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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

163-1.逃走と反撃

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 一行は廊下を駆け出す。
 リオに腕を引かれ、促されるようにして走り出したジルベールが困惑の声を漏らす。

「一体何が……!?」
「詳しいことは俺もわかりませんが、ッ」
「リオ……!」

 突如、クリスティーナを抱えながら移動していたリオの重心が傾く。
 主人を落としてしまわない様にと咄嗟に片膝をついたことで何とか転倒を防がれるが、彼の体調が芳しくないことは明らかだ。

「失礼、少し眩暈がしただけです。俺のことよりも、今はとにかく急いだ方がいい……そうですよね?」
「……ええ」

 クリスティーナは後方を見やる。
 リオとジルベールの身体能力が高いお陰で多少距離が離れてはいるものの、後方から『闇』が迫ってきている状況は変わらない。
 例え体調が悪いと弱音を吐かれようとも、ならば足を止めて休もうと進言できる状況ではなかった。

「でもこの進路は不味いわ。使用人を巻き込んでしまう可能性もあるし……シャルロットに近づきすぎれば影響が出ないとも限らない」
「一度外へ出ますか」
「ええ」

 今溢れている『闇』に隠し扉を開けた時程の禍々しさはない。
 距離か遮蔽物の数か、恐らくはそのどちらかが闇の濃さに影響しているはずだ。
 シャルロットに纏わりついていた『闇』が先ほど目の当たりにした物よりも随分薄かったのも同じ理由だろう。

 つまり距離を取り、出来る限りの障害物を間に挟むことが出来れば『闇』が届かない位置を見つけることが出来るかもしれない。

 だがこの不気味な黒い靄がどんな影響を齎すかわからない以上、自分達は勿論、すれ違う可能性のある人々にも気を配らなければならない。
 自分達の逃走経路の途中に人がいた場合、『闇』に触れてしまう可能性がある。クリスティーナはそれが良くない事であることを何故だか本能的に悟っていた。

 だからこそ、自分達が『闇』の標的になっている内は他者とすれ違うことを避けなければならない。更に、既に魔導具の影響を受けていると考えられるシャルロットを巻き込んでしまえば彼女の体長を悪化させてしまう可能性にも繋がる。

 これらの理由から、一先ず人の行き来が少ないだろう場所を目指す必要があった。

 クリスティーナの見解を聞いたリオは頷きを返すと再び立ち上がり、廊下の床を蹴る。
 そして後続のジルベールへと視線を投げた。

「ジルベール様、この時間帯に人の出入りが少ない場所に心当たりはありますか?」
「……いくつかあります。現在はどこも人手が足りていない状況ですから、そちらへ向かえば他者と遭遇することは滅多にないでしょう」

 距離を取りたいとは言え、館の敷地外へ出る為の門には見張りの兵がいる。彼らを巻き込んでしまう可能性を考えれば敷地の外へ逃れることは悪手だ。
 つまりオリオール邸の敷地内でこの状況を解決する必要があった。

「ご案内をお願いしたいところなのですが……。玄関を通過すれば高確率で人と遭遇するでしょう。窓からの脱出を提案したいところなのですが」
「……窓ですか? ここは二階ですが」

 現在地は二階。死ぬことはないが着地に失敗をすれば怪我をしてしまう高さだ。
 クリスティーナとリオの身を案じたジルベールが複雑そうな顔をするが、それに対してリオは自信ありげに微笑んだ。

「俺達の事を気にしてくださっているのであれば、問題ありません。更に高い場所から落ちたこともありますから」
「崖から落ちても何とかなっているのだからこのくらい熟してくれなければ困るわ」
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