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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

165-1.忌むべき術

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 ジルベールによって開けられた扉の先、中は明かり一つ灯されていない空間だ。だが日の光が差し込んでいるお陰で手前側の様子は辛うじて窺うことができる。
 開かれた戸の先、広がる光景にクリスティーナとジルベールは鋭く息を呑む。

 木製の棚や残された僅かな道具。そこが倉庫として使われていたらしい痕跡が見て取れる。
 だが、それは目を凝らしてかろうじて確認ができる程度の特徴。クリスティーナ達の目を真っ先に惹いたのは部屋中に張り巡らされた無数の植物だった。

 それは天井、床、壁、棚や道具……その空間の全ての物に張り付き、絡み付き、呑み込んでいる。

「先程俺が見た物と同じ様に思えます」

 未だ安定しない視界に眉根を寄せながらリオが呟く。
 枯れた枝や根の様な見た目のそれは小部屋から這い出てきた物と確かに酷似していた。

 だが、奇妙なのはそれだけではない。倉庫の中、至る所に不自然な形の影が形成されている。何もない場所から這える何か。枝や根が絡まり合って大きく細長い形を作っていた。

 まるで植物を大雑把に模した様な形状の何か。敢えて何かに例えるならば茎と側枝だろうか。太く長く伸びる一本の途中で左右にやや細い棒状の何かが付いている。
 その塊はクリスティーナの等身大からリオやジルベール程の身長の物まで。個々の大きさに多少の差はある様だった。

 奇妙で不完全な芸術品の様なそれらは床から生えていたり、適当な場所へ転がっていたりする他、壁に張り付いた根と癒着するもの、双方が絡まりあって一つの大きな型を作り出した物等様々な姿を見せている。
 更にその『何か』は植物以外にも布上の何かをまとって形成されているようであったが、視界が悪いせいでその布の正体まではわからない。

「以前はただの木造の建物であったはず……少なくともこのような奇妙な見た目では……」
「先程と同じ類の物であるのならば、攻撃性を持っているかもしれません。早めに下がった方が良いでしょう」
「そう、ですね……。見たところ、魔導具の類は見つけられませんが……如何せん視界が悪い上に部屋の殆どが覆われてしまっていますから」
「ジルベール様、炎魔法が扱えましたよね。明かりを使ってみては?」
「そうしましょう」

 リオの進言により、ジルベールは炎魔法『フレイム』を行使する。
 彼の指先に灯された炎は姿を見せた後、ひとりでに倉庫の中央まで移動を始めた。
 小さな火の玉が部屋の中央へたどり着いたころには随分と部屋の細部が見やすくなる。

 だが、倉庫が明るくなっても尚、魔導具らしきものは見当たらなかった。
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