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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

97-2.再会の約束

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「残りもあげるわ」
「……えっ!?」
「元々そのつもりで渡したんだもの」
「い、いや、君ねぇ……。優れた品質の魔晶石がこれだけあれば有事の際に必ず役立つんだよ。持って行った方がいいに決まっている」
「必要ないわ」

 説得を試みようとも短く切り捨てられてしまう。
 一ヶ月程の付き合いでしかないが、クリスティーナが一度頑なな態度を取りだせばその決定を覆すのが難しいという事は理解している。故にノアはどうすれば彼女を頷かせることが出来るのかと困り果ててしまった。

 そんな相手の様子を横目で捉えていたクリスティーナは、数秒程無言を貫いた後に口を開いた。

「それが人の役に立てる代物だというのなら、貴方の学びへ役立たせればいいわ」

 一度に使える魔力量の上限が増加すれば、魔法の研究も大きく捗る。
 消費可能な魔力量が増えれば纏まった時間に魔法を何度も使いまわすことが出来る。
 高品質な魔晶石を多く所持するという事はつまり、魔法の研究が捗る要因になり得るという事でもある。

 彼は言った。自身が水属性の魔法しか使えないことによって、納得のいかない評価を受けたことがあると。
 いつか水属性の魔法しか使えない自分自身を好きだと言えるようになりたいと。

 その結果を得る為に必要なこと。それはきっと彼自身が更に自身の魔法の腕を磨くことしかない。
 偏見を振り切り、誰が見ても文句をつける事の出来ない境地を目指すことが彼の目標の一番の近道となるはずだ。

 そして魔力量の問題は彼の進むべき道を阻む障害となる。
 だからこそ、高品質な魔晶石を彼が持つことでその障害のいくつかを取り除くことに繋がるはずだとクリスティーナは考えていた。

「いつか伝えてくれるのでしょう?」

 自分のことが好きだと満足そうに口にするノアの姿。
 それをクリスティーナは見たいのだ。

 直接的な言葉は使わない。
 けれどそれでも、傍らに立つ青年が言いたいことを察することが出来る程に聡いことをクリスティーナは知っている。

 ノアは静かに目を見開き、クリスティーナの姿をその瞳一杯に捉える。
 そして込み上げる感情を堪えるように深々と息を吐いた。

「……わかったよ。なら君の言葉に甘えて、これは貰っておこう」
「ええ」

 元より魔晶石を作る為の素材はノアが用意した物なのだ。
 それに加えて無償でクリスティーナ達へ付き合ってくれた彼の報酬としては不十分だろうが、それでも多少の礼としては機能するだろう。

 ノアは再び小包を懐へしまい込んでから、目先に広がる街並みに目を細めた。
 都会特有の所狭しと建物が立ち並ぶ様は数メートル先で終わりを告げている。
 その先は首都の中心部から外れるようで、店はまばらに配置される程度。今まで通り過ぎた街並みより閑散とした印象を受ける光景が広がっていた。

「この先を進めばグロワールを抜ける。一先ずは徒歩で移動しつつ、グロワールから地方へ戻る商人の馬車を見かけたら同行を申し出てみるといい。上手くいけば時間短縮になるはずだ」
「本当に色々とお世話になりました」
「ありがとな」
「いいんだよ。俺が好きでやってることなんだから」

 リオとエリアスの礼にノアが首を横に振る。
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