悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

168-3.致命的な癖

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「先程の動きは、自分の意志に反する行いを強いられて来た方の様には到底見えませんでした。しかしジルベール様がそう仰るのであれば……元から剣の素質がお有りだったのかも知れませんね」
「剣の素質……? いいえ、そんなことは」

 面を食らったジルベールは足を止め、リオへ振り返る。

「……失礼しました。ジルベール様にとってはあまり快い言葉ではありませんでしたね」

 その反応が気を悪くさせた故の物だろうと推察したリオはすぐに頭を下げる。
 だがジルベールは顔を曇らせる訳でもなく、ただ不思議そうに目を丸くしていた。

「いいえ。ただ……私は剣術に於いて間違いなく兄弟の中でも一番落ちぶれていましたし、その様な言葉を頂いたことはあまりなく、驚いてしまったのです。……なんせ、自身の斬るべき相手すらまともに見ることが出来ませんから」

 ジルベールの返答に、リオは怪訝そうに眉を寄せる。
 クリスティーナもまた、同じ様な表情で彼を見やっていた。

「……謙遜をされ過ぎでは? 勿論気配を読むのに長けているという事もあるでしょうが、先程の動きは相手を見ずに出来るような類ではないでしょう。もし本当に見ていなかったというのであればそれこそ誇れるだけの才をお持ちという事では」

 ジルベールが述べた自身の評価は明らかに過小だ。しかし彼が心からそう考えていることはその表情や口振りから汲み取れる。
 故にリオは過ぎた謙遜に腹立たしさを覚えているというよりも、自身が劣っていると頑なに言い張ることに対し純粋な疑問を抱いている様であった。

「先の……ですか」

 リオの指摘を受け、ジルベールは先の戦闘を思い返す様に黙りこくる。
 そして口を閉ざして数秒の間を空けてから、難しい表情のまま小さく呟いた。

「……本当、ですね。確かにあの時は躊躇いや気後れの類はなかったように思えます。相手を見ることが出来ないというのが今もある癖であったことは確かなのですが……何故急に消えたのでしょう」

 自身でもよくわからないと困惑混じりに呟いた彼は不思議そうに首を傾げた。
 胸の中に何かがつっかえているかのようなもやもやとした感覚。それに眉を顰めるジルベールだったが、彼は静かに首を横に振るとクリスティーナとリオへとはにかんだ。

「……と、今は先を急がなければなりませんね。行きましょう」

 足を止めたことに対する謝罪を短く述べてから彼は歩き出す。
 彼の癖や武力についての会話はあくまで移動中の世間話の一環。そこまで気に掛けるような話題でもない。
 クリスティーナとリオはこの話題についてそれ以上興味を惹かれる事もなく、ジルベールの背を追いかけた。
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