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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
170-1.健在な減らず口
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オリオール邸の調査結果を報告すべく真夜中に落ち合ったクリスティーナ達とジルベールは古代魔導具取締局の拠点へと赴いていた。
昨晩と同じ道を通り、入口付近へとやって来る。
しかしそこには拠点の扉の前を陣取る先客の姿があった。
数は二。扉に向かって声を掛ける一人と、その背後で入口が開くのを待つ少女が一人。
合言葉を告げていたのだろう一人は扉を隔てた会話の最中にクリスティーナ達の接近へ気付いて視線を四人へ移す。
「……追加でネズミの親が一、子が三」
視線を投げたのはオリヴィエ。彼は目を瞬かせて驚きを見せるがすぐに扉へと声を掛ける。
その後も何度か扉越しの対話を続けると、昨晩と同じ様に帰宅を促される。
重い沈黙が流れる中、クリスティーナ達は合流を果たすがオリヴィエは口を開くことをしなかった。
そして三分が経過すると閉ざされていた戸が開かれる。
先に中へ姿を消したのはオリヴィエだ。それに少女が続き、更にその後ろをジルベールが移動する。
最後にクリスティーナ達が中へ入ったところで入口の傍に控えていた者によって戸が再び閉ざされる。
クリスティーナ達を迎え入れたのは昨晩の少年ではなく、褐色肌の女性だ。
その女性の姿に、クリスティーナは見覚えがあった。『遊翼の怪盗』の姿を見たあの日、変装したオリヴィエと共にホールにいた女性である。
「おい、待てニコラ。彼女は……」
「ジラルデの令嬢だ。一応は関係者だろう」
彼女はオリヴィエの連れの顔を見ると驚いた様に呼び止める。だが彼はその声に端的な返事のみを残し、足を止める事なく先へ進んでしまう。
素っ気ない様を見送る女性は深々と息を吐きながら短く切られた白髪を掻き上げる。そして次はクリスティーナ達を見やった。
「ジルベールさんが連れて来たって事は……アンタ達がオリオール邸の調査を買って出てくれた助っ人だな」
女性の言葉にジルベール以外の三人が頷きを返す。それに更に首を縦に振ってから女性は階段の先を指し示した。
「アタシはヘマ。ディオンさんから話は聞いてる。……案内するよ」
ヘマに案内され、クリスティーナは昨晩ディオンと話をした大部屋まで移動する。
ディオンは昨晩と同じパーテーションで区切られた空間で椅子に腰かけていた。その正面にはオリヴィエと先程の少女の姿がある。
「よくもまあ、自力でこんな場所まで辿り着いたもんだが……。生憎お嬢ちゃんがどう動こうとも状況が好転することはないぞ。それどころか戻ってきた時にお前さんに何かあれば親父さんは悲しむだろう」
「それでも……っ、何もしないで待ち続ける事なんてできません! せめて、父の足取りがどこまで辿れているのか、進捗を――」
「だから言っただろう」
必死な形相でディオンへ詰め寄る少女の言葉をオリヴィエが冷たく遮る。
深々とため息を吐いた彼は目を細め、冷たい眼差しを一瞬だけ少女へと向けた。
昨晩と同じ道を通り、入口付近へとやって来る。
しかしそこには拠点の扉の前を陣取る先客の姿があった。
数は二。扉に向かって声を掛ける一人と、その背後で入口が開くのを待つ少女が一人。
合言葉を告げていたのだろう一人は扉を隔てた会話の最中にクリスティーナ達の接近へ気付いて視線を四人へ移す。
「……追加でネズミの親が一、子が三」
視線を投げたのはオリヴィエ。彼は目を瞬かせて驚きを見せるがすぐに扉へと声を掛ける。
その後も何度か扉越しの対話を続けると、昨晩と同じ様に帰宅を促される。
重い沈黙が流れる中、クリスティーナ達は合流を果たすがオリヴィエは口を開くことをしなかった。
そして三分が経過すると閉ざされていた戸が開かれる。
先に中へ姿を消したのはオリヴィエだ。それに少女が続き、更にその後ろをジルベールが移動する。
最後にクリスティーナ達が中へ入ったところで入口の傍に控えていた者によって戸が再び閉ざされる。
クリスティーナ達を迎え入れたのは昨晩の少年ではなく、褐色肌の女性だ。
その女性の姿に、クリスティーナは見覚えがあった。『遊翼の怪盗』の姿を見たあの日、変装したオリヴィエと共にホールにいた女性である。
「おい、待てニコラ。彼女は……」
「ジラルデの令嬢だ。一応は関係者だろう」
彼女はオリヴィエの連れの顔を見ると驚いた様に呼び止める。だが彼はその声に端的な返事のみを残し、足を止める事なく先へ進んでしまう。
素っ気ない様を見送る女性は深々と息を吐きながら短く切られた白髪を掻き上げる。そして次はクリスティーナ達を見やった。
「ジルベールさんが連れて来たって事は……アンタ達がオリオール邸の調査を買って出てくれた助っ人だな」
女性の言葉にジルベール以外の三人が頷きを返す。それに更に首を縦に振ってから女性は階段の先を指し示した。
「アタシはヘマ。ディオンさんから話は聞いてる。……案内するよ」
ヘマに案内され、クリスティーナは昨晩ディオンと話をした大部屋まで移動する。
ディオンは昨晩と同じパーテーションで区切られた空間で椅子に腰かけていた。その正面にはオリヴィエと先程の少女の姿がある。
「よくもまあ、自力でこんな場所まで辿り着いたもんだが……。生憎お嬢ちゃんがどう動こうとも状況が好転することはないぞ。それどころか戻ってきた時にお前さんに何かあれば親父さんは悲しむだろう」
「それでも……っ、何もしないで待ち続ける事なんてできません! せめて、父の足取りがどこまで辿れているのか、進捗を――」
「だから言っただろう」
必死な形相でディオンへ詰め寄る少女の言葉をオリヴィエが冷たく遮る。
深々とため息を吐いた彼は目を細め、冷たい眼差しを一瞬だけ少女へと向けた。
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