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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
146-1.大馬鹿者
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「…………様」
穏やかな声が耳元で囁く。
その息遣いと聞き覚えのある声音を感じながらクリスティーナはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「お嬢様」
「……リオ」
瞼を開けた先、視界はやけに暗い。
日が暮れ、更けた夜の闇を纏った宿の客室。主人の眠りを妨げないようにと明かりの落された部屋でクリスティーナは眠っていたようだ。
「起こしてしまい、申し訳ありません」
「いいえ……」
徐々に意識が覚醒していく。
オリオール邸を出る際、クリスティーナ達はディオンの元へ案内する為の合流場所と時刻をジルベールから告げられてから別れた。
日中は仕事があるジルベールが自由に動けるのは夜間のみ、それも館の者に不審に思われぬよう気を遣って人目を避けなければならない事情から彼は時刻を深夜に指定した。
そして一度ジルベールと別れて一行は宿へ戻り、休息を取ることにした
(……そう言えば、彼は今晩も姿を見せなかったわね)
だが宿へ戻ったクリスティーナ達は忙しなく働いていた夫婦とは挨拶を交わしたものの、オリヴィエの姿を見つけることが出来なかった。
彼の所在について尋ねようかとも考えたのだが、今晩は特に客が多く忙しそうであった為引き留めて話をすることもできなかったのだ。
そして宿の食事処で夕食を済ませた後は、約束の時刻まで仮眠を取ることになり、結果としてクリスティーナは対先程まで寝入っていたようであった。
「……時間?」
「いいえ。まだ余裕はありますが……悪い夢でも見ているのではと」
「夢……?」
体を起こしながら聞き返したクリスティーナはそこで自身の頬を伝う雫に気付いた。
咄嗟に指先で目元に触れ、そこが濡れていることを確認してから瞬きを繰り返す。
「気分が優れませんか?」
「大したことじゃないわ。気にしないで」
「……畏まりました」
目元を拭いながら、クリスティーナは自身の見ていた夢を思い返す。
(あれは……シャルロットの記憶ね)
昨日今日とシャルロットへ魔法を行使した際に見た幻覚。
寝る直前まで彼女やジルベールの言葉について考えていたからだろう。どうやらそれが夢となって再び現れたらしかった。
エリアスを治療した時よりも明確に見えた記憶。
会話の全てが詳細に見えた訳ではないが、やけに明瞭に、詳細に描写された部分があった。
その幻覚の質が以前に比べて上がっていたことは確かだ。
(聖魔法の勝手がわかってきたからかしら)
魔法の精度が上がってきているからだとすれば喜ばしい変化ではあるが、一方で懸念点もあった。
穏やかな声が耳元で囁く。
その息遣いと聞き覚えのある声音を感じながらクリスティーナはゆっくりと瞼を持ち上げた。
「お嬢様」
「……リオ」
瞼を開けた先、視界はやけに暗い。
日が暮れ、更けた夜の闇を纏った宿の客室。主人の眠りを妨げないようにと明かりの落された部屋でクリスティーナは眠っていたようだ。
「起こしてしまい、申し訳ありません」
「いいえ……」
徐々に意識が覚醒していく。
オリオール邸を出る際、クリスティーナ達はディオンの元へ案内する為の合流場所と時刻をジルベールから告げられてから別れた。
日中は仕事があるジルベールが自由に動けるのは夜間のみ、それも館の者に不審に思われぬよう気を遣って人目を避けなければならない事情から彼は時刻を深夜に指定した。
そして一度ジルベールと別れて一行は宿へ戻り、休息を取ることにした
(……そう言えば、彼は今晩も姿を見せなかったわね)
だが宿へ戻ったクリスティーナ達は忙しなく働いていた夫婦とは挨拶を交わしたものの、オリヴィエの姿を見つけることが出来なかった。
彼の所在について尋ねようかとも考えたのだが、今晩は特に客が多く忙しそうであった為引き留めて話をすることもできなかったのだ。
そして宿の食事処で夕食を済ませた後は、約束の時刻まで仮眠を取ることになり、結果としてクリスティーナは対先程まで寝入っていたようであった。
「……時間?」
「いいえ。まだ余裕はありますが……悪い夢でも見ているのではと」
「夢……?」
体を起こしながら聞き返したクリスティーナはそこで自身の頬を伝う雫に気付いた。
咄嗟に指先で目元に触れ、そこが濡れていることを確認してから瞬きを繰り返す。
「気分が優れませんか?」
「大したことじゃないわ。気にしないで」
「……畏まりました」
目元を拭いながら、クリスティーナは自身の見ていた夢を思い返す。
(あれは……シャルロットの記憶ね)
昨日今日とシャルロットへ魔法を行使した際に見た幻覚。
寝る直前まで彼女やジルベールの言葉について考えていたからだろう。どうやらそれが夢となって再び現れたらしかった。
エリアスを治療した時よりも明確に見えた記憶。
会話の全てが詳細に見えた訳ではないが、やけに明瞭に、詳細に描写された部分があった。
その幻覚の質が以前に比べて上がっていたことは確かだ。
(聖魔法の勝手がわかってきたからかしら)
魔法の精度が上がってきているからだとすれば喜ばしい変化ではあるが、一方で懸念点もあった。
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