上 下
331 / 579
第三章―魔法国家フォルトゥナ 『遊翼の怪盗』

100-1.招待状

しおりを挟む
 ニュイの街並みを眺めながら足を進める一行。
 やがてその足が大きな十字路へ辿り着いたところでオリヴィエは足を止める。

「この辺りでいいだろ。国境は西の道を直進。宿をとるなら北にいくつかあるはずだ」
「ご同行ありがとうございました」
「別に」

 虫の居所が悪いクリスティーナの代わりにとリオが頭を下げる。
 オリヴィエはそれに素っ気なく言葉を返した。そして暫し考えるように黙り込んだ後に再び口を開く。

「今後の予定は?」
「そうですね……。万一の事態を避ける為にも早めに出立したいところではありますが、魔導具を見ていきたい気もしますね」
「同感ね」
「魔導具?」

 自身が身に着けているブレスレットを一瞥するリオの言葉にクリスティーナは小さく頷く。
 未だ機嫌は良くなさそうだが、必要な話し合いに応じない程ではないらしい。

 ブレスレットの耐久面の問題。
 アレットからブレスレットを受け取った際指摘されたそれを解決するには専用の魔導具が必要だ。
 ニュイは魔導具の売買が盛んな地であるとノアが話していたこともある。魔導具を取り扱っている店を見て回れば運よく収穫があるかもしれない。

 不必要に口を挟むことはないが、エリアスもまたクリスティーナとリオの言葉に賛成であった。その意志を示すように頷きを返す。

 しかし事情を知らないオリヴィエだけは不思議そうに目を丸くし、首を傾ける。
 それを見たリオはどこまで話しても良いものか判断に迷い、クリスティーナへ視線を向ける。

「魔族との接触を避ける為に有用な魔導具を受け取ったのだけれど、耐久面の心配が残っているの」
「そのデメリットを補えるような魔導具を探すようノア様から提案頂いてまして」
「なるほどな」

 厄介事を身近へ持ち寄られることを忌避しているオリヴィエの心証はクリスティーナ達の滞在が長引けば長引く程悪いものとなるだろう。
 しかし滞在が長引く理由こそ厄介事を避ける為に必要なことであるとなれば、それはオリヴィエにとっても悪い話ではなくなる。

 そう考え、故に必要な選択であると判断したクリスティーナは大まかな説明を彼へ施す。
 それを見届けたリオも補足を入れ、オリヴィエの反応を窺う。
 事情を聞いたオリヴィエは難しい顔をし、何やら思い悩むような姿を見せるが、そこに訝しむ様や嫌悪は見られない。

「つまり特定の物を衝撃から守るような魔導具さえ見つかるならここに留まる理由もないと」
「もしくはこの街に探している代物がないとわかれば、ですかね」

 リオの返答に頷きを返しながら、オリヴィエは更に考えを巡らせる。
 クリスティーナ達は何か当てでもあるのだろうかと彼の言葉を待つ。
 やがて考えが纏まったのか、オリヴィエはその顔から迷いを消して三人を見やる。

「あいつから聞いてるなら知っているかもしれないが、それ系統の魔導具は多くない。店にある可能性は低いだろうな」
「はい。ですが可能性が皆無でないのであれば探す価値はあるかと」
「まあ、確かにゼロではないが……そうだな」

 オリヴィエは懐から一通の封筒を取り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~

紅月シン
ファンタジー
 聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。  いや嘘だ。  本当は不満でいっぱいだった。  食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。  だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。  しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。  そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。  二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。  だが彼女は知らなかった。  三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。  知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。 ※完結しました。 ※小説家になろう様にも投稿しています

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽
ファンタジー
学生時代最後のゴールデンウィークを楽しむため、伊達冬馬(21)は高校生の従弟たち三人とキャンプ場へ向かっていた。 途中の山道で唐突に眩い光に包まれ、運転していた車が制御を失い、そのまま崖の下に転落して、冬馬は死んでしまう。 だが、魂のみの存在となった冬馬は異世界に転生させられることに。 「俺が死んだのはアイツらを勇者召喚した結果の巻き添えだった?」 しかも、冬馬の死を知った従弟や従妹たちが立腹し、勇者として働くことを拒否しているらしい。 「勇者を働かせるための餌として、俺を異世界に転生させるだと? ふざけんな!」 異世界の事情を聞き出して、あまりの不穏さと不便な生活状況を知り、ごねる冬馬に異世界の創造神は様々なスキルや特典を与えてくれた。 日本と同程度は難しいが、努力すれば快適に暮らせるだけのスキルを貰う。 「召喚魔法? いや、これネット通販だろ」 発動条件の等価交換は、大森林の素材をポイントに換えて異世界から物を召喚するーーいや、だからコレはネット通販! 日本製の便利な品物を通販で購入するため、冬馬はせっせと採取や狩猟に励む。 便利な魔法やスキルを駆使して、大森林と呼ばれる魔境暮らしを送ることになった冬馬がゆるいサバイバルありのスローライフを楽しむ、異世界転生ファンタジー。 ※カクヨムにも掲載中です

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

聖女の妹は無能ですが、幸せなので今更代われと言われても困ります!

ユウ
ファンタジー
侯爵令嬢のサーシャは平凡な令嬢だった。 姉は国一番の美女で、才色兼備で聖女と謡われる存在。 対する妹のサーシャは姉とは月スッポンだった。 能力も乏しく、学問の才能もない無能。 侯爵家の出来損ないで社交界でも馬鹿にされ憐れみの視線を向けられ完璧を望む姉にも叱られる日々だった。 人は皆何の才能もない哀れな令嬢と言われるのだが、領地で自由に育ち優しい婚約者とも仲睦まじく過ごしていた。 姉や他人が勝手に憐れんでいるだけでサーシャは実に自由だった。 そんな折姉のジャネットがサーシャを妬むようになり、聖女を変われと言い出すのだが――。

門番として20年勤めていましたが、不当解雇により国を出ます ~唯一無二の魔獣キラーを追放した祖国は魔獣に蹂躙されているようです~

渡琉兎
ファンタジー
15歳から20年もの間、王都の門番として勤めていたレインズは、国民性もあって自らのスキル魔獣キラーが忌避され続けた結果――不当解雇されてしまう。 最初は途方にくれたものの、すぐに自分を必要としてくれる人を探すべく国を出る決意をする。 そんな折、移住者を探す一人の女性との出会いがレインズの運命を大きく変える事になったのだった。 相棒の獣魔、SSSランクのデンと共に、レインズは海を渡り第二の故郷を探す旅に出る! ※アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、で掲載しています。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

処理中です...