生死を分けるは一文字より

風見 坂

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第一章 神の遊戯 序盤

第七話~another side~ 夢と記憶

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 神の遊戯2日目
 雨の音が煩い。
 昨日は沢山大変な目にあったんだよ。
 疲れているの。
 もう少しだけ寝させてよ……


 目が覚めると、そこにはお母さんと知らない男の人が笑っていた。
 自分の手が小さい……
 お母さん達が大きい……
 あれ? どうなってるんだろ?
 お母さんと男の人以外にもう1人、小さな小さな男の子がいた。
 男の子はとても小さいはずなのに、自分より少し大きい。
 これは……記憶…………?


 次に目が覚めると9:30だった。
 まだ雨の音が煩い。
 さっきの夢は何だったんだろう……
 というか、そんなことより早く支度しないと!
 急いで朝食を食べ、歯を磨き、髪をといて着替える。
 支度が終わると同時、神様の声が頭に直接流れ込んできた。

神遊戯かみのゆうぎ、再開」

 危ない……間に合った……
 そんなことを思っていると、背後からトントンとされた。

「だ、誰!?」

 すぐさま前方に飛び、振り返る。
 するとそこに居たのは、味方の彼だった。

「な、なんだ……」
「警戒心が強いのはいいことだ」
「そ、そうですか……」
「今日はお母さんに会いにいかなくてもいいのか?」
「もう時間が……」
「確かに、朝は皆動きが鈍いとはいえ、しっかり戦う気でいるからな」

 また、夜に会いに行こう……
 会いたいけど、お母さんを危険な目に合わせられない。

「早くお母さんを助けたいんだろ? そろそろ行くぞ」
「は、はい!」

 今日もまた殺し合いに参加しなければいけない……
 お母さんのためだといくら言っても、結局は人殺し。
 お母さんのことを出汁にして、そんなことをするなんて……
 最近常にそんなことを考えている気がする。

「なんだ? 浮かない顔してるな」
「いや、お母さんのためとはいえ、人殺しはなぁと思いまして」
「気にすんな。実際に殺してるわけじゃねぇ。早く慣れろ」

 前にも気になったが、彼はどうしているのだろう。

「その疑問を口にしたところで俺は答えねぇよ」

 また心を読まれていたみたいだ。

「ただ、一つだけ言っておくが、俺は生活の上で殺人なんてことはしない」

 ますます謎だ。
 もしかして、この遊戯に既に参加したことがあるとか?
 この遊戯が第一回だという確証もない。
 でも、もしその仮説が正しいなら、彼は前回の勝者……?

「お前、結構賢かったりするのか?」
「そんなことはないと思いますけど……」
「そうか」

 この考えを読んだ上で、賢いと言ったのだろうか。
 それともただの疑問?
 彼には聞きたいことが山ほどある。
 そもそも、名前なんだろ。
 今まで聞いてなかったなぁ。

「名前……教えて下さい……」
「ふむ……名前か……とりあえず、幡桐はたぎり つばさとでも名乗っておこうか」
「名乗る?」
「そこは気にするな」

 気にしないとか無理でしょ……
 厨二病? 偽名?
 厨二病ではなさそうだから偽名なのかな。
 なんで偽名を使うんだろ。

「すぐに色々なことを考えるな、お前」
「考え癖が付いてるんですよ……」
「それはそれで大変そうだな」
「はい……」

 ふと、今日の朝見た夢を思い出した。
 翅さんの能力は分からないけど、夢に関して何か分かることがあるかも。

「あの……今日の朝見た夢に関して教えて欲しいんですけど……そういうの可能ですか?」
「どんな夢かによるな」
「もう一度同じ夢を見ることは?」
「出来るが、今から家を出ようって時に二度寝するつもりか?」
「そういう訳では……」
「もう一度見たいのか?」
「気になる点が多かったので……」
「記憶が夢になった、みたいなやつか?」
「多分」
「そういうのをもう一度見るのはオススメしないな」
「え!? 何でですか?」
「夢に出てくる記憶は、脳が閉じ込めた記憶。そして、脳が閉じ込める記憶ってのは、今の自分にとって辛いものなんだ」
「でも……」
「この遊戯の最中にその記憶がよみがえると、多分だがお前は負けるぞ」
「そんな……」
「ちょっと待っててくれ。能力“組”“見”“仮”」

 彼は何故か目を瞑り、考え事を始めた。
 考え事をしてるように見えるだけで、また別のことをしているかもしれないけど。

「やっぱり、お前は今その記憶をよみがえらせるべきじゃねぇ」
「そんなに言うなら……」
「そろそろ家を出てもいいか?」
「そうですね」

 気づけば、10:20になっていた。
 ドアを開け、2人とも家の外に出た時、昨日男の子と出会った街の方で爆発が起こった。

「派手にやらかしてるなぁ」
「そんなこと言ってる場合ですか! 早く行きましょう!」

 急いでドアの鍵を閉め、爆発の起こった方向へ走り出す。

「まぁ待て。お前が行って何になる。」
「うぅ……」
「何も出来ない。それが答えなのはお前にも分かるだろ」
「はい……」
「そんな落ち込むな」

 肩を落とし、彼の元へと戻る。
 その間、彼は何か独り言を言っていたようだが、全く聞き取れなかった。

「そんなに行きたいなら一応見に行くか? 遊戯と無関係かもしれないが、遊戯に関係しているなら戦いが見れるかもしれないし」
「はい」

 なんだが嫌な予感がするのだ。
 あの男の子は無事だろうか。
 敵だし、狂っているし、服を燃やされたけど、少し和解出来たからには死んで欲しくなかった。

「急ぎましょうよ」
「分かったよ」

 街の近くまで来ると、たくさんの人が私たちと反対の方向に走って逃げていく。
 数名、私たちと同じように、興味でか爆発源に向かう人もいた。

「遊戯によって一般人に被害が出た場合どうなるんですか?」
「今回のが遊戯に関係していて、一般人に被害が出ていた場合、今のこの戦いが終わってから、という世界と同じように、記憶改竄きおくかいざんや建物、生物の再生を行われるだろうな」
「あまり何言ってるか理解出来なかったけど、とりあえず大丈夫なんですね?」
「あぁ、多分」

