生死を分けるは一文字より

風見 坂

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第一章 神の遊戯 序盤

第八話~another side~ 地下街とビル

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「ごちそうさまでした」

 翅さんが用意してくれたご飯を食べ終えた頃には14:50となっていた。
 一体この時間まで何をしていたのだろうか……
 また今から殺し合いに行かなければいけないのか……
 いや、一刻も早くお母さんを助けるんだ。
 未だにこんな葛藤を続けてる自分が嫌になる。
 そんな事を考えていると翅さんが声をかけてきた。

「そろそろ出かけるぞ」
「あ、はい」

 そうだ。こんなに悠長にしてられない。
 すぐさま家を出る。

「さぁて、次はどんなヤツらと出会うのかなぁ」
「次?」
「いや、昨日の続きだし、次かなって」
「あぁなるほど」

 次というから、午前中に他の能力者と対峙したのかと思った。
 何かモヤモヤする気がするけど……

「とりあえずブラブラするか」
「そうですね」

 いつもブラブラしてるだけな気がするが、これで能力者と会えているのだから良いのだろう。
 お母さんの病気を早く治したいという気持ちが日に日に強くなっているのか、段々と能力者と早く会いたくなってきた。
 これはまずい。
 人間としてまずい気がする。
 能力者と早く会いたいということはつまり戦いたいということだよね。
 うん。まずい。

「はぁ……」

 思わずため息が漏れる。

「どうした?」
「いや、何でもないです」
「そうか」

 そんな会話をしながら歩いている時だった。

 ガガガガガガガガ

 地面が揺れている。
 地震とかの揺れとは別だ。
 地面をほっているような揺れがする。

「おいおいまじかよ」

 翅さんの発言が気になり、自然と地面に向いていた顔を上げる。
 そこには公園というには大きいが広場というには小さいスペースが広がっていた。
 が、普段と全く違った部分があった。
 人が3人ほど一気に入れるような大きさの穴が開いているのだ。それもど真ん中に。

「能力者ですか……」
「能力者だろうなぁ」

 なぜそれが分かるかというと、警備員の姿も見当たらないし、穴が下へと続いていたからだ。
 いや、厳密には少し下にいくと、斜め下方向へと伸びていた。スロープのように。

「入らない方がいいですよね」
「だろうけど、入らないと出てこなさそうだよな」
「マジですか」
「マジだ」
「というか、これよく崩れませんね」
「能力で何とかしてるんだろ」
「なるほど」

 スロープ手前まで降りてからある事に気づいた。
 奥の方で明かりがついている。

「なんかすごい先の方に何かありそうですよ」
「明かりがあるな。行ってみるか」
「この坂、安全ですかね?」
「俺が先に行く。能力“光”“防”」
「ついて行けばいいですか?」
「あぁ」

 翅さんから離れないように気をつけながらスロープを降りてゆく。
 翅さんの謎の能力のおかげで自分たちの周りにも明かりがついているおかげで、安心感がある。

「気をつけろよ。いくら明るいからといっても敵の陣地だ」
「そんな陣地だなんて」
「これは生死を賭した戦いのことを忘れんなよ」
「はい……」

 私が気楽に言ったために、真剣な表情で怒られてしまった。

「そろそろ着きそうだぞ。警戒しとけ」
「はい!」

 結構な長さのスロープを抜けた先、明かりがついているそこにあったもの。
 それは、街だった。
 そう、街だ。

「やべーなこりゃ」
「は?」

 つい間抜けな声を上げてしまう。
 そりゃ、住宅地や商店街の下に謎の地下街が作られてたら間抜けな声も出てくるよ。
 しかもビルが建っている。
 地下街にビルって…………
 そのくせに人影が見当たらない。
 代わりにロボットや土出てきた怪物みたいなのがいる。

「あのロボットやゴーレム、敵対してくるか不安だな」
「ゴーレムってなんですか?」
「あの土の塊だよ」
「あぁ、あれゴーレムって言うんですか」
「知らなかったのか?」
「まぁはい」
「マジか」
「マジです」

 そんなにゴーレムって知名度高いの?
 そんなに私って無知なの?
 もしかしてゲームとかに出てくる系?
 そんな疑問が頭に溢れる。

「今はそんなどうでもいいことに囚われんな」
「あ、はい」

 頭から沢山の“?”を振り払う。

「the警備ドローンみたいなやつらもいるから俺にくっつけ」
「え、あ、はい」
「能力“断”」
「また能力ですか?」
「あぁ、詳しくは言わねぇよ?」
「もう分かってますよ」

