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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

160-2.脅威の在処

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「こちらです」
「それは……っ」

 見覚えのある物であったのか、ジルベールが小さく息を呑む。
 だがそれに反応を返すよりも先、リオの持つ物に脅威があるのかを確認すべきだろう。そう判断したクリスティーナはリオの持って来た物を見やった。

 リオが差し出したのは刺繍の施されたハンカチが数枚と箱に収まる指輪が一つ。
 ハンカチの刺繍の出来栄えは丁寧で細かに施された物とやや歪で不器用さを感じさせる物の二種。指輪は美しいが派手過ぎない大きさの宝石があしらわれた物である。

 クリスティーナはそれらを順に確認をするも、どれも嫌な気配を感じさせない代物だ。

「少なくとも危険な物ではなさそうだけれど……」
「そうですか」

 自分達の目当てのものではないのなら戻しておくべきだろうと判断したリオは、指示を待つことなく机へと踵を返した。
 元あった場所へ彼がハンカチと指輪を戻し、引き出しの鍵を掛け直される。

「あれがどうかしたの?」

 リオの行動を視界の端で捉えながらもクリスティーナがジルベールへ問えば、彼は複雑そうに顔を曇らせたまま首を横に振った。

「いいえ。見覚えのある物だったのでつい反応をしてしまっただけです」
「……そう」

 今語る様な物ではないと考えたのだろう。ジルベールはそれ以上詳しい話をしなかった。
 彼がそう判断したのならば敢えて他者から促す様な物でもあるまい。クリスティーナは再び部屋の中の様子を窺うことに集中する。

(棚の中が一番怪しいと思ったのだけれど……どれも違う気がするわ)

 机の上も違和感を覚えるような物はない。
 更に骨董品や装飾品の類でもないとなれば、残るのは大量の本だろう。

「リオ、本棚を重点的に調べて」
「棚にはありませんでしたか。了解しました、っ」

 机から本棚へと足を進めたリオであったが、彼はその途中で体をふらつかせた。
 自力で踏み止まり、転倒することは防がれるが、これ以上の長居が危険であることは明白だ。

「リオ」
「……失礼。まだ余力はありますが、長く続く様であれば一度退いた方がいいでしょう」

 薬剤による影響で命を左右するような可能性はリオの場合考えなくても良い。だが一度倒れてしまえば自力で起き上がることは難しいかもしれない。一度倒れた後、意識が戻ったとしてもクリスティーナ達が動かなければそこは催眠作用の薬が充満した空間の中だ。それを再び取り込みながらも起き上がれるかは定かではない。

 仮にリオが自力で動けなくなった場合はクリスティーナやジルベールが室内へ入る必要がある。
 催眠作用があるという事以外に薬剤の詳細がわからない以上、それはリオとしても避けたい状況だろう。

「倒れられると面倒だわ。その前に戻りなさい」
「勿論です」

 クリスティーナの指示にリオは頷く。そして本棚に並べられた本を手に取り、そのページを確認し始めた。
 だが彼の調べ方では時間が掛かりすぎてしまうのは明白。更に隠されるような箇所に術式が施されていた場合、それを見落としてしまう不正確さもある。

(やっぱり私が見つけなければ)

 クリスティーナは焦りを募らせながら、本棚を一瞥したのだった。
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