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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

179-4.誤魔化した弱音

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「あっ、クリス様、もしかして怖かったんですか……!? すみません、オレ気が回らなくて……オレも近くに行った方がいいですか!?」

 二人のやり取りをやや遠巻きに見守っていた彼はハッと我に返ると焦りを見せる。
 クリスティーナの微睡はそんな彼に妨害され、意識が急激に浮上した。

「……怖い訳じゃないわ」
「…………ん゛っ」

 覚醒し始めたクリスティーナは即座に否定をする。
 実際はエリアスの言う通りなのだが、彼の物言いはまるで幽霊に怯える子供をあやす様な物であり、如何とも肯定し難いものがあった。

 耳の端を赤くさせながら否定したものの、目の前の従者は全てを察している様に小さく吹き出す。
 考えなしの騎士に図星を衝かれ、更に主人の羞恥に目敏く気付いた従者に笑われるという状況はクリスティーナにとって耐え難い屈辱だ。

「そ、そうですね……お嬢様は大層怖がられている様子で、一人で寝るのは心細いと……っふふ」
「……そっか、クリス様も年頃の女の子だから…………」

 更には先程の仕返しのつもりか、口元を隠して誤魔化しながらリオがエリアスの言葉を肯定する。
 リオからは堪えきれていない笑いが漏れているのにも拘らず、単純な騎士はその言葉を丸々鵜呑みにした。そして小さくしみじみと呟いたかと思えば慌てた様子で距離を詰める。

「怖くないって言ってるでしょう、近づかないで頂戴」
「だ、大丈夫ですよ! オレ達が守りますから、怖くないですから!」
「っ、やめて、話を聞いて頂戴」
「んっ……ふふっ、っははは! お、お二人共、やめてください、笑い死にますから……っ」
「誰のせいだと思っているの! 貴方も何とか言って!」

 最早クリスティーナが何を言っても強がっている少女にしか映らないだろう。
 大丈夫だと雑な慰めをしながらベッドの傍に居座るエリアスにクリスティーナは押し負け、狼狽えてしまう。

 そこで笑いを堪えるのにも限界が来たらしいリオが珍しく大きな声で笑い出した。
 腹を抱えながら蹲り、過呼吸になりながら震える従者と、何を言い返しても心配そうな顔をする騎士。

 最早収拾のつかない状況は隣の客室から壁を蹴られるまで続き、クリスティーナはベッドの上で途方に暮れたのだった。
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