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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

147-2.繁栄の裏

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 ジルベールは忠実な使用人だ。シャルロットに向ける忠誠心も、使用人としての振る舞いも正しいものであり、ジョゼフを相手にした時も最大限の敬意を払った言動を見せていた。
 更に彼は領主によって雇われている身。余程のことがない限り自身の仕える相手が治めている街について苦言を漏らすことはないだろう。
 それを鑑みれば、彼がニュイという街の情勢について手厳しい評価を下すに至るだけの深刻さが隠れていることは容易に察しが付く。

「旦那様に不信感を抱いている方は少なくありません。どうか事が荒立つ前にそのことに気付き、手を打ってくださればよいのですが……」

 ジルベールは顔を曇らせながら悩みを呟くが、それは途中で切り上げられる。
 彼は言葉を切り、正面を見据えて足を止めた。それとほぼ同時にリオとエリアスが静かに身構えるのをクリスティーナは目の端に捉える。

「……貴方方にお渡しできるものは何もありませんよ」

 四人へ立ちはだかる人影が五つ。男女入り混じった団体だ。
 やつれた顔に深く刻まれた隈。元の質は悪くなかったのだろう服は何度も気回されたせいか薄汚れている。

 彼らの姿を見たジルベールは哀れむ様に眉を下げ、穏やかな口調で言い聞かせた。

「無駄な争いはしたくありません。どうかお引き取りを」

 だが思いつめたような昏い表情を浮かべている五人にその言葉は届かない。
 彼らは後ろ手に隠し持っていた鍬や包丁を構えてクリスティーナ達へと距離を詰めた。

「助力いただく程のことではありません。……危険な目に遭わせないと、約束したばかりですから」

 相手の敵対の意思を感じたリオとエリアスが臨戦態勢を取るも、それはジルベールによって制される。
 彼は小さくため息を吐くとポケットに忍ばせていた棒状の何かを取り出す。

 それは剣の柄。刃を持たぬ武器を片手に持つと彼は腰を低く落とした。

「あまり乱暴なことはしたくないのですが……申し訳ありません。今はそうも言ってられないのです」

 ジルベールは罪悪に顔を顰める。ふとその時、彼の握った柄が淡く光を灯した。
 かと思えば柄の先、淡い光が細い刃を形成する。
 剣先を象った度同時、光が霧散する。そこに残されたのは実態を持った確かな刃だった。

 柄に刻まれた細かく連ねられる文字から、彼が握る武器が恐らくは魔導具の一種であることがわかる。
 彼は自身の魔力で生み出した細剣を構えると、戦場には相応しくない愁いを帯びた顔で小さく呟いた。

「失礼致します」
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