人は赤の他人の振りをしてここに来るはずだしな」
刹那は伸ばした十本の指を順に折っていき、残りの一本を実月に突き出した。
「だから残った店員さんが犯人だと?」
「ああ、それに被害者が倒れた後テーブルの近くにいたしな。砂糖の小瓶を他の席と変えるチャンスはあった」
刹那は鼻を鳴らしながら頷いた。
確かに言われてみれば被害者が倒れた時、彼女は他の人と距離を取りテーブルの近くに立っていた気がする。
しかしそうなると疑問に残ることがある。
「ねえ、二杯目のエスプレッソが入れられる前に砂糖に毒物を入れたんでしょ? なら彼女が小瓶に触れているのを被害者は見ているはずよね。いくら店員だって言っても用もないのに勝手に小瓶を触ったりしたら不審がるんじゃない?」
砂糖の小瓶は店員が持ってくるものではなくもともとテーブルに備え付けてあった。犯人がテーブルに近づけたとしても毒物を入れるタイミングはあったように思えない。
「何言っているんだ。スプーンを持って行った言っているのは椎名だけだ。他のやつは直接その事を聞いていないだろ。つまりいくらでも森久保が言ったことを改竄できるんだ。椎名は被害者からスプーン以外に頼まれごとされてたんだ」
「他の頼まれごと?」
「『砂糖がなくなりそうなので継ぎ足してください』とかな」
あ、そっか。
「そう頼まれれば砂糖の小瓶を触ったり取り替えたりしても不自然じゃない。でもそれってタイミング良すぎない? 丁度その時に砂糖がなくなるなんて……」
「よく考えてみろ、客を席に案内するのは店員の椎名だろ。森久保を案内する席の小瓶の中を前もって少量の砂糖しか入れておかなければ、いつもお代わりを頼んでいる森久保から継ぎ足してほしいと言われるのは予想がつく。もし言われなければこちらから言えばいいだろ」
「なるほどね」
被害者を席に案内したのは彼女だった。ならいくらでも自分の好きな席に誘導できる。
「これで気が済んだだろ。それより実月、携帯を見せろ」
そう言うと刹那は実月の目の前に手を出した。
「携帯?いいけどなんでまた……」
実月がカバンの中から携帯を取り出すと刹那は素早く実月の手から掠め取り、数秒間弄ると投げ返した。
実月は慌てて宙を舞った携帯を掴む。
「ちょ、危ないじゃない! てか何したのよ!」
「俺の連絡先を登録した」
「刹那の?」
実月が携帯の画面を開くと電話帳の一番上に『愛河刹那』と表示されていた。
「今日はもう遅いからな。また後日話を聞かせろ」
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