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第1話 恋愛性性転換病
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「如月 南乃花さん、どうぞ」
看護師さんに促され、診察室に入る。
担当医の古井先生に軽く会釈して、椅子に座る。
「あの紋様が出たという事だけど、一応確認させてもらってもいいかな?」
「はい」
上着をたくし上げ、胸の下辺りを古井先生に見せる。
一昨日の水曜日に、風呂場で見つけた紋様。
一目見て、例の病にかかったんだと気づいた。
「ありがとう、もういいですよ。うん、やっぱり恋愛性性転換病で間違いないかと思われます」
「やっぱそっか……」
今の時代、ネットで検索すれば同じ紋様がいくらでも画像として出てくる。
見間違うことなんて無いし、寧ろこの病気じゃなかったら怖いくらいだ。
古井先生がなんとも言えなさそうな顔で言ってくる。
「申し訳ございません。ご存知かと思われますが、今の技術では原因・治療法は不明でして、今の意中の方に告白すれば治るかと思われます」
「……はい」
どこの病院でも、こう言うようになっているのだろう。
ネットで検索した時書かれていた通りのセリフだ。
妙に冷静な私に、古井先生は続けて、ネットで見かけなかった言葉をかけてくれた。
「この年頃だとこの病気にかかっても恥ずかしがって言わない子がいるから、病院に来ただけでもえらいよ」
「はぁ……」
虚をつかれたせいで変な返事をしてしまった。
まさか褒められるとは思わなかった。
確かに、この病気は今となっては有名で、紋様が皆同じだから自分で判断できる為に、告白して自分で解決してしまう人が多いらしい。
ただ、少しばかり信じたくなかったから、病院に来た。
自分が本気で他人の事を想う事があるなんて、信じられなかった。
古井先生は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「私達にはどうしようもなく、現段階では自分で解決するしかないんです。本当に申し訳ございません」
「いや、先生が謝ることないですよ」
この病気についてある程度調べて来たからそれくらい分かっていた。
だから、真剣に謝ってくれる古井先生に罪悪感めいたものを感じて、自然と言葉が漏れた。
病気の事が確定してしまった以上、ここからは自分が何とかするしかないんだ。
そう自分に言い聞かせ、立ち上がり、診察室を出ていく。
「先生、ありがとうございました」
「こちらこそ申し訳ございません。頑張ってね」
若くて綺麗な古井先生は、笑顔でエールを送ってくれた。
たいていの人はこの病気を治したい。
そしてその為には意中の人に告白しなければいけない。
私が告白すると思ってエールを送ってくれたんだろう。
だけど、私は迷った。
告白して、病気が治るより、性転換してしまった方がいいんじゃないだろうか、と。
だって、私が好きなのは、多分だけど、同性の先輩だから。
「勇気がいるだろうけど、一年以内に覚悟決めて頑張るんだよ」
「うん……」
この病気にかかったこと以外何も知らないお母さんは、そう応援してくれる。
お母さんはどう思うんだろう。
私が恋している相手は同性の人だと知ったら。
今の時代、同性愛も認められてきているとはいえ、そう簡単に親が認めてくれるだろうか。
そう思うと、途端に息が苦しくなる。
――初恋が同性の先輩かぁ……
そんな思いが、胸の内から消えてくれない。
認めなきゃいけない気持ちと認めたくない気持ちがごちゃ混ぜになって、胸がモヤモヤする。
「お母さん、力になりたいから困ったことがあったりしたらなんでも言ってね」
「うん……」
同性の先輩が、多分好き。
だったらいっその事、性転換した方が先輩も気にすることなく付き合ってくれるんじゃないだろうか。
でも、本当に好きなら、自分はありのままの自分を受け入れて欲しいんじゃないだろうか。
自分の気持ちのはずなのに、ハッキリしない。
どこか他人事のような気がしてならない。
「月曜、学校どうする?」
「行く」
水曜日の時点で分かっていたのに学校に行ったんだ。
確定したからといって、行かない理由にならない。
そもそも、この病気は一年経たなければ何も起こらないんだから、特に気にすることないはずだ。
だから、行く。
「そう、なら良かった」
ホッとしたようなお母さんの声が聞こえる。
私なら、大丈夫。
