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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

135-1.従者としての苦悩

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 クリスティーナの施す『まじない』とやらの都合に付き合う様にして廊下へ出たジルベールはリオとエリアスと共にシャルロットの部屋の前で待つこととなった。
 主人の身を案じてか何度も扉へ視線を向けては懐中時計で時間を確認する姿は忙しない。

「ジルベール様はシャルロット様を本当に大切になさっているのですね」
「あ……っ! 申し訳ありません、お客様の前で」
「いえ」

 リオの言葉で我に返ったジルベールは客人のもてなしを疎かにしてしまっていた無礼を謝罪し、息を一つ吐いた。
 彼の顔には疲労と不安が浮かんでおり、心中穏やかでない様子は一目でわかる程である。

「随分とお悩みな様ですが、よろしければお伺いしましょうか? 話すだけでも気が楽になるかもしれませんし」
「お気遣いありがとうございます。しかし客人である貴方方に聞いていただくよう話では……」
「こちらがそうしたいだけというただのお節介ですよ。旅をしているとはいえ俺も一人の主人を持つ身ですから、通ずるもののあるジルベール様の悩んでいるお姿を見ると見て見ぬふりをするのも心苦しくて」

 リオ個人としては自ら介入する程ジルベールが気掛かりという訳ではない。彼の身の上話にそこまで興味がある訳でもないが、目的は彼を慰めることとは別の場所にある。

「それに、何も話さず待つというのもお互いに気まずさを感じませんか?」
「オレも別に気にしないですよ。難しい話はマジで聞くくらいしかできないと思いますけど」

 沈黙を貫くのはエリアスの性格からしても得意ではない。
 変に気遣う必要はないと二人目の客人からも後押しが入ったところで漸くジルベールは首を縦に振った。

「お二人ともありがとうございます。……とは言っても、大した話ではないのですが」

 ジルベールは目頭を押さえながら深く息を吐く。

「……シャルロット様の容態は日に日に悪くなってきています。お体を壊してから暫くは目に見えて悪化することも少なかったのですが、最近は特に落ち込み方が激しく」
「シャルロット様の不調はいつ頃から……?」
「およそ一年前ですね。学院の長期休暇でこちらへお帰りになられてからのことでしたから」
「それ以前はお元気だったという事ですよね」
「ええ。元より活発なご性格で、他の御令嬢と比べても明るい言動が目立つ方でしたから……ご帰宅為された当初も本当にお元気な姿だったのです。休暇の終わり頃に突如倒れられてからというもの、体調が不安定な時期が続いておりますが」

 健康だったころのシャルロットの姿を思い返しているのか、ジルベールは対面の窓を見て目を細める。
 しかしすぐにその顔を曇らせては俯いてしまった。
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