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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
129-2.消えない闇
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靄は僅かに黒みを帯びており、長い糸の様にどこかへ繋がるように漂っている。だがそれが向かう先は建物の方向であることしかわからず、明確な位置までは把握が出来ない。
ふとオリヴィエとの会話がクリスティーナの頭の中で呼び起こされる。
シャルロットが病持ちなのかと聞いた時の煮え切らない返答。
(……もしかして)
オリヴィエの発言、そして彼女に纏わりつく闇。そこから導かれる答え。
クリスティーナは眉を寄せる。
(彼女の不調の原因が単なる病ではなくこれにあるとするなら……)
クリスティーナは黒い靄を見つめる。
ゆらゆらと漂う闇。それ以上に大きなものをクリスティーナは打ち消したことがある。
医者で解決出来ない問題であったとしても、この闇が見える自分であれば何とか出来るのではないか。
そんな憶測がクリスティーナの中に芽生え始めていた。
クリスティーナは自身の周辺を軽く見回す。
エリアスはシャルロットへの応急処置をクリスティーナへ任せ、安心させる役割に回っている。
もうすぐ使用人が来ることを伝え、元気付けるような声掛けを続ける彼の言葉はクリスティーナにも届いていた。
今ならばシャルロットを除けば、クリスティーナの正体を知る者しか残されてはいない。
自身の力で解決できるものであるのかを試すには今が絶好の機会だろう。
そう結論付ける一方で、クリスティーナには躊躇う気持ちも存在した。
ここで聖女としての力を試せば自身の正体がバレてしまう可能性がある。もしそうなった場合、どう転ぶかはクリスティーナ自身にも推測は出来なかった。
「……ふたり、とも」
その時、掠れた声でシャルロットが言葉を発した。
口元を赤く濡らしながら、彼女は優しく笑いかける。
「たまに、あるの。……だから私はだいじょ、ぶ、だから」
「話さなくていい。オレ達の事は気にしなくていいから」
血を吐きながらもクリスティーナ達を気遣うシャルロットをエリアスが宥める。
だが制止の声を聞いても尚、シャルロットは声を絞り出した。
「ごめんね、しんぱい……かけて」
彼女の瞳がクリスティーナを見る。
優しくて、温かくもあり、不安定に揺れる瞳。
それを見たクリスティーナは歪みそうになる表情に力を籠めた。
ふとオリヴィエとの会話がクリスティーナの頭の中で呼び起こされる。
シャルロットが病持ちなのかと聞いた時の煮え切らない返答。
(……もしかして)
オリヴィエの発言、そして彼女に纏わりつく闇。そこから導かれる答え。
クリスティーナは眉を寄せる。
(彼女の不調の原因が単なる病ではなくこれにあるとするなら……)
クリスティーナは黒い靄を見つめる。
ゆらゆらと漂う闇。それ以上に大きなものをクリスティーナは打ち消したことがある。
医者で解決出来ない問題であったとしても、この闇が見える自分であれば何とか出来るのではないか。
そんな憶測がクリスティーナの中に芽生え始めていた。
クリスティーナは自身の周辺を軽く見回す。
エリアスはシャルロットへの応急処置をクリスティーナへ任せ、安心させる役割に回っている。
もうすぐ使用人が来ることを伝え、元気付けるような声掛けを続ける彼の言葉はクリスティーナにも届いていた。
今ならばシャルロットを除けば、クリスティーナの正体を知る者しか残されてはいない。
自身の力で解決できるものであるのかを試すには今が絶好の機会だろう。
そう結論付ける一方で、クリスティーナには躊躇う気持ちも存在した。
ここで聖女としての力を試せば自身の正体がバレてしまう可能性がある。もしそうなった場合、どう転ぶかはクリスティーナ自身にも推測は出来なかった。
「……ふたり、とも」
その時、掠れた声でシャルロットが言葉を発した。
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「たまに、あるの。……だから私はだいじょ、ぶ、だから」
「話さなくていい。オレ達の事は気にしなくていいから」
血を吐きながらもクリスティーナ達を気遣うシャルロットをエリアスが宥める。
だが制止の声を聞いても尚、シャルロットは声を絞り出した。
「ごめんね、しんぱい……かけて」
彼女の瞳がクリスティーナを見る。
優しくて、温かくもあり、不安定に揺れる瞳。
それを見たクリスティーナは歪みそうになる表情に力を籠めた。
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