 ほんとに一体何の文字なんだろうか。
 色々な可能性を考えつつ翅さんにくっつく。
 まだまだ謎が多いからくっつくのに抵抗はあるが仕方ない。

「こうしていれば認識されないから我慢しろ」
「はい」

 思考を読まれたのかな?と思ったが、気にしないことにした。
 思考を読まれたところで特に問題は無い。
 というか、地下街を歩き続けているが人の気配がやっぱりない。
 地下街の建物は都会のビルと何ら変わらないものばかりだ。
 それがいくつも建っている。
 さらに言えば、ここの光源は全て提灯のようだ。
 街灯らしいものの代わりに沢山の提灯がぶら下がっている。
 人の気配がないのに、ビルが立ち並んでいるこの空間は薄気味悪い。
 さらに気味悪くしているのは、今の時代に似つかわしくないロボットやゴーレム、警備ドローンが沢山あることだろう。
 なんでこんな空間を作ったのか……

「あそこに、ここにいますって雰囲気しかない高めのビルがあるぞ」
「分かりやすすぎて逆に怪しくないですか?」
「いや、行ってみる価値はあるだろ。万が一の事があっても俺がなんとかする」
「あ、はい。任せます」

 不安しかないが、翅さんの強さは確かだ。
 行く宛もないしとりあえず行くしかないか……
 こうして私たちは、ほかのビルより一際高いビルに向かった。
 嫌な予感しかしないんだけど……

 目的地に近づくにつれ、ロボットやゴーレムのカズが増えている気がする。
 数は増えても私たちに気付く気配はない。

「もうすぐ着くぞ。気引き締めとけよ」
「は、はい!」

 黒幕がいてる雰囲気のあるビルに着いた。
 やっぱり嫌な予感がする。

「どうした? 不安か?」
「さっきから嫌な予感がするんです」
「どんな?」
「能力者はいてなくてこれは罠、みたいな」
「罠であろうと何であろうと俺がついてる。気にすんな」
「はぁ」

 その自信はどこから出てくるのだろうか。
 気になる。
 ひとまずビルの中に正面から入ると、エレベーターホールのようになっていた。

「普通のビルだな」
「普通のビルですね」

 見た目はごく一般的なものだった。
 ただ、1箇所だけ、1箇所だけ地上のビルと違うところがあった。
 それは…………

「「光源が提灯じゃなければ」」

 そう。
 地下街同様、ビル内でも光源は提灯なのだ。
 何個か消えかかっているのもある。
 どうやら光源管理は行き届いていないようだ。

「どうせ最上階だよな。行くか」
「そうですね」

 そう言ってエレベーターの上ボタンを押す。
 …………………………
 カチカチカチカチカチカチカチカチ

「おいやめろ!」
「チッ」
「お前って理性的で落ち着いてるように見えて、実際そうじゃないよな!」
「今更ですか」
「そうだよ」

 翅さんは私のボタン連打を止めに来た。
 もちろん私は、何も無いのにボタン連打をするような人間ではない。
 これは盲点だった。
 いや、ほかのことに気を取られすぎていただけだった。
 普通なら、街灯の代わりに提灯がぶら下がってるのを見た時点で気づくはずなんだ。

「電気通ってないんだな」

 そう、この地下街に電気が通っていないようなのだ。
 つまり、エレベーターは使えないということで、階段を使うということに…………

「階段嫌です」
「だろうな」

 このビル何階建てだとおもってんの!
 最上階まで階段とか絶対嫌だ。

「落ち着け。誰が階段で行くと言った」
「階段以外でどうやって最上階に行くっていうんですか」
「飛ぶ」

 ほんとにこの人なんなの。

「また?」
「うん。俺の能力」
「どんな意味不明な漢字使ったらそんな万能な能力になるんですか!」
「小学生で習う漢字」
「馬鹿にしてんですか」
「してない」
「してますね」
「そんなことはどうでもいいだろ。早く最上階に行くぞ」
「あー話しそらした! やっぱ馬鹿にしてるんじゃ」
「お前めんどくせぇな!」
「そうですよ!」
「もういい。さっさと来い」

 翅さんは私の腕を掴むと、すぐにビルの外へ出て…………

「能力“防”“飛”“定”“断”」

 まっすぐ最上階に向かって飛び上がった。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」

 片手1本でしか掴まれていないから落とされそうで不安だ。
 いや、不安なんてもんじゃない。死を感じる。
 というか、どうやって落とさずにいられてるのか不思議だ。
 そんなに筋肉もあるようには見えないのに。
 そんなことを考えた5秒のうちに、もう最上階の高さまで来てしまった。

「いくぞ。能力“防”“突”“断”」
「ちょっちょっちょっ待っ」

 最上階の高さに着くと同時、窓にめがけて突っ込んだ。
 本来窓ガラスがあるはずの場所に窓ガラスはなく、そのまま部屋の中へと入る形となった。
 勢い余って転ぶ私に対して、翅さんは見事着地した。

「痛った」
「おっとっと。大丈夫か?」
「『大丈夫か?』じゃないですよ。ん」

 『ほら、手早く貸せよ』と言わんばかりに手を突き出す。

「この部屋にはいねぇみたいだ。とっとと他の部屋探すぞ」
「手くらい貸してくれてもいいじゃないですか」
「能力者探し、しゅっぱーつ」
「おい!」

 私の訴えを軽くスルーし、翅さんは部屋を出ていった。

「ごめんなさい。自分で立つから待って!」
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