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第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

117-1.謎に包まれた組織

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 がたいの良い男はひとしきり笑い終わった後、静かな笑みだけを湛えて落ち着きを取り戻す。

「嬢ちゃんがどうやってこいつの本質に気付いたのかは知らん。本人の言う通り勘が冴えているのかもしれないし、それ以外の何かを隠しているのかもしれない。けどそこは大した問題ではない」

 男は自身の掌の中にある懐中時計を弄ぶ。
 そしてその視界にクリスティーナの姿を留めたまま、満足そうに笑みを深めた。

「こいつの本質を見抜いたという事実。そこにオレは興味がある」
「って、待ってくれボス。こいつらは僕達とは無関係でしょう。巻き込むつもりですか」
「お前だって初めは無関係だっただろう」

 オリヴィエは背中を叩かれた勢いで繰り返し咽ていたが、男の言わんとしていることをいち早く悟ると即座に口を挟んだ。
 だが咎めるような問いに対し相手は明確な解を提示することはなく、彼の言葉は軽くいなされるに留まる。

「嬢ちゃん。お前がこいつを追ってきたのは知人であるこいつが気掛かりだったか、もしくはこいつの正体が気になったかのどちらかだろう」

 懐中時計を示しながら語られる男の言葉に、クリスティーナは無言で耳を傾けた。
 親しくはなくとも見知った相手が危機に晒された時の寝覚めの悪さはエリアスが命を落としかけた時に経験済みであったし、魔族と対峙していない際にも度々感じられる嫌な予感の正体やそれを感じる時の共通点を明確化させておきたいという気持ちも彼女の中には存在している。
 つまるところ、男の予想はどちらも正しい物であった。

「こいつに関してはオレ個人としては教えてやってもいいんだが、生憎仕事の規則で時と場所を鑑みずにそう安々と教えてやることは出来ないのさ。それと、ニコラについては……今晩のような行いを控えるよう咎めたとしても本人が納得しないだろう」
「当然だ」
「……つまり、何が言いたいのかしら」

 男の発言を要約するならば、オリヴィエを追いかけてきた理由が彼の身を案じるものであったとしても懐中時計について気に掛けていたものであったとしても、クリスティーナの望みを満たすことは出来ないという事になる。
 だが、それよりも前にオリヴィエはクリスティーナ達を巻き込むつもりかと男に言及しているし、何よりそれについて男ははぐらかしていた。それは裏を返せばそのような意図があることを否定できないという事だ。
 つまり、彼はまだ本題を自分達へ提示していない。クリスティーナはそう判断した。

 結論を急かすような発言。相手の言動をよく観察し、その裏に隠れた部分まで事細かに分析するクリスティーナの言葉に男は目を丸くし、肩を竦めた。

「うちのアジトに来ないか。そこでなら少々詳しい話もできるだろう」
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