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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

161-3.隠し扉

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 部屋へ訪れた当初は違和感という程の感覚すら覚えなかった部屋の広さ。扉の大きさの割にやや狭いと感じた部屋はしかし、疑念を抱かせる程の明確な何かはなかった。
 本来よく使われる部屋でないという事前情報もあり、そういう部屋なのだろうと察するだけに至る程度の物。故にこの場の誰もが違和感を抱かなかった。

 クリスティーナが隠し扉の可能性に気付いたのは彼女が公爵家の出であることと探索中に天井や床、壁など『物』以外に着目できた為であった。
 公爵家という高貴な立場にもなれば万が一の際に備えて居室に隠し扉と隠し通路が拵えてある物だ。
 高い身分や多くの金を持つ者であればその身を守る為に隠し扉を用意することもある――建物内に隠し扉が存在する可能性に至ることの出来る公爵令嬢としての経験。

 更に着目すべき物が必ずしも『物』だけではないかもしれないと事前に思い至り、広い視野を持つことが出来た事。
 壁に着目出来たことで部屋の広さに再び違和感を持つことが出来、確信を得ることが出来たのだ。

 浮き彫りになった違和感。そこから求められる答えをクリスティーナは告げる。

「なるほど。了解しました」

 クリスティーナが導いた結論を聞き届けるや否や、リオは本棚の一番端、一番上に手を掛ける。
 一冊の本の縁に手を掛けた彼はそのまま右端まで一度に指を滑らせる。一番上の段の本全てに触れた次は二段目の左端へ。
 そして同じ様に触れていくと、ふとその途中で彼が動きを止めた。

「……ここですね」

 そう呟くや否や、彼は指先で触れていた一冊の本を引くのではなく押し付ける。
 奥へ押しやられた本は数センチほど後ろへ収まったかと思えば、ガコンという何かの装置を起動させるような音を響かせた。

 その動きを見守っていたジルベールはそのことに目を見開くが、本棚はそれ以上反応を示さない。
 だが、本棚と対峙している本人は特段焦った様子もなく再び本の背表紙の角へ指を滑らせていった。

「仕掛けが複数ある物なのでしょう」

 速足で本棚の左端から右端へ移動し、本に触れていく。
 そして時折一冊の本を奥へ押しやっては再び同じ様な動きを繰り返す。
 やがて彼が最下層の本の内一冊を奥へ押し付けた時。

 再びガコンという音が響いたかと思えば、まるで真っ二つになるかのような亀裂が本棚の中央に現れる。
 そして切り込みを入れられた左右の本棚は誰から力を加えられるでもなくゆっくりと左右の壁へ向かって横移動をする。

 床を引きずるような重量感のある音と僅かな地響きを伴いながら本棚の亀裂が開かれた先。リオの目の前には閂のされた扉が一枚、姿を現していた。
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