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第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』

83-3.オーケアヌス魔法学院

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 入った先、目に留まったのは壁一面を覆う本棚と大きな書斎机、そして棚に収まりきらなかったらしい書物達が机や床といった至る所に平積みされている。

 無数の紙や本、それらはどれも素人が一見しただけで難解なものであるとわかる代物ばかりだ。

 積み上げられた本が死角となり、机の先を見ることはできないが紙の上を筆が踊る音が持続的に聞こえてくる為、この部屋の主が書き物をしているということは予測がつく。

 入室から数分、入口前で立たされているクリスティーナとリオはどうしたものかと互いに視線を交わせる。

 入室後少し待つようにと告げてから一切発言をしない部屋の主。そしてクリスティーナ達の足元では正座の姿勢から腰を折り、深々と頭を下げるノアの姿があった。
 彼は額が床と癒着しているのではないかというほどの角度を保ちながらこの数分間その姿勢を維持している。

 見慣れない奇妙な体勢に対しクリスティーナが怪訝そうに顔を顰めたのも入室直後の話だ。
 数分経った今となっては滑稽な格好をしている男とそれを無視し続ける相手という気まずさしかない空気に対する困惑の方が大きい。

 そのことに対しため息を吐こうとしたところで丁度筆の音が止まった。
 そしてクリスティーナの代わりに机からため息が吐かれたかと思えば、アレットは漸く口を開いた。

「そこの珍妙な格好をしている奴をなんとかしてくれないか」
「これは全身全霊の謝辞を示すポーズだよ、先生! 有名なかの海洋国家ではこれが最敬礼とされていると文献には記されていて……」
「わざわざ異国の文化で謝罪する奴を見てふざけていると捉えない方が無理な話だとは思わないか?」
「…………ごめんなさい! だってアレット先生の怒ってるとこを想像したら顔見れなくて……」

 情けない格好のまま素直に非を認める弟子の返答にアレットは再び息を吐く。
 次いで椅子の軋む音がしたかと思えば、ローブを纏った少女が机の脇から姿を見せた。

 金髪に碧色の瞳をフードの下に隠した、幼子のような姿の魔導師。その顔は人形のように精巧で、美しくもどこか厳しい印象を抱く造りだ。その背丈が成人女性のようであれば纏う空気が更に冷たく感じたかもしれない。

 クリスティーナは彼女を静かに観察する。
 背丈や顔立ちが年端も行かぬ少女のように見えるものの、その振る舞いや落ち着いた声音、言動などは随分と大人びている。見た目と振る舞いがちぐはぐで不思議な雰囲気を漂わせる魔導師だ。
 その胸元には煌びやかで品のあるブローチが付いている。それにあしらわれているのは何らかの紋章。恐らくは魔術師としての地位を示す類の代物だろう。

「お前を叱るのは後だ。先に本題を片付けよう」

 自分の背丈とさほど変わらない杖を片手に、アレットは無表情で告げた。
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