382 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
124-2.警戒の対象
しおりを挟む
「お嬢様も気付いてはいらっしゃると思いますが、オリヴィエ様が属している組織は現状謎に包まれています。俺達が把握していることは盗難や危険物の取り扱いを率先している方々の集まりであるという事のみです」
「まあ、本人の意思に関係なく周りへ危険を振りまいてしまうケースなんてのはいくらでもあるしな。怪しいとこに関わってるってなら尚更だろ」
リオと、彼の見解に同意を示すエリアスの言葉は正しい。クリスティーナも同意見であった。
例えばオリヴィエが自身の意志に従って動いているつもりが実は利用されているだけであるという場合。彼が良からぬ団体に利用された結果、その影響がオリヴィエと関りを持つクリスティーナ達へ降り掛かるなんていう可能性も捨てることは出来ない。
つまりリオはオリヴィエ単体を警戒しているというよりも、ディオンが率いる組織全体を警戒しているのだと言いたいのだろう。
「まあ、お嬢様の交友関係にはなるべく口出しをしたくはありませんし、オリヴィエ様への警戒や観察は俺達に任せてくれれば大丈夫ですよ。まずいと感じた時はきちんと説明した上で対処しますから」
「……そう」
「リンドバーグ卿はまあ……あまり役に立たないかもしれませんが」
「おい!」
どちらかと言えばオリヴィエに近しい人間性を持っているはずのエリアスの鈍感さなどに目を付けたリオは大袈裟に肩を竦め、そこへすかさず抗議の声が飛ぶ。
それを聞き流しながら足を進めていたクリスティーナはふと、進行方向に見えた大きな建物を見つける。
建物群の間から顔を覗かせるそれは大きく豪奢な造りをしたホールのようだ。
それは遠目から見ても昨晩足を運んだホールとは別格の物であると悟る。
「あちらは……頂いた招待状に記されていた辺りですね」
「ってことは例の舞踏会の会場かぁ」
主人の視線の先に気付いてかリオが補足を入れ、エリアスが華やかな建物の外観に感嘆の息を漏らしながら呟く。
三人は昼下がりの街の中、足を止めて暫しそのホールを見やっていた。
オリヴィエはクリスティーナ達と別れた後、目立たないルートを選び、路地裏を滑空していた。比較的大きな通りへ繋がる手前でゆったりと着地をした。
それはニコラとして働いている店に面した道。
店へ戻るまであと僅かという所で、オリヴィエの後方から声がする。
「よっ」
低く落ち着いた声。それが聞き覚えのある物でありながらも、突然降り掛かったことからオリヴィエは驚いてしまい、反射で振り返る。
「いい加減、ちっとくらい人の気配に敏感になってくれてもいいのになぁ」
目を見開き、勢いよく振り返った相手の様子に笑いながらディオンはオリヴィエを見やる。
見覚えのある顔を確認したオリヴィエは深々と息を吐きながら苛立ちを滲ませた声を出す。
「物音を殆ど立てないような相手の接近に気付くような輩がそうほいほいいてたまるか。ボス達が逸出してるだけですよ」
「はははっ、まあ否定はしないけどなぁ!」
「……揶揄いに来ただけなら戻りますけど」
「そんな訳ないだろ。オレは忙しいんだ」
背を向け、離れようとするオリヴィエをディオンは引き留める。
足を止め、半身で振り返った彼へ近づくと、ディオンはその耳元で低く囁いた。
「学院の魔導師らが動き出してる。いい加減、悠長にしてられる時間はないぞ」
いつの間にかディオンの顔からは笑みが消え、真剣な面持ちとなる。
彼から漂う緊張感にオリヴィエは顔を顰め、ため息とともに眼鏡を押し上げる。
「本当に叶えたい事があるのなら、早く行動に出ることだ。取り返しがつかなくなる前にな」
囁かれる忠告。
それを聞き届けながら、オリヴィエは静かに目を細めた。
「まあ、本人の意思に関係なく周りへ危険を振りまいてしまうケースなんてのはいくらでもあるしな。怪しいとこに関わってるってなら尚更だろ」
リオと、彼の見解に同意を示すエリアスの言葉は正しい。クリスティーナも同意見であった。
例えばオリヴィエが自身の意志に従って動いているつもりが実は利用されているだけであるという場合。彼が良からぬ団体に利用された結果、その影響がオリヴィエと関りを持つクリスティーナ達へ降り掛かるなんていう可能性も捨てることは出来ない。
つまりリオはオリヴィエ単体を警戒しているというよりも、ディオンが率いる組織全体を警戒しているのだと言いたいのだろう。
「まあ、お嬢様の交友関係にはなるべく口出しをしたくはありませんし、オリヴィエ様への警戒や観察は俺達に任せてくれれば大丈夫ですよ。まずいと感じた時はきちんと説明した上で対処しますから」
「……そう」
