悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

159-3.適材適所

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「誓いがあるからと言って、何も闇雲に先陣を切らねばならないわけではありませんよ。適材適所という物があるでしょう。この場では少数で向かうが吉、そしてこの中で一番薬剤に精通しているのは俺です」
「貴方が向かった結果倒れられれば、結局彼が回収に向かうことになるでしょう。なら初めから正しい人選をすることが私達の為にもなるわ」

 ジルベールを諭しながらも、クリスティーナの心中は実に複雑な物であった。
 不死身であるからと言って危険な場面をリオ一人に押し付ける事。それに少なからず抵抗感はある。
 だが自らが首を突っ込むと決めたことなのであれば、付き人である彼にはそれに従ってもらう外ない。この件で彼らにリスクを背負わせる覚悟は昨晩終えたばかりだ。

 クリスティーナとリオの説得に、ジルベールは顔を顰める。
 だが、その言い分は筋が通っているとわかっているのだろう。彼はそれ以上反論をすることなく扉の手前まで後退した。

「よろしくお願い致します。どうか、ご無理はなさらず」
「ええ」

 ジルベールに頷いてから、リオはクリスティーナにも下がるよう目配せをする。

「俺のことはよくわかっているでしょう? 大丈夫ですよ、お嬢様」

 顔に出したつもりはない。だが、ほんの僅かな振る舞いの変化のみでクリスティーナの心中を察したらしいリオが宥める様に笑い掛けた。

「……そうやってすぐに何でもわかった気になっているような態度、不快だわ」
「わかりますよ。お嬢様のことなら誰よりも」

 クリスティーナが後退し、廊下へ出たのを見送ってからリオはジルベールへ視線を向ける。

「お嬢様はご気分が優れないようですから、どうかお傍にいてあげてください」
「……畏まりました」

 おまけに主人のことならよくわかると豪語した自身の主張を証明する様に、彼はクリスティーナの体調まで言い当てて見せてしまう。
 実際に秘め事を全て言い当てられてしまえば嫌味の一つも言えやしない。クリスティーナは不服そうに目を細めるものの、それ以上彼へ言葉を投げることはしなかった。

「薬剤が廊下まで漏れる可能性がありますから、あまり吸い込まぬようお気をつけて。それと、お体に障らない程度で構いませんから、何か気付いたことや具体的な指示があればお嬢様は部屋の外から申し付けください」
「わかったわ」

 ハンカチを口元に当てたまま、クリスティーナはリオの指示に頷く。
 『闇』を目視できるのがクリスティーナしかいない以上、彼女の観察は必須。自身にしか熟せない役割を果たすべく、クリスティーナは気持ちを切り替え、目先の使命に集中した。

「では、いってきます」

 リオは二人へ軽く一礼をすると足音一つ立てることなく、素早く室内へと足を踏み入れたのだった。
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