上 下
355 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

111-1.動き出す両者

しおりを挟む
 頻繁にオークションを催しているというホールの場所を聞いたクリスティーナ達は日の沈んだ街中を歩いていく。
 辿り着いたのは周辺の建物よりもやや大きな建築物。広い出入り口は現在固く閉ざされており、今晩は使われる予定がないことは明らかであった。
 しかしクリスティーナ達の目的は会場そのものではなく、その入り口付近に備え付けられた掲示板である。

 三人は掲示板まで近づくとそこへ貼りだされている予定表やオークションの詳細等へ目を通し始めた。

「……思いの外、開催頻度は高いようですね。その分出品される品の数が少なく、規模も小さいようではありますが」
「数日単位で予定が入ってるし、直近で明日開催予定のものまであるな。オークションの参加者なんてそもそもの母数も多くはないだろうに」
「それこそ領主主催の大規模な催し物であれば物好きな貴族も集まるでしょうが、こちらで開かれる競りはどれもそうではなさそうですからね。それでもこれだけの頻度で開かれるという事は一応主催側にメリットがあるという事ではあるんでしょう」

 数日間隔で埋まっているホールの予定表。その殆どは深夜帯の小規模オークションだ。
 掲示板には予定表の他、近々開催されるオークションの出品リストなど詳細の記された紙も貼り出されている。それらを確認する限り、クリスティーナ達が望むような品は見つからなかった。
 しかしいくつかのオークションには出品リストに載っている物品の他にも当日明らかとなる品が存在しているらしい。つまり、目当ての品が出品リストに記載されていない物であったとしても、当日足を運んでみれば運よく巡り合わせる事もあるという事だ。

「わざわざ怪しいオークションに行かなくても済むかもしれないなら覗いてみても良いかもしれないけどなぁ」
「しかしこちらが安全とも言い切れない部分もあります。個々が自由に手掛けている分、会場内の規則などが緩く、秩序が保たれていない可能性はありますからね」
「……けど、できることなら早くここを発ちたい。そうでしょう」

 静かに耳を傾けていたクリスティーナはやがてどうすることが最善かと意見を交換し合う二人の会話へ口を挟んだ。
 二つの視線がクリスティーナへと向けられる。

「……それに、私達は誰もこういった催し物に詳しいわけではない。仮に、二週間後のオークションへ出席するにしてもそれ以前に基本的な知識は備えておかなければならないはずよ」
「しかし……」

 クリスティーナの主張に、リオが僅かな躊躇いを見せる。
 規則と身分に統制された環境で生きてきた主人を無秩序が広がっているかもしれない環境へ連れていくことに対する抵抗感。それ故の反応であることをクリスティーナは理解する。
 その上で彼女は言葉を付け加えた。

「催し物自体、そこまで規模の大きなものではないでしょう。それに、安定した環境で育った私はまだ世間に対して無知だわ。この先、自分がどうすべきか考える為の指針としても、世間の良からぬ面にも向き合う必要はあると思うの」

 聖女という立場と能力を持て余しているクリスティーナ。人とは違う自分がどう生きるべきなのか、この力をどう使うべきなのか。大雑把な目標すら立てられない現状は彼女へもどかしさを少なからず与えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

田村涼は異世界で物乞いを始めた。

イペンシ・ノキマ
ファンタジー
異世界に転生した田村涼に割り振られた職業は「物乞い」。それは一切の魔術が使えず、戦闘能力は極めて低い、ゴミ職業であった。おまけにこの世界は超階級社会で、「物乞い」のランクは最低の第四階級。街の人々は彼を蔑み、馬鹿にし、人間扱いさえしようとしない。そのうえ、最近やってきた教会長はこの街から第四階級の人々を駆逐しようとさえしている。そんななか、田村涼は「物乞い」には”隠されたスキル”があることに気がつく。そのことに気づいたところから、田村涼の快進撃が始まる――。

史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星
ファンタジー
魔力の溢れる世界。記憶を失った少女は最強魔導士に弟子入り! いずれ師匠を超える魔導士になると豪語する少女は、魔導を極めるため魔導学園へと入学する。しかし、平穏な学園生活を望む彼女の気持ちとは裏腹に様々な事件に巻き込まれて…!? 初めて出会う種族、友達、そして転生者。 思わぬ出会いの数々が、彼女を高みへと導いていく。 その中で明かされていく、少女の謎とは……そして、彼女は師匠をも超える魔導士に、なれるのか!? 最強の魔導士を目指す少女の、青春学園ファンタジーここに開幕! 毎日更新中です。 小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも連載しています!

処理中です...