悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う

千秋颯

文字の大きさ
上 下
289 / 579
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

90-2.魔法史の雑学

しおりを挟む
 何をせずとも備え持った力によって身勝手に評価され、寄せられる期待。美化された自分という存在。
 クリスティーナが目にした記述。正確に言えばその全てが初代聖女を讃えたものなのだが、同じ能力を備えた者として同様の感情を他者から向けられる可能性が低くはないという事実に辟易してしまう。

 生憎と、クリスティーナは歴史書に描かれているような清廉潔白な存在ではない。
 自らに有益でない選択を取るつもりはないし、今となっては他者の為に無理に自身を押さえ込むつもりも、聖女という立場を理由に義務感を背負うつもりも毛頭ない。

 しかし本人の意思と関係なく寄せられるだろう聖女に向けた強い思い。それを認識してしまったクリスティーナは胸焼けしそうな心地がした。

 悶々とした気持ちを抱えながら新たに本を開くも文字列に集中することは出来ず、ページを捲ることもせずに暫し呆けることとなる。

「魔族について調べてるの?」

 そんなクリスティーナの耳を突如として穏やかな声が擽った。
 リオのものでもレミのものでもない声に驚き、クリスティーナは咄嗟に声がした方角へと振り向いた。

「やあ」

 視界に入るのは静かに揺れる白い生地。
 相手の目が自分の存在を捉えたことを察知してから、ノアは片手を挙げた。

「ごめんよ、急にいなくなったりして」
「……いいえ」

 不意を衝かれ、早まる心臓の動きを感じながらクリスティーナは冷静さを取り繕った。
 一方で驚かせた当の本人はそんなクリスティーナの動揺に気付いた様子もなく、開かれていた本を後ろから覗き込む。

「昨日の件があったから気に掛けてる? どれともこの辺の年代の歴史に興味があるとか?」
「どちらも、かしら」
「そっか。俺も聖女様の話とかは結構好きなんだよね」

 お揃いだとノアは無邪気に笑みを零す。

「一時期それ関連の本を結構な量漁ったことがあってね。史実でも創作でも、冒険ものとかは読んでいて心が躍るよね」

 彼はぱらぱらとほんのページを捲り、目に留まった文を気まぐれに読み始める。
 視線を本へ向けながらも、潜めた声で彼はお喋りを続けた。

「ちょっとマイナーな話とか雑学程度の補足も出来ちゃうくらいには嵌ってたなぁ」
「例えば?」
「聖女の従者である七人も聖女同様に、同じ世に二人以上が同時に存在することはない。とかね」

 例えば、と彼は人差し指を立てる。

「聖女が亡くなっても従者達は彼女から授かった力を行使し続けることが出来る。そして先代聖女によって選ばれた従者が生きていた場合には新たな聖女が選ぶことのできる従者の数は更に制限される。そういうルールがあるのでは? という説がある」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

半分異世界

月野槐樹
ファンタジー
関東圏で学生が行方不明になる事件が次々にしていた。それは異世界召還によるものだった。 ネットでも「神隠しか」「異世界召還か」と噂が飛び交うのを見て、異世界に思いを馳せる少年、圭。 いつか異世界に行った時の為にとせっせと準備をして「異世界ガイドノート」なるものまで作成していた圭。従兄弟の瑛太はそんな圭の様子をちょっと心配しながらも充実した学生生活を送っていた。 そんなある日、ついに異世界の扉が彼らの前に開かれた。 「異世界ガイドノート」と一緒に旅する異世界

処理中です...