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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
163-2.逃走と反撃
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冗談っぽい口調のリオの言葉に耳を傾けながら、イニティウム皇国を出てから程なくして崖から落ちた時のことをクリスティーナは思い返す。
尤も、あの時のリオは首の骨を折っていた訳なので無事だったとは言い難いのだが。とにかく、自分達は問題ないという主張がジルベールに通れば問題ない。
そして二人の思惑通り、彼女達の大丈夫だという主張が根拠のないものではないことをジルベールは悟ったのだろう。
ジルベールは頷きを返すと廊下の窓を一つ、思い切り開け放った。
「あれの脅威がわかるのは私だけでしょう。先に行きなさい」
「……わかりました」
切羽詰まった状況で悠長に話し合う時間はない。そんな時間を作る暇があるのならば飛び降りる方が早い。
それはジルベールも理解しているのだろう。先に逃がされることに複雑な思いを見せたものの、彼は素直に頷いた。
そして窓の縁に手をつくとそれを軽々と跨いで宙へ躍り出る。
それを視界の端で見送ったクリスティーナは彼の背が窓の下へ消えた次の瞬間、『闇』を見据えて両手を翳した。
もう何度も扱って来た聖魔法の一つ。
ベルフェゴールと対峙した時、シャルロットに纏わりつく『闇』を祓おうとした時……それらの経験を思い起こしながらクリスティーナは魔力を籠める。
刹那、翳された両手が淡く光ったかと思えば襲い掛かる『闇』を呑み込む様な眩さを帯びる。
ほんの一時、辺りを白く塗り潰すかの様な光が放たれ、『闇』を呑み込んでいく。
クリスティーナ達へ手を伸ばしていたそれは一瞬の後に光によって掻き消されたのだった。
『闇』を晴らした光が収束する頃。音を立ててジルベールが着地をする。
宙へ躍り出た瞬間、彼は視界の端が白く染まる違和感を覚えたものの、背を向けていたが故にその正体を知ることは叶わなかった。
振り返った頃には全て事が済んだ後であり、ジルベールは結局それを気のせいとして頭の中で片を付けたのだった。
「クリス様、リオ様!」
着地地点から十分に後退したジルベールが二階で待っていた二人へ声を投げる。
「しっかりと掴まっていてくださいね」
「ええ」
それを合図にリオが窓の縁へと足を掛け、クリスティーナを腕でしっかりと抱きしめながら飛び出した。
直後に二人を包む大きな浮遊感。だがそれは長くは続かなかった。
急速に地面が迫る中、リオは一切体勢を崩さない。
そして確かな振動と着地音を伴って綺麗に両足を地面へ付いてみせたのだった。
土煙を僅かに立てながら、腰を落としていたリオが顔を上げる。そこには無事を知らせ、安心させるような微笑が湛えられていた。クリスティーナもまた、動じた様子もなく次の動きの指示を求める様にジルベールを見やった。
「こちらです」
二人が怪我を負っていないことを確認したジルベールは彼女達の様子に安堵の息を漏らす。
そして大きな庭の広がる方角を見やると二人を先導する様に走り出した。
彼の案内に従う様にリオも移動を始めたことにより、抱えられているクリスティーナも自ずとその場を離れる事となる。
抱きかかえられたまま、クリスティーナは『闇』の動きを把握する為に自分達が飛び降りた窓を見上げる。
自分達を追う影の姿はもう見られない。だが念には念を入れて距離を取っておいた方がいいはずだ。
クリスティーナ達は建物から離れるべく、その場を後にした。
尤も、あの時のリオは首の骨を折っていた訳なので無事だったとは言い難いのだが。とにかく、自分達は問題ないという主張がジルベールに通れば問題ない。
そして二人の思惑通り、彼女達の大丈夫だという主張が根拠のないものではないことをジルベールは悟ったのだろう。
ジルベールは頷きを返すと廊下の窓を一つ、思い切り開け放った。
「あれの脅威がわかるのは私だけでしょう。先に行きなさい」
「……わかりました」
切羽詰まった状況で悠長に話し合う時間はない。そんな時間を作る暇があるのならば飛び降りる方が早い。
それはジルベールも理解しているのだろう。先に逃がされることに複雑な思いを見せたものの、彼は素直に頷いた。
そして窓の縁に手をつくとそれを軽々と跨いで宙へ躍り出る。
それを視界の端で見送ったクリスティーナは彼の背が窓の下へ消えた次の瞬間、『闇』を見据えて両手を翳した。
もう何度も扱って来た聖魔法の一つ。
ベルフェゴールと対峙した時、シャルロットに纏わりつく『闇』を祓おうとした時……それらの経験を思い起こしながらクリスティーナは魔力を籠める。
刹那、翳された両手が淡く光ったかと思えば襲い掛かる『闇』を呑み込む様な眩さを帯びる。
ほんの一時、辺りを白く塗り潰すかの様な光が放たれ、『闇』を呑み込んでいく。
クリスティーナ達へ手を伸ばしていたそれは一瞬の後に光によって掻き消されたのだった。
『闇』を晴らした光が収束する頃。音を立ててジルベールが着地をする。
宙へ躍り出た瞬間、彼は視界の端が白く染まる違和感を覚えたものの、背を向けていたが故にその正体を知ることは叶わなかった。
振り返った頃には全て事が済んだ後であり、ジルベールは結局それを気のせいとして頭の中で片を付けたのだった。
「クリス様、リオ様!」
着地地点から十分に後退したジルベールが二階で待っていた二人へ声を投げる。
「しっかりと掴まっていてくださいね」
「ええ」
それを合図にリオが窓の縁へと足を掛け、クリスティーナを腕でしっかりと抱きしめながら飛び出した。
直後に二人を包む大きな浮遊感。だがそれは長くは続かなかった。
急速に地面が迫る中、リオは一切体勢を崩さない。
そして確かな振動と着地音を伴って綺麗に両足を地面へ付いてみせたのだった。
土煙を僅かに立てながら、腰を落としていたリオが顔を上げる。そこには無事を知らせ、安心させるような微笑が湛えられていた。クリスティーナもまた、動じた様子もなく次の動きの指示を求める様にジルベールを見やった。
「こちらです」
二人が怪我を負っていないことを確認したジルベールは彼女達の様子に安堵の息を漏らす。
そして大きな庭の広がる方角を見やると二人を先導する様に走り出した。
彼の案内に従う様にリオも移動を始めたことにより、抱えられているクリスティーナも自ずとその場を離れる事となる。
抱きかかえられたまま、クリスティーナは『闇』の動きを把握する為に自分達が飛び降りた窓を見上げる。
自分達を追う影の姿はもう見られない。だが念には念を入れて距離を取っておいた方がいいはずだ。
クリスティーナ達は建物から離れるべく、その場を後にした。
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