「リンドバーグ卿はまあ……あまり役に立たないかもしれませんが」
「おい!」
どちらかと言えばオリヴィエに近しい人間性を持っているはずのエリアスの鈍感さなどに目を付けたリオは大袈裟に肩を竦め、そこへすかさず抗議の声が飛ぶ。
それを聞き流しながら足を進めていたクリスティーナはふと、進行方向に見えた大きな建物を見つける。
建物群の間から顔を覗かせるそれは大きく豪奢な造りをしたホールのようだ。
それは遠目から見ても昨晩足を運んだホールとは別格の物であると悟る。
「あちらは……頂いた招待状に記されていた辺りですね」
「ってことは例の舞踏会の会場かぁ」
主人の視線の先に気付いてかリオが補足を入れ、エリアスが華やかな建物の外観に感嘆の息を漏らしながら呟く。
三人は昼下がりの街の中、足を止めて暫しそのホールを見やっていた。
オリヴィエはクリスティーナ達と別れた後、目立たないルートを選び、路地裏を滑空していた。比較的大きな通りへ繋がる手前でゆったりと着地をした。
それはニコラとして働いている店に面した道。
店へ戻るまであと僅かという所で、オリヴィエの後方から声がする。
「よっ」
低く落ち着いた声。それが聞き覚えのある物でありながらも、突然降り掛かったことからオリヴィエは驚いてしまい、反射で振り返る。
「いい加減、ちっとくらい人の気配に敏感になってくれてもいいのになぁ」
目を見開き、勢いよく振り返った相手の様子に笑いながらディオンはオリヴィエを見やる。
見覚えのある顔を確認したオリヴィエは深々と息を吐きながら苛立ちを滲ませた声を出す。
「物音を殆ど立てないような相手の接近に気付くような輩がそうほいほいいてたまるか。ボス達が逸出してるだけですよ」
「はははっ、まあ否定はしないけどなぁ!」
「……揶揄いに来ただけなら戻りますけど」
「そんな訳ないだろ。オレは忙しいんだ」
背を向け、離れようとするオリヴィエをディオンは引き留める。
足を止め、半身で振り返った彼へ近づくと、ディオンはその耳元で低く囁いた。
「学院の魔導師らが動き出してる。いい加減、悠長にしてられる時間はないぞ」
いつの間にかディオンの顔からは笑みが消え、真剣な面持ちとなる。
彼から漂う緊張感にオリヴィエは顔を顰め、ため息とともに眼鏡を押し上げる。
「本当に叶えたい事があるのなら、早く行動に出ることだ。取り返しがつかなくなる前にな」
囁かれる忠告。
それを聞き届けながら、オリヴィエは静かに目を細めた。
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
悪役令息、皇子殿下(7歳)に転生する
めろ
BL
皇子殿下(7歳)に転生したっぽいけど、何も分からない。
侍従(8歳)と仲良くするように言われたけど、無表情すぎて何を考えてるのか分からない。
分からないことばかりの中、どうにか日々を過ごしていくうちに
主人公・イリヤはとある事件に巻き込まれて……?
思い出せない前世の死と
戸惑いながらも歩み始めた今世の生の狭間で、
ほんのりシリアスな主従ファンタジーBL開幕!
.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚
HOTランキング入りしました😭🙌
♡もエールもありがとうございます…!!
※第1話からプチ改稿中
(内容ほとんど変わりませんが、
サブタイトルがついている話は改稿済みになります)
大変お待たせしました!連載再開いたします…!
目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜
楠ノ木雫
恋愛
病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。
病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。
元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!
でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界は流されるままに
椎井瑛弥
ファンタジー
貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。
日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。
しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。
これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる