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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
200-1.ショーの下準備
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オリヴィエとヘマはどちらも表情豊かな方ではない。だがそれもプライベートでの話だ。
任務となれば自らを偽る必要も出て来る。それが潜入となれば猶更だ。
民間で開催される物とはいえ、『遊翼の怪盗』目当ての客を除けば、オークションに集う客は誰もが金銭に余裕のある者。その中には夫婦や愛人連れ、恋人同士など男女のペアで参加する姿も多い。
その一組として紛れ込むべく二人は共にホールへと足を踏み入れた。
一歩、建物の中へと足を踏み入れる。
次の瞬間、張り詰めた二人の表情は一転。そこには笑みが咲いた。
オリヴィエは日頃の仏頂面からはかけ離れた、好青年という言葉が良く似合う穏やかな笑みを。ヘマはパートナーに思いを寄せる女性として恍惚な微笑みを。
それぞれが与えられた役を演じる。
オリヴィエがパートナー役のヘマをエスコートし、それを受けたヘマは彼の腕に手を回し引き寄せる。
二人はロビーからホールの客席へと歩みを進める。
「……いい加減慣れたらどうだ」
「無茶を言うな」
表情を崩すことなくそう囁いたのはヘマだ。彼女は腕を絡まれた途端に身を硬くしたオリヴィエの変化に気付き、呆れた様に息を吐く。
オリヴィエは周囲から不自然に思われぬ様、顔が強張らぬ様に気を遣いながら、笑顔のまま言葉を返す。
彼はヘマへ一切視線を向ける事無く、正面を見続けていた。
任務とて、役を演じているとて彼の女性が苦手という性質は消えない。二人で潜入する事はこれまでに何度もあったというのに、彼はいつも同じ様子であった。
ヘマは肩を竦めたくなるのを堪えながら口を閉ざす。
オリヴィエの事情を知っている身からすれば情けないという言葉が出てしまうが、任務に於いて彼が自身の弱点によって窮地に立たされたことはない。
緊迫した状況に陥れば陥る程、任務その物へ集中すればする程、彼は自らの苦手とする物すら頭の外へ追いやることが出来る。
現在も必要があればヘマへ視線を合わせる事もするし、不自然な挙動にならぬ様常に気を配っている事をヘマは理解していた。
故に呆れはすれど、彼が失敗する心配はしていないのだ。
客席まで足を運び、腰を下ろしてさえすれば無駄話も出来なくなる。
周囲の一般客に疑われぬ様仲睦まじい男女を演じ、二人は開幕を待った。
任務となれば自らを偽る必要も出て来る。それが潜入となれば猶更だ。
民間で開催される物とはいえ、『遊翼の怪盗』目当ての客を除けば、オークションに集う客は誰もが金銭に余裕のある者。その中には夫婦や愛人連れ、恋人同士など男女のペアで参加する姿も多い。
その一組として紛れ込むべく二人は共にホールへと足を踏み入れた。
一歩、建物の中へと足を踏み入れる。
次の瞬間、張り詰めた二人の表情は一転。そこには笑みが咲いた。
オリヴィエは日頃の仏頂面からはかけ離れた、好青年という言葉が良く似合う穏やかな笑みを。ヘマはパートナーに思いを寄せる女性として恍惚な微笑みを。
それぞれが与えられた役を演じる。
オリヴィエがパートナー役のヘマをエスコートし、それを受けたヘマは彼の腕に手を回し引き寄せる。
二人はロビーからホールの客席へと歩みを進める。
「……いい加減慣れたらどうだ」
「無茶を言うな」
表情を崩すことなくそう囁いたのはヘマだ。彼女は腕を絡まれた途端に身を硬くしたオリヴィエの変化に気付き、呆れた様に息を吐く。
オリヴィエは周囲から不自然に思われぬ様、顔が強張らぬ様に気を遣いながら、笑顔のまま言葉を返す。
彼はヘマへ一切視線を向ける事無く、正面を見続けていた。
任務とて、役を演じているとて彼の女性が苦手という性質は消えない。二人で潜入する事はこれまでに何度もあったというのに、彼はいつも同じ様子であった。
ヘマは肩を竦めたくなるのを堪えながら口を閉ざす。
オリヴィエの事情を知っている身からすれば情けないという言葉が出てしまうが、任務に於いて彼が自身の弱点によって窮地に立たされたことはない。
緊迫した状況に陥れば陥る程、任務その物へ集中すればする程、彼は自らの苦手とする物すら頭の外へ追いやることが出来る。
現在も必要があればヘマへ視線を合わせる事もするし、不自然な挙動にならぬ様常に気を配っている事をヘマは理解していた。
故に呆れはすれど、彼が失敗する心配はしていないのだ。
客席まで足を運び、腰を下ろしてさえすれば無駄話も出来なくなる。
周囲の一般客に疑われぬ様仲睦まじい男女を演じ、二人は開幕を待った。
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