ただどうしても、本当にあの人の事が好きなのか、病気の事がハッキリした今でも、確信が持てない。
恋って、なんだろう。
看護師さんに促され、診察室に入る。
担当医の古井先生に軽く会釈して、椅子に座る。
「あの紋様が出たという事だけど、一応確認させてもらってもいいかな?」
「はい」
上着をたくし上げ、胸の下辺りを古井先生に見せる。
一昨日の水曜日に、風呂場で見つけた紋様。
一目見て、例の病にかかったんだと気づいた。
「ありがとう、もういいですよ。うん、やっぱり恋愛性性転換病で間違いないかと思われます」
「やっぱそっか……」
今の時代、ネットで検索すれば同じ紋様がいくらでも画像として出てくる。
見間違うことなんて無いし、寧ろこの病気じゃなかったら怖いくらいだ。
古井先生がなんとも言えなさそうな顔で言ってくる。
「申し訳ございません。ご存知かと思われますが、今の技術では原因・治療法は不明でして、今の意中の方に告白すれば治るかと思われます」
「……はい」
どこの病院でも、こう言うようになっているのだろう。
ネットで検索した時書かれていた通りのセリフだ。
妙に冷静な私に、古井先生は続けて、ネットで見かけなかった言葉をかけてくれた。
「この年頃だとこの病気にかかっても恥ずかしがって言わない子がいるから、病院に来ただけでもえらいよ」
「はぁ……」
虚をつかれたせいで変な返事をしてしまった。
まさか褒められるとは思わなかった。
確かに、この病気は今となっては有名で、紋様が皆同じだから自分で判断できる為に、告白して自分で解決してしまう人が多いらしい。
ただ、少しばかり信じたくなかったから、病院に来た。
自分が本気で他人の事を想う事があるなんて、信じられなかった。
古井先生は申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「私達にはどうしようもなく、現段階では自分で解決するしかないんです。本当に申し訳ございません」
「いや、先生が謝ることないですよ」
この病気についてある程度調べて来たからそれくらい分かっていた。
だから、真剣に謝ってくれる古井先生に罪悪感めいたものを感じて、自然と言葉が漏れた。
病気の事が確定してしまった以上、ここからは自分が何とかするしかないんだ。
そう自分に言い聞かせ、立ち上がり、診察室を出ていく。
「先生、ありがとうございました」
「こちらこそ申し訳ございません。頑張ってね」
若くて綺麗な古井先生は、笑顔でエールを送ってくれた。
たいていの人はこの病気を治したい。
そしてその為には意中の人に告白しなければいけない。
私が告白すると思ってエールを送ってくれたんだろう。
だけど、私は迷った。
告白して、病気が治るより、性転換してしまった方がいいんじゃないだろうか、と。
だって、私が好きなのは、多分だけど、同性の先輩だから。
「勇気がいるだろうけど、一年以内に覚悟決めて頑張るんだよ」
「うん……」
この病気にかかったこと以外何も知らないお母さんは、そう応援してくれる。
お母さんはどう思うんだろう。
私が恋している相手は同性の人だと知ったら。
今の時代、同性愛も認められてきているとはいえ、そう簡単に親が認めてくれるだろうか。
そう思うと、途端に息が苦しくなる。
――初恋が同性の先輩かぁ……
そんな思いが、胸の内から消えてくれない。
認めなきゃいけない気持ちと認めたくない気持ちがごちゃ混ぜになって、胸がモヤモヤする。
「お母さん、力になりたいから困ったことがあったりしたらなんでも言ってね」
「うん……」
同性の先輩が、多分好き。
だったらいっその事、性転換した方が先輩も気にすることなく付き合ってくれるんじゃないだろうか。
でも、本当に好きなら、自分はありのままの自分を受け入れて欲しいんじゃないだろうか。
自分の気持ちのはずなのに、ハッキリしない。
どこか他人事のような気がしてならない。
「月曜、学校どうする?」
「行く」
水曜日の時点で分かっていたのに学校に行ったんだ。
確定したからといって、行かない理由にならない。
そもそも、この病気は一年経たなければ何も起こらないんだから、特に気にすることないはずだ。
だから、行く。
「そう、なら良かった」
ホッとしたようなお母さんの声が聞こえる。
私なら、大丈夫。
ただどうしても、本当にあの人の事が好きなのか、病気の事がハッキリした今でも、確信が持てない。
恋って、なんだろう。
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