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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
epilogue-8.取捨選択の先延ばし
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「入れ」
「失礼します」
許可を得て入ってきたのはレミだ。
「ノアが戻ってきているかと思ってお邪魔したんですけど……」
「丁度良かった。この煩わしい生物を持って行ってくれ」
「え、俺のこと!? ひどっ!」
あんまりな言われように異を唱えるノアだが、それに対してはアレットだけではなくレミまでもが冷たい眼差しを向けていた。
「どうせまた先生にうざ絡みしてたんだろ。迷惑を掛けるな」
「俺の言い分聞いてすらくれないの!?」
「あと、レベッカが生徒会室まで来て欲しいって。引継ぎ関係で聞きたいことがあるらしい」
「はーい、行きます行きますぅ」
不服そうなノアの言葉に無視を決め込み、レミは必要な伝達事項だけを淡々と述べる。
その素っ気なさに対し、不貞腐れた様を隠そうともせず口を尖らせている。
移動を急かしながら戸に手を掛けるレミへ続くようにノアは彼の後ろに立つ。
早く行けと蠅でも追い払うかのような仕草で退室を促していたアレットは、二人の弟子が扉を潜る姿を見送った。
しかしその最中、ふと過った考えに対しアレットは思わず鼻で笑う。
その気配に気付いたからだろう。不思議そうな顔をしながら二人が振り返った。
「いや、何。ノアがここまで一人の女子に入れ込むのも珍しいなと思ってな。漸く春でも来たのかと感慨深くなったのさ」
これは長い付き合いだからこそ交わすことのできる冗談の一つだ。先程揶揄われたことの意趣返しにと、アレットは些細な揶揄をノアへと投げた。
女子から寄せられる好意は数多くあるにもかかわらず浮いた話の一つもないノアへ対する軽い皮肉。
その意図を察してか、レミもつられるように笑った。
「先生、ノアが魔法一筋なのは今に始まったことじゃないでしょう。最早魔法が恋人かってくらいそういう話には興味ないし……な?」
こういったやりとりは今までも何度かあった。その度に「煩いなー!」と子供っぽく拗ねる姿を見てきたレミとアレットは今回も同じ様な反応を見せるものだと思いながら喉の奥で笑う。
そしてノアの様子を窺ったのだが、そこで二人の笑い声はぴたりと止まった。
アレットの方を振り返ったままの姿勢で固まるノア。
目を丸くし、数度瞬きを繰り返した彼は少々の時差を伴ってからその顔を赤らめる。
それを合図に、彼の顔は急激に紅潮する。
あっという間に熟れた果実のように赤くなった彼は自分でもどんな顔をしているのかわからないと言うようにぎこちなく口角を引き攣らせて笑った。
「……え?」
「「え……?」」
自分ですら考えが追い付いていないらしく、顔に熱が帯びる現象に困惑するノア。
一方で予想外且つあまりにもわかりやすい反応示されて驚愕のまま呆けてしまうレミとアレット。
三人の声が重なる。
途轍もなく気まずい沈黙がその場を暫く満たしたのだった。
「失礼します」
許可を得て入ってきたのはレミだ。
「ノアが戻ってきているかと思ってお邪魔したんですけど……」
「丁度良かった。この煩わしい生物を持って行ってくれ」
「え、俺のこと!? ひどっ!」
あんまりな言われように異を唱えるノアだが、それに対してはアレットだけではなくレミまでもが冷たい眼差しを向けていた。
「どうせまた先生にうざ絡みしてたんだろ。迷惑を掛けるな」
「俺の言い分聞いてすらくれないの!?」
「あと、レベッカが生徒会室まで来て欲しいって。引継ぎ関係で聞きたいことがあるらしい」
「はーい、行きます行きますぅ」
不服そうなノアの言葉に無視を決め込み、レミは必要な伝達事項だけを淡々と述べる。
その素っ気なさに対し、不貞腐れた様を隠そうともせず口を尖らせている。
移動を急かしながら戸に手を掛けるレミへ続くようにノアは彼の後ろに立つ。
早く行けと蠅でも追い払うかのような仕草で退室を促していたアレットは、二人の弟子が扉を潜る姿を見送った。
しかしその最中、ふと過った考えに対しアレットは思わず鼻で笑う。
その気配に気付いたからだろう。不思議そうな顔をしながら二人が振り返った。
「いや、何。ノアがここまで一人の女子に入れ込むのも珍しいなと思ってな。漸く春でも来たのかと感慨深くなったのさ」
これは長い付き合いだからこそ交わすことのできる冗談の一つだ。先程揶揄われたことの意趣返しにと、アレットは些細な揶揄をノアへと投げた。
女子から寄せられる好意は数多くあるにもかかわらず浮いた話の一つもないノアへ対する軽い皮肉。
その意図を察してか、レミもつられるように笑った。
「先生、ノアが魔法一筋なのは今に始まったことじゃないでしょう。最早魔法が恋人かってくらいそういう話には興味ないし……な?」
こういったやりとりは今までも何度かあった。その度に「煩いなー!」と子供っぽく拗ねる姿を見てきたレミとアレットは今回も同じ様な反応を見せるものだと思いながら喉の奥で笑う。
そしてノアの様子を窺ったのだが、そこで二人の笑い声はぴたりと止まった。
アレットの方を振り返ったままの姿勢で固まるノア。
目を丸くし、数度瞬きを繰り返した彼は少々の時差を伴ってからその顔を赤らめる。
それを合図に、彼の顔は急激に紅潮する。
あっという間に熟れた果実のように赤くなった彼は自分でもどんな顔をしているのかわからないと言うようにぎこちなく口角を引き攣らせて笑った。
「……え?」
「「え……?」」
自分ですら考えが追い付いていないらしく、顔に熱が帯びる現象に困惑するノア。
一方で予想外且つあまりにもわかりやすい反応示されて驚愕のまま呆けてしまうレミとアレット。
三人の声が重なる。
途轍もなく気まずい沈黙がその場を暫く満たしたのだった。
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