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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

170-2.健在な減らず口

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「部外者が場を引っ掻き回す方が返って後れを取る事になる。ここについて一切聞かされもせず、暖かな家でただ守られていただけの世間知らずが一体どう役に立ってみせると?」
「な……っ。私には教養があります。それに、こうして誰の力を頼らずとも僅かな手掛かりを頼りにここへ辿り着きました」
「ハッ、場所がわかった所で肝心の合言葉がわからないんじゃあ意味がない。さっきだって僕がお前を見つけていなければいつまで経っても締め出されていただろう」

 少女の服装は真夜中の路地裏を彷徨うにはあまりにも不釣り合いだ。
 上品なワンピースは最近の流行を考えた物であり、品の良さも窺える。また、美しい宝石であしらわれたアクセサリーで髪を留めている事から、装飾品を身に着ける程度には裕福な家庭の娘なのだろう事もわかる。

(先程彼は『ジラルデ』と言った。そして会話の流れから考えるに、恐らく彼女は失踪したというエドワール・ジラルデの娘)

 それにしても、とクリスティーナはオリヴィエを見やる。
 ここ数日はまともに話すこともなかったが、彼の人の神経をわざと逆撫でるような振る舞いは健在である様だ。
 視線を動かして傍に控えるリオやエリアスの顔を盗み見れば、彼らもまたオリヴィエの敵を作る様な物言いに呆れたように苦笑している。

「お前は自身の無力感と罪悪感を埋める為に父親捜索に貢献したというわかりやすい証拠が欲しいだけだ。自身の感情を優先し、物事の優劣が付けられない。組織の誰かがお前の正体に気付いていなければ、お前は一人追い剥ぎに遭っていたかもしれない」
「それは……」
「自分の身を守る力すらろくに持たずこんな場所へ足を踏み入れた。そして今は無意味な情報漏洩を促している。ご大層な家族愛をお持ちであるのは良いが、自分を満足させる為の後先を考えない行動がどれだけ意味のない事か……場合によって悪影響を及ぼすかもしれない物であるのか、その教養とやらをお持ちの頭で考えてみるんだな」

 社交界に慣れた令嬢であれば遠回しの皮肉に対する躱し方は身に付いている物だ。だが、高貴な身分の少女たちが面と向かって直接的な批判を受ける事は多くない。
 それはオリヴィエと対峙する少女も同じことだろう。
 次々と湧き出る様に吐き出される棘のある言葉に、初めこそ言い返そうと口を開いた少女であったが、結局相手の勢いに呑まれてしまった彼女は最後には何も言えずに俯いてしまう。

「ニコラ」

 見かねたディオンが短く制止の声を上げる。
 顔を真っ赤にさせながら肩を震わせる少女を見ても尚容赦なく何かを言おうとしていたオリヴィエを止める為の物だ。

「事実でしょう」
「例えお前の中で正しい事であるとしてもだ。正しければ何を言い、誰を傷付けてもいいわけじゃあない」
「だから上っ面だけの気遣いをしろと?」
「そうは言ってないだろう。毎度毎度、お前は極端すぎるんだ」
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