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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

132-1.通用しない魔法

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 包み込まれた自身の手へ視線を落としながら、シャルロットは目を瞬かせる。

「手伝う……?」
「そう。とは言ってもそんな大仰なものじゃなくて、幼い頃に教えて貰ったおまじないなのだけれど」
「あ、私が良くなるようにってお願いしてくれるんだ」
「ええ」

 クリスティーナの言う『手伝い』が何を指すものであるのかわからず不思議そうな顔をしていたシャルロットは納得したように頷いた。
 そして照れ臭そうにはにかむ。

「勿論気休めにしかならないだろうけれど。それでも何かしたいと思ったの」
「へへ、嬉しいなぁ。じゃあお願いしてもいい?」
「ええ……でも」

 クリスティーナは自身の背後に立っていたリオやエリアス、ジルベールを見やった。

「あまり大勢に見せる様なものではないの。良かったら少しだけ二人きりにさせて欲しいのだけれど」

 まじないはシャルロットと二人きりになり、聖魔法を試す為の口実に過ぎない。
 聖魔法を使う際発生する光を見れば、今からクリスティーナが取る行動がただのまじないではないことには誰だって気付いてしまうだろう。
 正体が漏れる可能性を少しでも抑えるのであれば一時的にジルベールをクリスティーナの傍から引き離す必要があった。

「……しかし」
「ジル」

 主人の身を案じているのだろう。異を唱えようとしたジルベールにシャルロットは笑いかける。

「少しくらい大丈夫だよ、ベッドで座ってるだけなんだから。心配なら部屋の前で待っていてくれていいから」
「……畏まりました」

 心配そうに主人を見やるも、ジルベールは一つ頷きを返した。
 そしてリオやエリアスと目を合わせると彼らを連れて部屋を後にした。

 扉が閉まる直前、リオが視線を投げかけてきたことをクリスティーナは見逃さなかった。
 静かに双眸を細めれば、言われずともわかっていると言うように彼から小さな頷きが返される。
 それを最後に部屋の戸は音を立てて閉められた。

 残された部屋の中、静けさの増した空間でシャルロットはクリスティーナの顔を優しく覗き込む。

「それで、クリスの知ってるおまじないはどんなものなの?」
「……期待させてしまっていたら申し訳ないのだけれど。本当に大したものではないのよ」

 クリスティーナはシャルロットの両手を重ね合わせ、その上から自身の両手で包み込みながら目を伏せる。

「こうしたら、後はお互いに目を閉じて回復を願うの」
「思ったよりも簡単だ」
「こういうのは気持ちが一番大事なのよ」

 それらしい工程が思いつかなかった故の言い訳なのだが、幸いにもシャルロットが不審に思うことはなかった。
 自身の回復を願ってくれているクリスティーナの気持ちを尊重してくれているのだろう。

「わかった。こうすればいいんだね」
「そう。私が良いと言うまでそのままでいて頂戴」
「はーい!」

 シャルロットが素直に瞼を落としたことを確認してから、クリスティーナは深く息を吸う。
 そして自身も目を閉じ、シャルロットへ纏わりつく闇が光によって掻き消される光景を強く念じた。
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