373 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』
120-1.贈り物に関する議論
しおりを挟む
「面白い本を探している……?」
自身の告げた言葉を反芻するクリスティーナの声にオリヴィエは頷きを返す。
「僕は生憎と読書を好まない。だからそういったことには疎いんだ」
オリヴィエはため息を吐きながら眼鏡を押し上げる。
自身の不得手なことを晒すことが苦手なのだろう。堂々とした振る舞いが印象的な彼は今現在、視線を泳がせて居心地悪そうにしていた。
「だから助言が欲しい、と」
「可能であれば。少なくともお前達は僕よりも本を読むんじゃないかと踏んだ」
クリスティーナは少し考えを巡らせる。
その最中に護衛二人へ視線を移せば、エリアスは何度も首を横に振り、リオは肩を竦めて苦笑を返した。
「オレは本とか全然わからないですよ。剣のことしか頭にないんで」
「俺はよく読む方ではありますが、あくまで知識を蓄える手段の一つであって、娯楽の対象として見たことはないですね」
「だと思ったわ」
二人の反応は予想の範疇だ。
彼らの返答を確認してからクリスティーナはオリヴィエが漁っていた本棚を覗き込む。
幸い探索時間に余裕はあるし、読書はクリスティーナが好むものの一つだ。面白そうな本を探すという行為に割かれる労力は少ない上に、読んだことのない他国の本というのはクリスティーナの興味をそそる対象でもあった。
「いいのか? 見返りはやれそうにないが」
「構わないわ。時間に余裕はあるし、本を選ぶのは嫌いじゃないもの」
棚に並ぶ多様な本の背表紙を眺めながら頷いたクリスティーナであったが、ふと思い至ることがあった。
彼女は探す手を止めて、オリヴィエを見やった。
「面白い本と言っても色々あると思うのだけれど。私が探せば私の趣味嗜好に偏ってしまうけれど、それでも構わないのかしら」
「まあ……問題ないだろう。僕が適当に探すよりはマシなはずだ」
「……もしかして、貴方が探しているのは自分以外の誰かの為の物?」
女性であるクリスティーナからの視線を察知したオリヴィエはいち早く顔を逸らしながら問いに答える。
その物言いが曖昧なことが引っ掛かり、そこから導き出された予測をクリスティーナが口にすれば、彼はあっさりと頷いた。
「ああ。知人から頼まれて見繕わないといけなくなったんだ」
「……贈り物なら、尚更慎重になるべきだわ」
「まあ、送り主の勧めならまだしも、見ず知らずの人間の好みを押し付けられても困ってしまうでしょうね」
「プレゼントとかの話は疎いけど、相手の好みくらいは大まかにでも把握してた方が楽なもんなんじゃね? わかんねぇけど」
オリヴィエの返答にクリスティーナは眉を顰め、リオやエリアスが駄目出しをする。
だが当の本人は納得のいかない様子で顔を顰めている。
「人に勧められる程本を読んでいないから困っているんだが」
「なら相手の本の好みは? 本の購入の代行を頼まれるくらいならそういった話を聞いたことくらいあるでしょう」
「あればこうはなってな――」
クリスティーナの指摘に対する反論は途中で途切れる。
オリヴィエは言葉の途中で我に返ったように目を見開き、考える素振りを見せたのだった。
自身の告げた言葉を反芻するクリスティーナの声にオリヴィエは頷きを返す。
「僕は生憎と読書を好まない。だからそういったことには疎いんだ」
オリヴィエはため息を吐きながら眼鏡を押し上げる。
自身の不得手なことを晒すことが苦手なのだろう。堂々とした振る舞いが印象的な彼は今現在、視線を泳がせて居心地悪そうにしていた。
「だから助言が欲しい、と」
「可能であれば。少なくともお前達は僕よりも本を読むんじゃないかと踏んだ」
クリスティーナは少し考えを巡らせる。
その最中に護衛二人へ視線を移せば、エリアスは何度も首を横に振り、リオは肩を竦めて苦笑を返した。
「オレは本とか全然わからないですよ。剣のことしか頭にないんで」
「俺はよく読む方ではありますが、あくまで知識を蓄える手段の一つであって、娯楽の対象として見たことはないですね」
「だと思ったわ」
二人の反応は予想の範疇だ。
彼らの返答を確認してからクリスティーナはオリヴィエが漁っていた本棚を覗き込む。
幸い探索時間に余裕はあるし、読書はクリスティーナが好むものの一つだ。面白そうな本を探すという行為に割かれる労力は少ない上に、読んだことのない他国の本というのはクリスティーナの興味をそそる対象でもあった。
「いいのか? 見返りはやれそうにないが」
「構わないわ。時間に余裕はあるし、本を選ぶのは嫌いじゃないもの」
棚に並ぶ多様な本の背表紙を眺めながら頷いたクリスティーナであったが、ふと思い至ることがあった。
彼女は探す手を止めて、オリヴィエを見やった。
「面白い本と言っても色々あると思うのだけれど。私が探せば私の趣味嗜好に偏ってしまうけれど、それでも構わないのかしら」
「まあ……問題ないだろう。僕が適当に探すよりはマシなはずだ」
「……もしかして、貴方が探しているのは自分以外の誰かの為の物?」
女性であるクリスティーナからの視線を察知したオリヴィエはいち早く顔を逸らしながら問いに答える。
その物言いが曖昧なことが引っ掛かり、そこから導き出された予測をクリスティーナが口にすれば、彼はあっさりと頷いた。
「ああ。知人から頼まれて見繕わないといけなくなったんだ」
「……贈り物なら、尚更慎重になるべきだわ」
「まあ、送り主の勧めならまだしも、見ず知らずの人間の好みを押し付けられても困ってしまうでしょうね」
「プレゼントとかの話は疎いけど、相手の好みくらいは大まかにでも把握してた方が楽なもんなんじゃね? わかんねぇけど」
オリヴィエの返答にクリスティーナは眉を顰め、リオやエリアスが駄目出しをする。
だが当の本人は納得のいかない様子で顔を顰めている。
「人に勧められる程本を読んでいないから困っているんだが」
「なら相手の本の好みは? 本の購入の代行を頼まれるくらいならそういった話を聞いたことくらいあるでしょう」
「あればこうはなってな――」
クリスティーナの指摘に対する反論は途中で途切れる。
オリヴィエは言葉の途中で我に返ったように目を見開き、考える素振りを見せたのだった。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~
saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。
前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。
国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。
自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。
幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。
自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。
前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。
※小説家になろう様でも公開しています

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる