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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
146-2.大馬鹿者
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幻覚が明瞭であればある程、現実との乖離に混乱させられることになるだろう。
例えば、戦闘中に味方の回復の為聖魔法を使ったとして、幻覚を見ている時の体感時間に比べ、現実の経過時間が極僅かだったとする。
長時間意識が拘束されない点はメリットとも言えるが、それでも現実へ意識が引き戻されるまでの間に一瞬の隙が生まれ、更に幻覚の映像と現実の光景の大きな変化は状況把握を熟すまでに相応の時間を要するだろう。
数秒の隙が命取りとなり得る場面では危険な側面も兼ね備えていると言える。
(この辺りは対策を考えていけると良いのだけれど……)
クリスティーナが自身の能力について考えを巡らせている内に部屋の明かりが灯される。
リオが目を覚ました主人に気を利かせたらしい。
また二人の会話で目が覚めたのか、横になっていたエリアスも目を擦りながら体を起こす。
「寝直すにも出立するにも微妙な時間ですね」
懐中時計で改めて時間を確認したリオが苦笑する。
それに小さく頷きを返しながら、時間を潰せるものはないかと辺りを見回したクリスティーナはふと机に置かれている本を見つけた。
それはシャルロットから借りた本。
感想を求められていたし、時間が余っているのならば折角だからとクリスティーナはそれを手に取り、ベッドの上に座ってページを捲り始めた。
エリアスは剣を持って眠気覚ましに軽く鍛錬をしてくると告げると退室し、リオは主人の傍に控えたまま静かに腰を下ろしている。
(これは……)
ページを捲るにつれて、とある憶測がクリスティーナの脳裏を過る。
そしてそれは終盤に差し掛かるにつれて徐々に確信へと変わっていった。
渡された本が一ページ当たりの文字数も少ない童謡であったこと、本を読むことにクリスティーナが慣れていることもあり、本を読み切る為にそこまで時間は要さなかった。
やがて最後の一ページに目を通したクリスティーナは本を閉じ、深く息を吐く。
(もし私の推測が正しいのだとしたら……)
「お嬢様?」
「何でも……。何でもないわ」
裏表紙へと静かに視線を落とす主人へリオが不思議そうに声を掛ける。
そこへ丁度、外で剣を振るっていたエリアスが戸を開けて戻って来た。
「戻りまし……ん、どうかしました?」
エリアスもまた目を丸くしてクリスティーナを見やる。
クリスティーナは目を閉じて目頭を押さえながら再度ため息を吐く。
「本当に大したことじゃないのよ。……ただ」
背表紙を優しくなぞる指先。
伏せた睫毛を持ち上げながら彼女は肩を竦めた。
「あまりにも真っ直ぐで愚かな様を知ってしまったものだから、呆れていたのよ」
漏れるのは僅かな笑い。そして呆れ混じりの苦笑だ。
「……彼は本当に大馬鹿者ね」
『彼』ともう一度話す機会があればと思っていた。色々なことを問いたかったからだ。
だがその内の一つについては、最早聞く必要もないほど明らかだろうとクリスティーナは一人で結論付けたのだった。
気が付けば、ジルベールとの約束の時間が近づいてきていた。
例えば、戦闘中に味方の回復の為聖魔法を使ったとして、幻覚を見ている時の体感時間に比べ、現実の経過時間が極僅かだったとする。
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数秒の隙が命取りとなり得る場面では危険な側面も兼ね備えていると言える。
(この辺りは対策を考えていけると良いのだけれど……)
クリスティーナが自身の能力について考えを巡らせている内に部屋の明かりが灯される。
リオが目を覚ました主人に気を利かせたらしい。
また二人の会話で目が覚めたのか、横になっていたエリアスも目を擦りながら体を起こす。
「寝直すにも出立するにも微妙な時間ですね」
懐中時計で改めて時間を確認したリオが苦笑する。
それに小さく頷きを返しながら、時間を潰せるものはないかと辺りを見回したクリスティーナはふと机に置かれている本を見つけた。
それはシャルロットから借りた本。
感想を求められていたし、時間が余っているのならば折角だからとクリスティーナはそれを手に取り、ベッドの上に座ってページを捲り始めた。
エリアスは剣を持って眠気覚ましに軽く鍛錬をしてくると告げると退室し、リオは主人の傍に控えたまま静かに腰を下ろしている。
(これは……)
ページを捲るにつれて、とある憶測がクリスティーナの脳裏を過る。
そしてそれは終盤に差し掛かるにつれて徐々に確信へと変わっていった。
渡された本が一ページ当たりの文字数も少ない童謡であったこと、本を読むことにクリスティーナが慣れていることもあり、本を読み切る為にそこまで時間は要さなかった。
やがて最後の一ページに目を通したクリスティーナは本を閉じ、深く息を吐く。
(もし私の推測が正しいのだとしたら……)
「お嬢様?」
「何でも……。何でもないわ」
裏表紙へと静かに視線を落とす主人へリオが不思議そうに声を掛ける。
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「戻りまし……ん、どうかしました?」
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クリスティーナは目を閉じて目頭を押さえながら再度ため息を吐く。
「本当に大したことじゃないのよ。……ただ」
背表紙を優しくなぞる指先。
伏せた睫毛を持ち上げながら彼女は肩を竦めた。
「あまりにも真っ直ぐで愚かな様を知ってしまったものだから、呆れていたのよ」
漏れるのは僅かな笑い。そして呆れ混じりの苦笑だ。
「……彼は本当に大馬鹿者ね」
『彼』ともう一度話す機会があればと思っていた。色々なことを問いたかったからだ。
だがその内の一つについては、最早聞く必要もないほど明らかだろうとクリスティーナは一人で結論付けたのだった。
気が付けば、ジルベールとの約束の時間が近づいてきていた。
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