 たまにこの人の発言が心配になる。
 そんなことを思っていると、また爆発が起こった。

「絶対、遊戯関係してますよね」
「だろうな」

 ようやく爆発源の辺りに着くと、人が3人いた。
 あの緊張感が襲ってきたため、能力者達だろう。

「あ、やっぱり」
「どうした」
「嫌な予感が当たってました」

 能力者達は2対1の形で立っている。
 そして、その1の立場にいるのが、あの男の子だった。

「あの2人組が“雷”“剣”で、あの少年が“炎”か」
「もうあの子ボロボロじやないですか」
「もう苦しくて痛くて辛そうな顔をしているな」
「助けなきゃ」
「助けた後は? どうするつもりだ」
「それは……」

 そんな会話をしていると、2人組が攻撃の準備を始めた。
 恐らく“雷”の能力者であろう人の前に、剣が5本生成ると、“雷”の能力者は手元をバチバチと鳴らし始め、小枝を片手に持った状態で両手を叩いた。
 すると、小枝が一瞬にして灰となり、炎とともに衝撃が起こった。
 衝撃の影響で、5本の剣が男の子に向かってとてつもない速さで飛んでいった。
 男の子に剣が当たりそうになった瞬間、男の子は炎を手と口から吹き出し、剣を弾き返そうとした。
 ものすごい衝撃と衝撃がぶつかった末、先程から起こっていた爆発が起こった。

「うぅ……」
「そろそろ諦めねぇともっと苦しみながら死ぬぞ」
「早く諦めろ。諦めたら俺がお前に電気を与えて、出来るだけ楽に殺してやる」

 爆発で飛ばされ、壁にぶつかり頭からも血が出始めた男の子に、2人組はそんなことを言い出した。

「亜佑美、お前はこれ以上見るな。トラウマになるだけだ」
「私の能力で彼を回復させてあげ__
「お前が奴らに殺されて、あの少年も後から死ぬだけだ」

 どうしようもないという現実を叩きつけられた。
 何とかしたくても出来ないものは出来ないのだ、と。

「ごめんなさい……僕が悪かったんだ……だから殺さないで……」

 悲痛な彼の乞いが聞こえてくる。
 もう見てられないと思い後ろを向く。

「坊主、現実はそんな甘くねぇよ」
「もう死ぬ準備は出来たか?」
「いや……いやだ……やめて……視界がボヤけてるよ……まだ死にたくない……」
「生き返るんだから早く楽になった方がマシだ」
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
「うぉっ、お前何やってんだよ! 止まれ!」

 彼の嘆きに泣きそうになっていると、急にびっくりしたような声が聞こえてきた。
 止まれ? どういうことだろ、と思って振り返ると、彼が燃え始めていた。

「あぁ、熱い熱い熱い熱い。痛い痛い痛い痛い。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」
「止まれって!」
「ダメだ。もう周りなんて見えちゃいねぇ」

 男の子は、感情が暴走して、脳の制御が効かなくなり、1人で勝手に燃え始めてしまったようだ。
 あぁ、神様は何故こんなことをさせるの?
 なんで? どうして?
 今の状況に対する悲しみと、この世界に対する疑念で、頭の中がゴチャゴチャになってきた。

「おい、お前。しっかりしろ。お前には見せるべきじゃなかったな。後で何とかしてやる」

 翅さんが何か言っているが私には何も理解できない。

「ある程度の電力なら心停止にさせられるからまだ楽な方だと思って提案したのに」
「あんな子供にそんなこと分かるかよ」
「トラウマになった……」
「俺もだよ……」

 2人組も何か言っているが、何も聞こえない、何も分からない。

「あぁぁぁぁぁぁぁ。熱いよぉ。助けてよぉ。お母さん! お父さん! ごめんなさい。いい子にするから! 助けてぇぇ………………」

 少年の声がどんどん遠ざかっていく。
 いや、小さくなっていく。
 本当にこの世はなんて残酷なんだ……
 私の視界は真っ暗になった。

「もう死んでしまったみたいだ」
「今日は始まったばかりだけど、家に帰ってひきこもろう」
「そうだな……」

「おい、お前、亜佑美、亜佑美! はぁ、こいつ、大丈夫か?家まで連れ帰るか。能力“移”“忘”」


 またあの夢だ。
 でも、今回はお母さん達が笑ってない……
 とても辛そうな顔をしている。
 お母さんは私を抱えている。
 男の人は小さな小さな男の子を抱えている。
 どうして辛そうな顔をして手を振ってるの?
 彼らは一体誰なの?


「そろそろ目を覚ませ。起きろ。起きろっつってんだろ!」
「起きます起きますごめんなさい!」

 目が覚めると家にいた。
 時間は14:23。
 今まで何をしてたんだっけ。
 家を出ていたはずなのに……

「ほら、飯買ってきてやったから早く食え」
「あ、ありがとうございます」

 おかしな夢と失っている記憶が気になるが、用意してくれたご飯をまずは食べよう。
 誰なんだろ……あの男の人と男の子。


観戦、“炎”vs“雷剣ペア”、感情の暴走によって“炎”自滅。
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