上 下
486 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

170-1.健在な減らず口

しおりを挟む
 オリオール邸の調査結果を報告すべく真夜中に落ち合ったクリスティーナ達とジルベールは古代魔導具取締局の拠点へと赴いていた。
 昨晩と同じ道を通り、入口付近へとやって来る。

 しかしそこには拠点の扉の前を陣取る先客の姿があった。
 数は二。扉に向かって声を掛ける一人と、その背後で入口が開くのを待つ少女が一人。

 合言葉を告げていたのだろう一人は扉を隔てた会話の最中にクリスティーナ達の接近へ気付いて視線を四人へ移す。

「……追加でネズミの親が一、子が三」

 視線を投げたのはオリヴィエ。彼は目を瞬かせて驚きを見せるがすぐに扉へと声を掛ける。
 その後も何度か扉越しの対話を続けると、昨晩と同じ様に帰宅を促される。

 重い沈黙が流れる中、クリスティーナ達は合流を果たすがオリヴィエは口を開くことをしなかった。
 そして三分が経過すると閉ざされていた戸が開かれる。

 先に中へ姿を消したのはオリヴィエだ。それに少女が続き、更にその後ろをジルベールが移動する。
 最後にクリスティーナ達が中へ入ったところで入口の傍に控えていた者によって戸が再び閉ざされる。

 クリスティーナ達を迎え入れたのは昨晩の少年ではなく、褐色肌の女性だ。
 その女性の姿に、クリスティーナは見覚えがあった。『遊翼の怪盗』の姿を見たあの日、変装したオリヴィエと共にホールにいた女性である。

「おい、待てニコラ。彼女は……」
「ジラルデの令嬢だ。一応は関係者だろう」

 彼女はオリヴィエの連れの顔を見ると驚いた様に呼び止める。だが彼はその声に端的な返事のみを残し、足を止める事なく先へ進んでしまう。
 素っ気ない様を見送る女性は深々と息を吐きながら短く切られた白髪を掻き上げる。そして次はクリスティーナ達を見やった。

「ジルベールさんが連れて来たって事は……アンタ達がオリオール邸の調査を買って出てくれた助っ人だな」

 女性の言葉にジルベール以外の三人が頷きを返す。それに更に首を縦に振ってから女性は階段の先を指し示した。

「アタシはヘマ。ディオンさんから話は聞いてる。……案内するよ」

 ヘマに案内され、クリスティーナは昨晩ディオンと話をした大部屋まで移動する。
 ディオンは昨晩と同じパーテーションで区切られた空間で椅子に腰かけていた。その正面にはオリヴィエと先程の少女の姿がある。

「よくもまあ、自力でこんな場所まで辿り着いたもんだが……。生憎お嬢ちゃんがどう動こうとも状況が好転することはないぞ。それどころか戻ってきた時にお前さんに何かあれば親父さんは悲しむだろう」
「それでも……っ、何もしないで待ち続ける事なんてできません! せめて、父の足取りがどこまで辿れているのか、進捗を――」
「だから言っただろう」

 必死な形相でディオンへ詰め寄る少女の言葉をオリヴィエが冷たく遮る。
 深々とため息を吐いた彼は目を細め、冷たい眼差しを一瞬だけ少女へと向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

異世界転生したら幼女でした!?

@ナタデココ
恋愛
これは異世界に転生した幼女の話・・・

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐@書籍発売中
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

辺境の農村から始まる俺流魔工革命~錬金チートで荒れ地を理想郷に変えてみた~

昼から山猫
ファンタジー
ブラック企業に勤め過労死した俺、篠原タクミは異世界で農夫の息子として転生していた。そこは魔力至上主義の帝国。魔力が弱い者は下層民扱いされ、俺の暮らす辺境の農村は痩せた土地で飢えに苦しむ日々。 だがある日、前世の化学知識と異世界の錬金術を組み合わせたら、ありふれた鉱石から土壌改良剤を作れることに気づく。さらに試行錯誤で魔力ゼロでも動く「魔工器具」を独自開発。荒地は次第に緑豊かな農地へ姿を変え、俺の評判は少しずつ村中に広まっていく。 そんな折、国境付近で魔物の群れが出現し、貴族達が非情な命令を下す。弱者を切り捨てる帝国のやり方に疑問を抱いた俺は、村人達と共に、錬金術で生み出した魔工兵器を手に立ち上がることを決意する。 これは、弱き者が新たな価値を創り出し、世界に挑む物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

処理中です...