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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
191-1.闘争と共闘
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距離を詰められた剣士はヘマの繰り出す鉄拳を避けるべく身を翻す。
突き出された拳は空を切り、そこへ出来た隙を狙う様に剣士がヘマの脇腹へと剣を走らせた。
「殺す気か? 加減を知らない奴め」
だがヘマは一切の動揺を滲ませない。ただ淡々とした口調で彼女が小言を零した次の瞬間。
ヘマは瞬時に身を屈めた。這いつくばる様な姿勢を取ったその頭上を剣が通過する。次に隙が生まれたのは剣士だった。
空いた懐。そこへ素早く放たれた蹴りが潜り込む。
手を地面に付けたまま下半身大きく回転させたヘマの足は剣士の脇を叩きつける。
強く食い込んだ彼女の足は骨を軋ませながら剣士の体を弾き飛ばした。その力は一般女性は疎か、体を鍛え抜いた男冒険者をも凌ぐ物である。
剣士は道の脇へと転がり、建物の壁に激突する。だが圧倒的優位な立ち位置であろうと、呻き声を上げながら蹲った相手に追撃の機会を与えぬ様、その動きを封じるべく彼女は動き出す。
地面を凹ませる程の負荷を両脚へ加えた彼女は獲物を狩る獣の様に身を屈めたまま走り出す。
そして剣士との距離を急速に詰めるヘマの後方ではエリアスが魔導師二人への牽制を続けていた。
ヘマへ向けて氷魔法や土魔法を行使すればそれは全て彼の剣によって塞がれる。
降り注ぐ氷も地面から突き出す土塊もその全てが砕かれ、瞬く間に破片と化す。
宙を舞う破片の中彼は地面を蹴り上げ、魔導師へ向かって駆けだす。相手の接近に気付いた魔導師は杖を掲げ、無詠唱の魔法を行使する。
接近を拒絶する為の一手と見たエリアスは自身へ迫る脅威を警戒し剣を前に構えた。
だが、刹那に彼が感じたのは小さな違和感だ。
魔法を行使するその瞬間、魔導師達の視線はエリアスではないどこかへと向けられる。
迫る敵を前に目を離す行い。それはエリアスへの攻撃や妨害を目的としていない事実に他ならない。
では彼らの狙いは何か。真っ先に浮かぶのは剣士へと向かうヘマの背中だ。
瞬時に回転させた頭が瞬きをする程の間に状況を分析していく。
(――いや、違う)
だが理性が結論を出すより先、彼の本能が脳裏を過る憶測を否定した。
感じ取ったのは己の背後へ向かう脅威。
無詠唱魔法が発現するに於いて、その前兆は殆ど感じ取ることが出来ない。だが彼は直感という本能で危険の向かう方角を嗅ぎ分け、踵を返そうと試みる。
本来感じ取る物などないはずの『前兆』。理論的な説明を不可能とした直感は例え脳裏を過ったとしても即座に信じる事は難しい程に不確かで不安定な物だ。
だが彼は元より感覚的に剣を磨き続けた天才型。培い、磨き続けた戦士としての感覚を疑う事はない。冷静さを欠いてはならない戦場で、彼が考える事を放棄することはない。だが同時に、己の直感こそが最大の武器であることを無意識的に理解しているのだ。
突き出された拳は空を切り、そこへ出来た隙を狙う様に剣士がヘマの脇腹へと剣を走らせた。
「殺す気か? 加減を知らない奴め」
だがヘマは一切の動揺を滲ませない。ただ淡々とした口調で彼女が小言を零した次の瞬間。
ヘマは瞬時に身を屈めた。這いつくばる様な姿勢を取ったその頭上を剣が通過する。次に隙が生まれたのは剣士だった。
空いた懐。そこへ素早く放たれた蹴りが潜り込む。
手を地面に付けたまま下半身大きく回転させたヘマの足は剣士の脇を叩きつける。
強く食い込んだ彼女の足は骨を軋ませながら剣士の体を弾き飛ばした。その力は一般女性は疎か、体を鍛え抜いた男冒険者をも凌ぐ物である。
剣士は道の脇へと転がり、建物の壁に激突する。だが圧倒的優位な立ち位置であろうと、呻き声を上げながら蹲った相手に追撃の機会を与えぬ様、その動きを封じるべく彼女は動き出す。
地面を凹ませる程の負荷を両脚へ加えた彼女は獲物を狩る獣の様に身を屈めたまま走り出す。
そして剣士との距離を急速に詰めるヘマの後方ではエリアスが魔導師二人への牽制を続けていた。
ヘマへ向けて氷魔法や土魔法を行使すればそれは全て彼の剣によって塞がれる。
降り注ぐ氷も地面から突き出す土塊もその全てが砕かれ、瞬く間に破片と化す。
宙を舞う破片の中彼は地面を蹴り上げ、魔導師へ向かって駆けだす。相手の接近に気付いた魔導師は杖を掲げ、無詠唱の魔法を行使する。
接近を拒絶する為の一手と見たエリアスは自身へ迫る脅威を警戒し剣を前に構えた。
だが、刹那に彼が感じたのは小さな違和感だ。
魔法を行使するその瞬間、魔導師達の視線はエリアスではないどこかへと向けられる。
迫る敵を前に目を離す行い。それはエリアスへの攻撃や妨害を目的としていない事実に他ならない。
では彼らの狙いは何か。真っ先に浮かぶのは剣士へと向かうヘマの背中だ。
瞬時に回転させた頭が瞬きをする程の間に状況を分析していく。
(――いや、違う)
だが理性が結論を出すより先、彼の本能が脳裏を過る憶測を否定した。
感じ取ったのは己の背後へ向かう脅威。
無詠唱魔法が発現するに於いて、その前兆は殆ど感じ取ることが出来ない。だが彼は直感という本能で危険の向かう方角を嗅ぎ分け、踵を返そうと試みる。
本来感じ取る物などないはずの『前兆』。理論的な説明を不可能とした直感は例え脳裏を過ったとしても即座に信じる事は難しい程に不確かで不安定な物だ。
だが彼は元より感覚的に剣を磨き続けた天才型。培い、磨き続けた戦士としての感覚を疑う事はない。冷静さを欠いてはならない戦場で、彼が考える事を放棄することはない。だが同時に、己の直感こそが最大の武器であることを無意識的に理解しているのだ。
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