悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

90-3.魔法史の雑学

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「先代聖女によって選ばれた『勤勉』の従者が存命だった場合、新たな聖女は『勤勉』の従者を選ぶことが出来ない……六人にしか力を授けることが出来ないということですね」

「そう。まああくまで一説によると、くらいの豆知識だけどね」

 黙々と読書に勤しんでいたはずのリオはどうやらクリスティーナとノアの会話にも耳を傾けていたようだ。
 読書と会話を器用に同時進行させている従者の言葉にノアは頷いた。

「あとは、聖女の従者は実は六人しかいないんじゃないか、とかね」
「本当なの?」
「諸説あるよ。ただ、俺個人としては全然あり得る話だなと思ってる」

 童謡でも当たり前のように七人と定義付けられていた従者の人数が違う可能性。その話に食いついたクリスティーナの様子を見てノアは得意げに笑みを深める。

「どんな書物を漁っても『純潔』に関する記述が少なすぎるんだ。聖女や他六人の生い立ちや魔王軍との戦いの後のことは少なからず残っているんだけど、彼についてはその辺りが抜けている」

 クリスティーナは昔よく聞かされていた聖女についての童謡を思い浮かべる。
 そして言われてみれば確かにそうかもしれないという結論に至ったのだ。

 他の従者達の突出した才に関しては童謡の中ですら語られる。しかし『純潔』についての印象は無と言っていい程に薄かった。

「まあ歴史書によると、彼は誰の目にも止まることのない速度の剣捌きを得意としていたようだし、実は誰も見えないようなものを文字に残しようがないっていうだけの理由なんだったとしたら、めちゃくちゃかっこいいなって思ったりもするんだけどね」

 従者の数が自分達の認識と合わない可能性。
 他者へ力を授ける能力とやらの詳細もわからない現状ではまだまだ先の話かもしれないが、この旅路の先、戦力が集まってきた才に従者が七人揃わない可能性を思い出せるよう、頭の片隅に置いておいた方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、ふとノアが小さく笑いを零す。
 何がおかしいのかと問うように彼へ視線を向ければ、ノアはクリスティーナの正面を指さした。

 彼女の正面に座っているのは紙にペンを走らせていたレミだ。
 しかしその手も今や止まっており、その代わりにと彼は静かに舟を漕いでいた。
 肩肘をついた状態でこくこくと上下する頭と、無防備な寝顔。

 昨晩のやり取りを思い出しながら彼の顔をよくよく観察してみれば、目の下にうっすらと隈が刻まれていることに気付く。
 もしかしたらあの後も上手く寝付けなかったのかもしれない。

 一方でノアはクリスティーナの傍から離れ、静かにレミの後ろへと回り込む。
 そして背凭れに掛けられていたローブを彼の肩に掛けてやるとその隣の席へと腰を下ろした。

「もう少し話してよっか」
「構わないわ」

 レミの寝顔を覗き込みながらノアがもう暫くの滞在を提案する。
 彼の眠りを妨げないようにという気遣いだろう。
 クリスティーナとリオは息を潜めて話すノアの雑学に耳を傾けながら時間を過ごした。
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